サウジ攻撃は中東戦争の狼煙となるのか、原油は三角保ち合い上抜け <コモディティ特集>

特集
2019年9月18日 13時30分

14日、サウジアラビアの中核的な原油処理施設が複数の無人機による攻撃で爆破・炎上した。攻撃されたのは首都リヤド東部のアブカイクとクライスで、日量で約570万バレルの原油処理が停止した。

減産幅は世界全体の原油消費量の約5%と大規模だったが、17日にはサウジのアブドルアジズ・エネルギー相が、攻撃を受けて減少した生産量は9月末までに完全に回復するとの見通しを示し、供給ひっ迫懸念がしぼんだ。ただ、今回の攻撃でサウジの石油生産施設の脆弱性があらためて露見したことは中東産原油のリスク・プレミアムを高めた。

●疑われるイランの関与

イエメンの親イラン武装組織フーシ派が10機のドローンでサウジを攻撃したと犯行声明を出した。ただ、サウジ南部のイエメンからアブカイクやクライスまでかなり距離があり、イランやイラクから攻撃が行われたと疑われていることは、中東で武力衝突が発生する可能性を示唆する。

ポンペオ米国務長官はイエメンから攻撃が行われた証拠はなく、イランが関与したとの認識を示した。トランプ米大統領はポンペオ米国務長官の判断に同意すると述べており、米国は臨戦態勢に入っている。誰の攻撃だったのか、米国はサウジアラビア政府の検証作業を待って対応する方針である。

●攻撃は原油相場を刺激

サウジが攻撃を受けたことは、こう着していた原油相場に流れを与えるきっかけとなった。ニューヨーク市場でウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)は昨年10月以降の三角保ち合いから上放れており、原油高の継続を意識させる。米国とイランの首脳会談がまもなく行われそうな雰囲気は一瞬で消失し、イラン攻撃の機運が高まっていることは相場を刺激する。

●サウジ心臓部付近への攻撃

サウジはこれまでイエメンからの弾道ミサイルやドローンによる度重なる攻撃を防いできた。完全に防衛してきたわけではないが、ミサイルやドローンはほぼ迎撃され、大規模な被害は発生していなかった。

ただ、今回に関しては状況が全く異なる。爆破・炎上したのはクライスとアブカイクの石油生産施設であり、産油大国サウジアラビアの心臓部であるガワール油田がこの付近に位置している。世界最大のガワール油田が標的とならなかったことは不幸中の幸いであるが、今回の攻撃の首謀者はサウジアラビアの中枢を確実に射程圏内に入れ、甚大な被害を与えるだけの軍事力を持っている。クライスから首都リヤドまでは約130キロしか離れていない。米当局者は無人機だけでなく巡航ミサイルによる攻撃が含まれていたと指摘している。

●軍事衝突はあるのか

今後の最大の焦点は、中東で武力衝突が発生するかどうかである。関与が明らかとなった国は米国の攻撃対象となるだろう。現場検証の結果、サウジがイランを名指しすると中東戦争は避けられないのではないか。報復なしでは済まされない。ただ、イランの関与が明らかとなったところで、ロシアの後ろ盾があるイランを誰が攻撃するのか。今週16日にプーチン露大統領とイランのロウハニ大統領はトルコで首脳会談を行っている。石油輸出国機構(OPEC)プラスを舵取りするサウジとロシアが間接的に軍事衝突を開始するとは想像できない。

ペルシャ湾を挟んでイランとサウジにミサイルが飛び交うにしても、米国の制裁を受けているイラン以上にサウジにとっては失うものが多すぎる。燃え盛った石油施設の映像とは裏腹に、残るのは異例の緊迫感と中東産原油のプレミアムだけなのではないか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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