コロナ禍の権威失墜【フィスコ・コラム】

市況
2021年1月10日 9時00分

コロナ禍の世界経済への打撃は甚大ながら、最小限に抑えられている国もあります。タイもその1つと言えるでしょう。ただ、格差の拡大を背景にこれまでタブー視されてきた王室批判が強まっており、社会の安定を維持できるか注目されます。

タイ中央銀行は昨年12月23日に開催した定例会合で、国内経済は回復傾向が続くものの、不透明感が根強いとし、5会合連続で政策金利0.50%の据え置きを決めました。また、2020年の国内総生産(GDP)成長率については9月時点の予想ほど悪化していないとして、-7.8から-6.6%に上方修正。ただ、21年は+3.6%から+3.2%に下方修正しています。バーツ高の継続で、成長鈍化は避けられない可能性もあります。

米トランプ政権下の対中通商摩擦や新型コロナウイルスのまん延により、中国に代わる生産拠点として東南アジアではベトナムが大きな恩恵を受けました。同様に、実はタイも低コストやグローバル化の観点から企業進出がここ数年で急速に進みました。シンクタンクの調査によると、非製造業企業の受け入れも目覚ましく、シンガポールに次ぎマネーが流入しています。

しかし、タイのコロナ禍の傷は浅いように見えますが、回復が順調に進むかは不透明です。中銀が示しているように、短期的には新型コロナの感染拡大が読み切れず、長期的には海外からの渡航者受け入れが進まなければ柱の観光業の低迷が見込まれます。足元はドル安の影響でバーツは上昇基調が続き、輸出企業の収益減も深刻です。中銀は低金利を維持しつつ一段の緩和的な措置の可能性にも言及しています。

また、格差拡大を背景とした反政府デモも、成長を下押しする要因として無視できません。軍政の流れをくむプラユット首相の退陣と野党潰しを狙ったとみられる2017年の憲法改正への抗議の意味合いを持つデモは、全土に拡大。タイの富裕層と貧困層の格差はここ数年で拡大し、人口の1%が国富の3分の2を所有する状況といいます。コロナ禍により二極分化はさらに進んでいます。

注目すべきはこれまでタブー視されてきた王室批判です。ドイツなどで不自由なく暮らすワチラロンコン国王に対し学生を中心に批判が強まっています。プラユット政権は「不敬罪」適用に向け、取り締まりを強化。新型コロナまん延を理由に都市部での制限措置を強化し、デモ活動を抑え込むのに躍起ですが、経済を圧迫すれば貧困層をさらに増加させることになりかねず、反政府活動の激化につながる可能性があります。

もっとも、特権的な身分に対する不満や反感は、タイだけにとどまりません。世界経済の減速で、雇用情勢の悪化や賃金の低下は深刻です。地域間や国家間、国民の間でも格差拡大は避けられないでしょう。2020年は、新型コロナにより派生した権威の失墜も実感する年でした。身分制度の名残のような時代にそぐわなくなった負の遺産を見直す機運が高まれば、世界が「フランス革命前夜」の様相を回避できるかもしれません。

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

(吉池 威)

《YN》

提供:フィスコ

人気ニュースアクセスランキング 直近8時間

特集記事

株探からのお知らせ

過去のお知らせを見る
米国株へ
株探プレミアムとは
PC版を表示
【当サイトで提供する情報について】
当サイト「株探(かぶたん)」で提供する情報は投資勧誘または投資に関する助言をすることを目的としておりません。
投資の決定は、ご自身の判断でなされますようお願いいたします。
当サイトにおけるデータは、東京証券取引所、大阪取引所、名古屋証券取引所、JPX総研、ジャパンネクスト証券、China Investment Information Services、CME Group Inc. 等からの情報の提供を受けております。
日経平均株価の著作権は日本経済新聞社に帰属します。
株探に掲載される株価チャートは、その銘柄の過去の株価推移を確認する用途で掲載しているものであり、その銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
決算を扱う記事における「サプライズ決算」とは、決算情報として注目に値するかという観点から、発表された決算のサプライズ度(当該会社の本決算か各四半期であるか、業績予想の修正か配当予想の修正であるか、及びそこで発表された決算結果ならびに当該会社が過去に公表した業績予想・配当予想との比較及び過去の決算との比較を数値化し判定)が高い銘柄であり、また「サプライズ順」はサプライズ度に基づいた順番で決算情報を掲載しているものであり、記事に掲載されている各銘柄の将来の価値の動向を示唆あるいは保証するものではなく、また、売買を推奨するものではありません。
(C) MINKABU THE INFONOID, Inc.