金はリスク回避で堅調、米中貿易戦争への警戒が再燃 <コモディティ特集>

特集
2018年12月12日 13時30分

―米利上げ休止・EU“無秩序”離脱観測も支援要因に―

の現物相場は12月に入り、リスク回避の動きなどを受けて堅調に推移し、7月11日以来の水準となる1,250.39ドルをつけた。米中両国は1日の首脳会談で貿易戦争の休戦で合意したが、90日間の通商協議で合意に達するのは難しいとみられ、株式市場ではリスク回避の動きが強まった。また、米5年債の利回りが3年債や2年債を下回り、逆イールドとなると、景気減速が懸念されて株価は急落した。さらに、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・最高財務責任者(CFO)が逮捕されたことで、いったんは沈静化した米中の貿易戦争に対する警戒感も再燃した。ただ、予想を下回る 米雇用統計などを受けて来年の米連邦準備理事会(FRB)の利上げ休止観測が強まっており、 ドル安に振れると金は堅調に推移するとみられる。

●金は米中の通商協議などが焦点

1日の米中首脳会談では、対中追加関税を一時的に見送り、90日間の通商協議を開始することで合意した。ただ、90日以内に合意できなければ、米国は対中関税を25%に引き上げる。これまでの交渉が難航してきた経緯から、市場では今後の協議に対して懐疑的な見方が強い。加えて、ファーウェイCFOの逮捕により先行き懸念がさらに高まる格好となった。同CFOは米国の対イラン制裁に違反した疑いで逮捕された。ただ、中国国営メディアは、同CFO逮捕を批判しているものの、米国との貿易交渉には関連づけていない。ファーウェイ問題が、米国との貿易交渉に悪影響を及ぼすのを避けたいとの意向滲む。

11月の中国の貿易統計で輸出入が事前予想を大きく下回っており、貿易戦争が長期化すれば、中国経済はさらに悪化することになる。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、米中の通商協議は2月末までに成功裡に終わる必要があると述べ、そうでなければ新たな関税を課すと強調している。技術移転の強要や知的財産権保護、非関税障壁、サイバー攻撃、サービスや農業分野と協議する項目は幅広く、まとまるかどうかが今後の焦点となる。

一方、ダウ平均株価は10日、5月4日以来の安値2万3,881ドルをつけており、協議がまとまらなければ米国の景気後退も意識されるとみられる。

11月の米雇用統計は、非農業部門の雇用者数が15万5,000人増と前月の23万7,000人増から鈍化し、事前予想の20万人増を下回った。時間当たり平均賃金の伸びは前月比0.2%と前月の0.1%から拡大したが、事前予想の0.3%を下回った。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のフェドウォッチによると、米短期金利先物市場で来年12月のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の確率は2.25~2.50%が41.9%(前週22.3%)、2.50~2.75%が32.8%(同38.2%)となった。18~19日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で現在の2.00~2.25%から利上げしたのち、来年は金利据え置きの見方が強まった。来年は欧州中央銀行(ECB)の利上げが意識されると、ドル安に振れやすくなり、金の支援要因となる。

●英国のEU離脱の行方も確認

メイ英首相が、11日に予定していた欧州連合(EU)離脱案の議会採決を延期すると発表し、合意なき離脱に対する懸念が高まった。英首相がEUと合意した離脱案は英議会で否決されるとみられている。トゥスクEU大統領は、EUは13~14日に開く首脳会議で英国のEU離脱が議題として取り上げられることを明らかにしたが、離脱合意案の再交渉は行わないと言明した。

イングランド銀行(英中央銀行)の報告書では、英首相のEU離脱計画が議会の承認を得られず無秩序な離脱に至る場合、英経済は少なくとも第2次世界大戦以降で最悪の不況に陥る恐れがある、と警告している。ポンド主導でドル高に振れたが、金融市場の混乱に対する懸念が強まると、金に逃避買いが入る可能性がある。

●NY金市場でファンド筋の買い越しが急拡大

金の内部要因では、ニューヨーク先物市場でファンド筋の買い越しが急速に拡大した。米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、12月4日時点で大口投機家はニューヨーク市場で金先物を4万9,001枚買い越し、前週の1,871枚から急速に拡大した。今回は新規買いが1万6,240枚、買い戻しが3万0,890枚と買い戻し主導となったが、今後の「ドル安・株安」見通しが強まると、新規買いが入るとみられる。

一方、世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は12月11日時点で760.321トン。米中首脳会談での合意を受けて758.214トンに減少したが、リスク回避の動きを受けて前週末から投資資金が戻った。米中の通商協議に対する懸念もあり、金は株安に対するヘッジとして引き続き買われる可能性がある。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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