ロシアを弱体化する原油安、米国は“超限戦”を開始か? <コモディティ特集>

特集
2023年5月17日 13時30分

ブレント原油ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)など海外指標原油は低調に推移しており、今年前半は下値探りが続いている。世界最大の石油消費国である米国の景気後退リスクが石油需要の需要見通しを悪化させている。米国は日量で約2000万バレルと、一国で世界全体の5分の1を消費するエネルギーの消費大国である。中国の石油需要は日量1500万バレル規模と、米国にはまだ届かない。

米債務上限の引き上げを巡る交渉が難航していることが米景気見通しを悪化させ、原油相場を圧迫している。米国は新たな国債を発行して資金を調達しないことには、6月中には政府機関が閉鎖を余儀なくされるほか、債務不履行が発生する見通し。歳出を削減することによって資金を捻出するという道筋もあるが、これまでただひたすらに債務を膨らませてきた米国に緊縮はおそらく不可能であり、債務上限引き上げが合意に至るかどうかが目先の焦点である。世界最大の債務大国の国債を誰がさらに引き受けるのかについても注目しなければならないが、いずれかの国が渋々と支えないことには現状の世界経済は成立しない。

●米景気悪化を真正面から織り込む原油市場

金融市場全体を見渡す限り、米景気悪化懸念を真正面から織り込もうとしているのが原油市場である。コモディティ市場は金融市場のなかでも景気悪化にはかなり敏感であるが、最近の原油相場は目立って神経質である。主要産油国はロシアを含めて5月から日量166万バレル規模の自主減産を実施しているが、この減産による相場押し上げ効果はすでに帳消しにされているうえ、今年の下限水準を下抜けて一段安となりそうな雰囲気すらある。

経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫が増加から減少へ転じ、現物市場では需給が引き締まる兆候がある一方、主要産油国にとって先物市場の下落は不満であるに違いない。来月の4日の石油輸出国機構(OPEC)プラスの会合を控えて、サウジアラビアやロシアなどの心中は穏やかではないだろう。イラクのアブドゥルガニ石油相は、来月の会合で追加の減産はなく、イラクに関してはこれ以上減産できないと率直に述べているが、米景気見通しの不透明感が強まっているなかで静観することが妥当なのだろうか。米国で景気後退が始まると、世界経済も巻き込まれそうだ。

今月から始まった日量166万バレル規模の協調的な自主減産をごく短期間で実現させるのは、おそらくサウジアラビア以外には不可能だろう。米金融システム不安を背景とした3月の原油安は、サウジにとってよほど不快だったのではないか。そうであるならば、自主減産発表後の4月から5月初めにかけての原油安はサウジの自尊心をさらに傷つけた可能性がある。

●供給削減のOPECプラス vs “超限戦”の米国

世界最大のカルテルであるOPECプラスが供給を削減して相場を押し上げようとしている一方、世界最大の石油消費国である米国が今にも破裂しそうな債務体質を見せつけて原油相場を安値水準に誘導しようとしているような構図である。米国があらゆるものを動員してロシアを攻撃しようとするならば、原油安がロシアを弱体化させるために最も有効だろう。米国の5年もののクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は世界金融危機の2008年以来の高水準にあり、米国は破綻懸念先である。デフォルトした場合の破壊力をほんの少し意識させるだけで、原油相場の圧迫が可能である。米主力戦車のエイブラムスをウクライナに供給するよりも、これまでの一連の経済制裁よりも、ロシアへの攻撃としてはよほど効果的ではないか。

自らの弱みをあえて見せつけて武器とする戦い方を「超限戦」という。中国発の造語である。米金融システム不安の一因である米政策金利も駆使しつつ超限戦が続くなら、原油相場は低調だろう。主要産油国の反撃はあるのだろうか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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