“飾り”にすぎぬ原油減産合意、交錯する米ロの圧力とリセッション懸念<コモディティ特集>

特集
2018年12月19日 13時30分

今月行われた石油輸出国機構(OPEC)総会では、ロシアなど非OPEC加盟国を含めて日量120万バレルの減産で合意に至った。イランやベネズエラ、リビアは減産が免除された。ただ、各国の減産の割当は明示されておらず、曖昧な減産合意として不信感を持たれている。

●実現性が疑問視される減産合意

今回の合意に基づき、来年1月から6ヵ月間にわたって各国が減産を行うが、今年10月の生産量を基準として各国がどれだけ減産すべきか定められていない。抜け駆けの増産がありえることから、合意の実現性が疑問視されている。従来のようにOPEC加盟国と非OPEC加盟国による共同閣僚監視委員会(JMMC)が減産を監視するものの、各国がごく小規模な減産しかしないようならば、合意達成は難しい。全体的な減産規模を重視するあまり、細かな枠組みが軽視されたようにみえる。

●イランやベネズエラの減産を見越して規模は十分

ただ、2017年から始まった協調減産の規模が日量180万バレル程度だったことからすると、過剰な石油在庫の積み上がりを抑制しようとする今回の減産は規模として十分と思われる。米国の制裁や経済危機によって追い詰められているイランやベネズエラは今後も減産するしか道がなく、時間の経過とともにOPECプラス全体の減産規模は拡大していく。米国の制裁開始前である今年4-6月期、イランの生産量は日量381万8000バレルだったが、11月は同295万4000バレルと半年足らずで同86万4000バレルの減産を強いられた。2016年のベネズエラの生産量は日量215万4000バレルで、今年11月の同113万7000バレルと比べるとほぼ半減している。

2019年開始の新たな協調減産は、ベネズエラやイランの減産によって規模が拡大する。米国はイランに対する石油制裁を一時緩和しているが、各国に対して来年5月までにイランとの石油取引をゼロにするよう要求しており、トランプ米大統領が対イラン制裁を従来の予定通り完全に実施するならば、イランの強制減産はこれからが本番だといえる。

●景気動向を確認しながら減産合意を運用する意図か

国際エネルギー機関(IEA)は来年にかけて石油需要の伸びが減速するとは想定していない。今年の石油需要の伸びは前年比で日量130万バレル増、来年は同140万バレル増と見通している。ただ、中国、ユーロ圏、日本など、世界的には明らかに景気減速の兆候があり、石油需要には下振れ懸念がつきまとっている。主要国の株価指数は下向きであり、景気を楽観視できない。米中貿易戦争の落とし所が見えないなかで、これまでのように米経済の堅調さが損なわれないと想定するのは安易な判断である。

2019年の需要や供給には例年以上の不透明感がつきまとっている。OPECプラスによる今回の減産合意には、イランやベネズエラの生産減少を考慮に入れているわけであり、規模的には石油需要の下振れ警戒感がかなり強いといえる。一方で、世界的な景気動向を確認しつつ、減産合意の達成率を加減する意図が見えなくもない。世界経済が景気減速局面からリセッションに入るようならば合意の範囲内で減産を十分に行い、そうでなければ減産の手綱を緩めるような運用が想定されているのではないか。 原油価格を低水準に抑制するよう要請していたトランプ米大統領に対する配慮として、合意に曖昧さが盛り込まれたという見方も可能である。

●原油価格は低迷も下支えのシナリオ

サウジやロシアが米国の要請を遠回しに受け入れ、世界経済の減速を阻止しようとするなら、OPECプラスが減産合意を実直に履行することはないと思われる。景気動向次第だが、日量120万バレルの減産合意はただの飾りではないか。この想定が正しいなら、原油価格は低迷を続けると思われる。ただ、OPECプラスにとって守らなければならない水準はあり、反転はさせずとも下支えは行われるだろう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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