連鎖するリスク――米イラン制裁再開が導く“核開発”と“原油高” <コモディティ特集>

特集
2018年5月9日 13時30分

―トランプ大統領「最高水準の経済制裁」宣言、原油価格上昇はこれから―

●イランへの制裁再開で原油生産量は減少、その影響は

米国はイランの核開発を制限する6カ国合意から離脱することを表明した。トランプ米大統領は「現行の崩壊し腐敗している合意内容ではイランの核爆弾の開発を妨げることができないことは明らかである」、「イラン核合意には欠陥がある」と述べたうえで、最高水準の経済制裁をイランに課すとした。

米財務省はイランに関与する企業に対して90日または180日の猶予を設けた。90日後、イランによる米ドルの購入や取得が制限され、金融・金属・自動車・航空機産業など幅広いセクターで制裁が始まる。180日後には石油関連の制裁が開始される。核開発を停止する合意が得られるまで制裁を継続する。

ムニューシン米財務長官は、イランの原油生産量が制裁で減少するとしても、減少分は他の産油国が補い、 原油価格が大幅に上昇する可能性は低いとの認識を示した。日量380万バレル超のイランの原油生産量がどこまで減少するのか予断を許さないが、2015年までの制裁によってイランの原油生産量が日量300万バレル程度まで減少したことからすると、減少幅は日量80万バレル程度という想定が成り立つ。この程度であれば、主要な産油国が補うことはたやすく、今回の米国の発表による原油相場への直接的な影響は限定的といえる。

●核合意は米国抜きで継続するも、イラン経済不安定化で今後に懸念

イランのロウハニ大統領は米国抜きで核合意を継続する意思があることを表明している。英独仏の3カ国は米国によるイラン核合意の離脱表明について共同声明を発表し、米国の決定に対し遺憾の意を示した。ドイツのマース外務相はこの合意の存続を目指すと述べている。トランプ米大統領はイランと再交渉する用意があるとしているものの、一方的に合意を破棄した米国に対して、イランは再交渉を否定している。

いまのところ、イランはウラン濃縮を準備するとしているものの、工業用であるとしており、米国を挑発するような核爆弾の開発には言及していない。欧州諸国と連携し、中東の和平を維持する構えである。

ただ、イランは経済的な活路を見出して行かなければならない。制裁開始前から低成長・高インフレ、高失業率、イラン・リアル安という悪材料が揃っているなかで、90日後から経済制裁が始まり、180日後には生命線である原油に対する制裁が行われることから、イランの景気悪化は不可避である。イラン経済が疲弊していく過程で国民の批判が強まり、国内情勢が荒れることは必至か。将来的にイラン経済が一段と不安定化し、苦境から抜け出すための交渉の突破口として軍事利用を含めた核開発に動くのではないか。欧州諸国と中東和平を維持しようとしても、米国とできるだけ対等に協議を行おうとするならば、過激な選択肢はいずれ必然的に浮上する。

トランプ米大統領がイラン核合意の放棄を発表した後、ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物相場で、期近6月限は70ドル付近にとどまっている。この節目から一段高となっておらず、中東情勢の不透明感が大きく変化していないように見えるが、中東情勢はイランを中心に悪化していく見通しである。米国の決定が原油価格に現れてくるのはこれからだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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