調整局面の「金」、対中摩擦で米景気懸念が強まれば支援要因に <コモディティ特集>

特集
2019年10月9日 13時30分

金の現物相場は9月以降調整局面を継続し、10月に入ると8月6日以来の安値1459.24ドルを付けた。ただ、米経済指標の悪化を受けて景気減速懸念が高まると安値を買い拾われ、1500ドル台を回復する場面も見られるなど底堅い値動きとなった。

9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利下げが決定されたが、金融当局者の意見は分かれ、今後の利下げに対する見方は後退した。しかし、米中の貿易摩擦を受けて世界経済の見通しが悪化しており、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は追加利下げの可能性を残した。

目先は10~11日の米中の閣僚級の通商協議の行方が焦点である。次官級の協議が始まるなか、中国が複数の部分で合意と伝えられたが、トランプ米大統領は部分的な合意は望むものではないとしており、先行き不透明感が残っている。

米国の強硬姿勢から合意できず、15日に延期された2500億ドルの中国製品への関税率引き上げが発動すれば、貿易摩擦に対する懸念が高まり、金の支援要因になるとみられる。ただ、中国は米国産大豆の購入再開などで歩み寄りの姿勢を見せており、関税率引き上げが見送られれば、リスク選好の動きが金の圧迫要因になる可能性がある。

●弱気の米経済指標で年2回利下げの見方も

9月の米ISM製造業景気指数が47.8と2009年6月以来、米ISM非製造業総合指数(NMI)は52.6と2016年8月以来の低水準となり、米国の景気減速懸念が高まった。

CMEのフェドウォッチでは、米短期金利先物市場で米FRBが9月に加え12月にも利下げする可能性を織り込んだ。しかし、9月の米雇用統計で失業率が3.7%から3.5%に低下し、約50年ぶりの低水準になると、米FRBの利下げ観測は一服した。

ただ、雇用統計では製造業部門の雇用者数が前月から2000人減少し、3月以来のマイナスとなった。米中の通商協議で合意できずに関税率が引き上げられると、貿易摩擦から製造業が一段と減速する可能性が出てくる。

10月のフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標水準の確率は7日時点で1.50~1.75%への利下げが73.2%(前月59.6%)、12月は1.50~1.75%に据え置きの確率が50.6%(同46.3%)となっている。

●英国のEU離脱の行方も焦点

英国の欧州連合(EU)離脱問題は、離脱期限を10月末に控え、引き続き先行き不透明感が強い。英議会で10月19日までに新たなEU離脱案が承認を得られない場合、2020年1月31日まで離脱延期をEUに要請することを義務付ける法案が可決された。

最大の障害となっているアイルランド国境管理を巡る「バックストップ(安全策)」について、ジョンソン英首相は、検問所を置かず、国境検査を省略する規制ゾーンを提案したが、EUとアイルランドは英国の譲歩がなければ合意は難しいとしている。

英首相はEUが提案に応じなければ、月末の期日に合意なき離脱を行うと述べている。マクロン仏大統領は、EU側は今週末にも回答できるだろうとの見方を示しており、まとまるかどうかを確認したい。

英財政研究所は合意なき離脱の場合、英国経済は後退し、英政府の借り入れが想定の倍となる約1000億ポンドに増加するとの見通しを示した。金融市場の混乱につながると、金に逃避買いが入るとみられる。

●NY金先物市場でファンド筋の買い越しは過去2番目の高水準

金の内部要因では、米中の貿易摩擦や米FRBの利下げ見通しを受けて逃避買いが入り、金ETF(上場投信)残高が増加するとともにニューヨーク金のファンド筋の買い越し幅が過去2番目の高水準に拡大した。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は10月7日時点で923.76トンとなり、1ヵ月前の889.75トンから34.01トン増加した。

米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは9月24日時点で31万2444枚に拡大し、過去最高となった2016年7月の31万5963枚に次ぐ高水準となった。その後手じまい売りが出て10月1日時点で26万8993枚に縮小したが、米国の景気減速懸念が高まっており、安値を買い拾う動きが続くとみられる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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