明日の株式相場に向けて=「米中経済戦争」とスタグフレーション
きょう(5日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比474円安の2万7813円と大幅反落。突発的な下げで一気に2万8000円台を割り込んだ。3月下旬から続いた上げ潮相場に急速なブレーキがかかった。
きょうは前日の米国株市場が軟調な動きだったことから、寄り付きに安く始まるのは当然想定されたことだが、寄り後の下げ足がこれまでの雰囲気と異なることを複数の市場関係者が口にしていた。この日の5分足チャートをみれば、強弱観対立に伴うせめぎ合いというものが見えない一方的な下落であることが分かる。引力の法則に従ってひたすら坂道を転がるように株価水準を切り下げ、それは2万8000円大台ラインもストッパーの役割を全く果たさなかった。久しぶりに先物主導の売り仕掛けが作動したことを示唆する。
米株価指数先物やアセアン諸国の株価が底堅く推移していたこともあって、後場取引中盤になって日経平均は25日移動平均線をサポートラインに3月末に開けたマドを埋めた水準で下げ止まった。しかし、かといってリバウンドに転じる気配もなく、その後は大引けまでダラダラと底這う展開となった。国内金融機関の「益出し」、簡単に言ってしまえば機関投資家の利食いが出たという説明も聞かれたが、その手の“後付け講釈”はおそらく、きょうの相場の実態とは距離がある。値下がり銘柄数が96%という文字通りの全面安商状であり、軽い調整を入れたという感じではない。
時計の針を前日に戻してみる。米国株市場では引き続き景気の先行き不安がくすぶるなか、利益確定の売り圧力が顕在化した。NYダウはその前日まで4営業日続伸し、合計で1200ドル強も水準を切り上げていたこともあって、スピード警戒感が意識された。もちろん200ドル弱の下げで動揺する要素はない。ただし、相次ぐ米銀の破綻によって浮上した銀行経営に対する不安は完全には拭い切れないところで、強気相場に対する疑念は潜在している。そうしたなか、今週明けに発表された3月の米ISM製造業景況感指数が想定以上に低調だったことに続き、前日発表された2月の米雇用動態調査で求人件数の減少がコンセンサスを大きく上回った。これまでは、人材ニーズが逼迫して賃金が上昇すればインフレを加速させかねず、弱い数字が出れば安堵の胸をなでおろすというのがセオリーだったはずである。しかし、最近は違う。景気が減速することをネガティブ視する傾向がにわかに強くなった。なぜなら、川下ではなく川上から押し寄せるインフレに警戒感が再び高まっているからだ。原油市況が騰勢を強めていることに加え、あれよという間に史上最高値圏に浮上した金価格が、投資家心理を揺さぶっている。景気が失速して賃金が上がらないなかで、物価が上昇するというスタグフレーションに陥ることへの懸念が現実味を帯びている。
市場では「米中経済戦争の第2幕が上がった。これは中国側の反撃のステージだ」(ネット証券マーケットアナリスト)という声が聞かれる。シリコンバレーバンク(SVB)の破綻でバイデン政権がドタバタの様相をみせていた3月下旬、中国の習近平国家主席がモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と首脳会談を行った。意図的にタイミングを合わせたわけではないとしても、米国の台所で火事が発生しているのを横目に、ロシアとの距離を一気に縮めたのは「米国に対する宣戦布告に等しい」(同)という見方を示す。
外国為替市場でドルが売られているが、それと逆相関にあるのが金市況だ。ドルでゴールドを買う動き、つまり手持ちのドルをゴールドに替える動きが反映されているという指摘がある。一方で、FRBによる泥縄的な金融政策の弊害が発現するなか、新興国のドル離れが加速しているという観測が出ているが、それを政治的に主導しているのが中国であるとの思惑は強い。この仮説が正しければ、ドルの基軸通貨としてのポジションが揺らぐ可能性は無視できないものとなる。くしくもこの日は起訴されたトランプ前大統領が演説しバイデン政権の批判を繰り広げたが、米国の分断が一層鮮明化していることは対中戦略においてもかなりのハンデとなる。
あすのスケジュールでは、3月の輸入車販売動向、3月の車名別新車販売、3月の軽自動車販売、3月のオフィス空室率など。また、6カ月物国庫短期証券と30年物国債の入札も予定。海外では、3月の財新中国非製造業PMI、インド中銀の政策金利発表、週間の米新規失業保険申請件数など。なお、フィリピン、タイ市場は休場となる。(銀)