検証・トルコショックの“落ち着き処”、波乱は一時的の見方も <株探トップ特集>

特集
2018年8月14日 19時30分

―急落はトルコ固有要因、世界経済への影響限定的か―

「トルコショック」に世界の金融市場が揺れている。米国との関係悪化を背景にトルコの通貨「リラ」が急落。このリラ安を契機に前週末から世界の金融市場は波乱状態に陥った。トルコ懸念に伴う欧米株安を背景に13日の 日経平均株価は急落した。しかし、14日の株価は一転急反発するなど目まぐるしい状態が続く。トルコショックは金融市場に今後も影響を与え続けるのか、それとも「真夏の出来事」として一時的要因に終わるのか。

●トルコ不安が世界連鎖株安に波及、米経済制裁受けリラ急落

市場関係者の関心が「トルコ」に集中している。かねてから下落基調が続いていたトルコの通貨リラは、今月に入り急落。今月1日の1ドル=5.0リラ前後が13日には一時、7.0リラ前後まで売り込まれた。

トランプ米大統領は、トルコが拘束する米国人牧師の即時解放を要求していた。しかし、これをトルコが拒否すると、米国は今月1日にトルコの2閣僚への制裁を発表。4日にはトルコのエルドアン大統領も対抗措置を発表すると、さらにトランプ大統領は10日に同国から輸入する鉄鋼、アルミニウムへそれぞれ50%、20%の追加関税を課すと発表した。

この米国とトルコの関係悪化を背景に 通貨リラは急落した。さらに、トルコへの融資が懸念され欧州の銀行株が下落。この欧州株安がNY株安につながり、13日には日経平均株価が440円安と急落する世界連鎖株安に陥った。ただ、14日の東京市場で日経平均株価は一転498円高と急反発するなど慌ただしい展開が続く。市場には「トルコ中央銀行の流動性供給策などを背景にリラが下げ一服となり安心感が広まった」との見方が出ていた。

●焦点は「米国との関係改善」「トルコ中銀利上げ」

今回のトルコショックに対して、第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは「トルコは高インフレ・経常赤字国であり、通貨リラは売られやすい状況にあった」と指摘する。ただ、南アフリカやブラジルなど同様な高インフレ・経常赤字の新興国があるなかでトルコの通貨リラが売られた理由としては「トルコ固有の要因がある」と言う。

具体的には「米国との急速な関係悪化」が懸念された。また、エルドアン大統領は景気悪化につながる金融引き締めを嫌って利上げを拒んでおり「中央銀行の独立性がない」ことが投機筋のつけ込む要因となった。脆弱な経済基盤に加え、米国からの制裁による影響が懸念されるうえに、通貨防衛の利上げは見送られていることがリラ売りに拍車をかけたという格好だ。また、トルコは民間のドル建て債務が短期間に膨張しており、リラの下落はドル建て債務をさらに膨らませることも懸念された。

このリラ安は他の新興国通貨安を呼び込んだが、トルコの固有要因による部分も少なくないだけに「ドミノ倒し的な新興国通貨安に陥ることは、それほど考えなくていいのではないか」と藤代氏はみる。

●薄商いのなかヘッジファンド暗躍、動揺は徐々に終息の可能性も

フィリップ証券の庵原浩樹リサーチ部長も「足もとの通貨安はトルコの個別要因の面が大きいと思う」と言う。さらに「夏休みの真っただ中で商いが細るなか、ヘッジファンドの仕掛け的な動きもあったのではないか。多くの新興国は過去の通貨危機を経て対策を取っているはずであり、新興国通貨の連鎖安の懸念は小さい」と指摘する。

「米国との関係改善」と「トルコ中銀の対応」という課題に関して、上田ハーローの山内俊哉執行役員は「エルドアン大統領の発言から利上げの実施は見通しづらいが、米国との関係改善の努力は進められるだろう。この米国との関係改善が評価され、足もとではトルコリラは戻ってもおかしくない」とみる。また、藤代氏は「トルコの状況は数ヵ月かかるかもしれないが、徐々に落ち着いていくのではないか」と予想する。

さらに、庵原氏は今後の米国市場の動向についても触れ「直近のNYダウはトルコ問題に加えて半導体株安が下落の原因となった。ただ、16日に予定されているアプライド・マテリアルズやエヌビディアなどの決算内容次第で半導体株は戻ってもおかしくない。トランプ米大統領は今後、追加減税を実施することも予想されるだけに、米株式市場は再び上昇基調に戻ることも見込める」とみている。

依然、状況に不透明部分は多いものの、市場には「トルコ要因だけなら世界経済へ与える影響は限られる」との見方は少なくない。当面、トルコ懸念は尾を引きながらも、イタリアやスペイン、ブラジルなどと同様に世界経済の脆弱要因の一つに戻る展開も予想される。

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