コラム【新潮流2.0】:盤根錯節(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)

経済
2019年5月22日 9時43分

◆銀行や証券会社でノルマを廃止する動きが広がっている。バブルまっただ中に入社した当方からすると隔世の感がある。当時はノルマ達成のため夜遅くまで営業に励んだものだ。それでも僕のいた会社は業界2番手だったのでまだ甘いところがあった。ノルマ証券と揶揄された業界最大手の「ガリバー」に勤めていた知人から聞いた話では、深夜零時を過ぎても客先に営業の電話をかけることがあったという。当然、お客は激怒する。話を聞いてもらえるはずはなく、「いったい何時だと思ってんだ!」「二度と電話してくるな!」と電話をたたき切られる。 それでも、怒鳴られても罵られても電話をかけ続けていると、100件にひとりくらいは、「こんなに遅くまで大変だね~」と言って成約してくれたというから驚きである。

◆もちろん現在はそのような営業は許されないし、いや、当時だってアウトである。過酷なノルマ営業を是とするつもりは毛頭ない。でも、数字に対するこだわりは大事だと思う。ノルマは相当なプレッシャーだ。しかし、それを与えられた試練と捉え克服することで人は成長する、という面もある。先年亡くなった作家の津本陽氏が松下幸之助翁の言葉としてこんな話を紹介している。

◆「ある町が水害で、すべてを流出した。隣町は何の被害もなかった。10年後、被害を受けた町は例外なくすべて発展している。火事で全部燃えてしまった町も同様である。これも全部発展している。災害を受けなかった町は、発展しない。恵まれたと思ったところは、実は恵まれていない。悲惨な状況に突き落とされた町が、10年後には数倍の発展をする。これは何が原因であるか。私は心の問題であると思う。これは復興しなければならないという、人々の心の働きによって変わってくる。悲惨な被害が、その後の発展の起因となる。」

◆米国が中国からの輸入品の関税を引き上げた。日経新聞の分析によれば米中貿易戦争は中国側の打撃が大きいという。確かに今はそうかもしれない。しかし、今後数年をかけて中国はこの試練を克服しようとするであろう。関税分を跳ね返すべく生産性の向上に取り組むだろう。彼らには、精神論や根性論だけでなく、論文発表数世界一のAI技術という武器もある。試練は人を、企業を、そして国家を鍛える。過保護はその対象をスポイルするのと正反対である。今後数年間で中国企業の淘汰は益々進むだろう。 その過酷な生存競争を、試練を、克服して勝ち残った企業は真の強者となる。おそらく日本企業が束になっても敵わないだろう。

◆「後漢書」によれば、虞く(言ベンに羽)という人物が、叛乱が頻発している地方の長に任命され鎮静に向かわせられることになった。友人たちは戦死するかもしれないと心配したが、彼は笑ってこう言った。「盤根錯節に遇わずんば、何をもって利器を別(わか)たんや」。曲がりくねった根や、入りまじった節とかに合わなければ、鋭い刃物の値打ちはわからない。そこから、人の真価は困難に直面して初めて分かるという意味に転じた。中国の人には彼のDNAが脈々と受け継がれていることだろう。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆

(出所:5/20配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)

《HH》

提供:フィスコ

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