底堅くも伸び悩むカナダドル【フィスコ・コラム】

市況
2021年8月22日 9時00分

主要国のなかで、コロナ禍から最も早く立ち直ったカナダ。景気回復の加速で中央銀行が引き締め方向にあるほか、今後は財政赤字削減にも注力する見通しで、カナダドルは底堅さが目立ちます。半面、不安定な原油相場は引き続き重石になりそうです。

足元で発表されたカナダの経済指標のうち、5月国内総生産(GDP)は前年比+14.6%、7月失業率は7.5%などまずまずの内容ながら予想よりも弱く、回復の一服感が目立っています。にもかかわらず正常化期待のカナダドル買いは継続し、対ドルでは下げづらい値動きです。心理的節目となる1.25ドルを下回っているものの、下落は小幅にとどまり、目先は同水準を上抜ける可能性もあります。

新型コロナウイルス・デルタ株の世界的まん延が警戒されるなか、カナダではワクチンの必要回数以上の接種者が全人口の半数を超えており、正常化期待も継続。カナダ銀行(中銀)は7月14日の定例会合では現行の緩和政策を維持しながらも、政府債の買い入れを3割程度削減する方針を示しました。政策金利の引き上げについて来年後半の見通しを維持し、ニュージーランド準備銀行とともに着々と金融正常化を進めています。

一方、トルドー首相は下院を解散し、9月20日の総選挙(定数338)実施を決断しました。前回2019年10月は同首相が率いる中道左派の自由党が第1党となりましたが、過半数には届いていません。直近の情勢調査では自由党が最大野党の中道右派、保守党を9pt上回っています。任期を多く残しての解散・総選挙は、コロナ対策の評価により単独過半数を確保する狙いが見て取れます。

選挙戦の焦点は、トルドー政権による追加支援でしょう。向こう3年間でGDP比3-4%に相当する1000億カナダドルの支出を検討。カナダ経済は回復が著しいとはいえ、コロナ禍の爪痕は残り、支援を緩めてしまえば逆戻りの可能性もあります。それに対して野党は財政悪化の視点で批判を強めており、他党との連携で政局を乗り切ってきたトルドー政権にとっては頭痛の種になっています。

ただ、歳出を想定内に抑え財政立て直しのスタンスを打ち出すことができれば、それもカナダドル買い要因になりそうです。米連邦準備理事会(FRB)による資産買い入れの縮小(テーパリング)観測で、カナダドルは中長期的にドル買いに押される場面も見込まれます。とはいえ、カナダドルの大幅安は引き続き避けられるとみます。

カナダドルの動向では、やはり原油相場が不透明要因です。指標となるNY原油先物(WTI)は世界的な需要の回復を背景に上昇基調に振れ、今年6月には3年超ぶりに節目の1バレル=70ドル台に浮上。その後は失速したものの、原油高は目先もメーンシナリオ。ただ、新型コロナ・デルタ株のまん延や中東情勢の不透明感は需給に影響する要因です。霧が晴れる見通しは立たず、底堅くも上値の重い値動きが当面続きそうです。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《YN》

提供:フィスコ

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