【マザーズ先物の活用方法2023夏~上半期相場の回顧と下半期の見通し~ vol.2】2023年後半の相場見通し(1)
以下は、2023年8月2日にYouTubeチャンネル「FISCO TV」で配信された「マザーズ先物の活用方法2023夏~上半期相場の回顧と下半期の見通し~」です。
マザーズ先物の活用メリット、新興市場の上半期相場の回顧と後半の見通しを、フィスコマーケットレポーター高井ひろえが紹介、4回に分けて配信します。
それではここからは2023年後半の相場見通しについてお話していきたいと思います。先行き不透明感が強いなか、年後半については市場関係者の間でもかなり見方が分かれています。強気な投資家はアメリカ経済について、インフレが着実に鈍化し続けることでFRBの利上げ停止は遠くないとみています。また、底堅い労働市場が堅調な個人消費を支え続け、その間に、低迷している製造業も底入れし、アメリカ経済は深刻な景気後退には陥らないとみています。日本株についても日銀の金融緩和の継続や東証のPBR改善要請を受けた企業経営の変化、持続的な賃上げを通じたデフレからの脱却などを理由に歴史的な上昇相場が続くとみている人が多いようです。
一方、弱気派は年後半の株式市場は再び下落に転じるとみています。米国はインフレの伸びが鈍化しつつあるとはいえ、水準としては中央銀行の目標値を2~3倍程度回る状況が続いています。一度上がると下がるのに時間がかかる下方硬直性を有するサービス分野のインフレ鈍化ペースが減速していくことも想定されるなか、FRBの追加利上げや高水準の金利の据え置きが予想以上に長期化する可能性があることを懸念しています。金融引き締めの長期化により、堅調だった個人消費も減速しはじめ、製造業の低迷は長期化するとみています。また、株価バリュエーションの割高感なども指摘されています。日本株についても、米国株との比較でみると依然として割安ではあるものの、すでに過去との比較では割安感は解消されており、また、海外経済と比較した際の相対的な景況感の強さも一服してくる可能性が想定されます。
それでは強気派のポジティブシナリオの根拠を一つずつ見ていきましょう。まず、アメリカのインフレですが、先んじてインフレが沈静化していた財・モノに続き、一度上がると下がるのに時間がかかる下方硬直性を有するサービス分野でもインフレが鈍化傾向を見せはじめています。遅行性が高くCPIへの寄与度の大きい住居費もようやく鈍化に転じています。確かにインフレの鈍化基調は明確のようです。
次にアメリカの労働市場の状況を見てみましょう。サービス分野のインフレの元凶である労働者の賃金は依然として高い伸びを見せているものの、こちらも概ね鈍化傾向が続いています。また、求人件数もピークからの減少傾向が明確に読み取れ、逼迫した労働市場の緩和が窺えます。一方で、新規失業保険申請件数と失業率は低水準にとどまっており、労働市場は逼迫を緩和しつつも、健全さを保っているといえそうです。
次にアメリカの国内総生産(GDP)の約7割と最大の割合を占める個人消費ですが、小売売上高は前年比および前月比でプラスの推移が続いており、消費者のセンチメントを表す指標も2022年半ばには既に底打ちし、足元では改善が続いています。
最後に企業業績を見てみましょう。アメリカおよび日本ともに、アナリストの一株当たり利益(EPS)の予想推移をみると、次の4-6月期の四半期決算がボトムで、その後は業績が回復に向かう予想になっています。この企業業績の底入れに対する期待が強気派の大きな根拠になっているようです。
それでは次に弱気派のネガティブシナリオの根拠を見ていきましょう。まずアメリカのインフレですが、これは先ほどお見せしたCPIのグラフです。結局捉え方の違いではありますが、弱気派はたしかにインフレは鈍化しているとはいえ、ペースはあまりに緩慢で、FRBの目標値である2%を依然として大きく超えていることに着目しています。ここから、年内の追加利上げが想定以上に多く実施されること、その後も高水準の金利が長期にわたって据え置かれる可能性を指摘しています。そのうえで、この金融引き締めの長期化が実体経済に時間差を伴って及ぼす影響を懸念しています。
先ほどご紹介したアメリカの個人消費について、こちらも捉え方次第にはなりますが、弱気派は小売売上高の前年比の伸びが鈍化傾向にあり、間もなくマイナスに転じるタイミングに近づいていることを指摘しています。また、消費者センチメントは底入れしたとはいえ、水準としてはコロナ前を依然として大幅に下回っており、株価の上昇を支持するほどの材料にはなり得ないとみているようです。
また、コロナ禍での財政政策によって増加した潤沢な貯蓄がすでに解消されていることも、今後、個人消費が減速していくことの根拠として考えられています。
次に欧米の景況感を見ていきましょう。アメリカは供給管理協会(ISM)の景況指数と購買担当者景気指数(PMI)の双方について、サービス業が共に景況感の拡大・縮小の境界値である50を超えた状態が続いています。一方、製造業はどちらも50割れの状態でかつ悪化のトレンドが続いています。欧州でもPMIは製造業が50を大幅に割り込んでおり、悪化の傾向も継続、サービス業も50は超えていますが、足元で急速に減速してきています。少なくとも製造業は欧米ともに底入れの兆しがまだ確認されておらず、サービス業も欧州については黄色信号が灯っているようです。
また、アメリカの銀行の貸し出し態度が幅広い分野でコロナ直後に迫る水準にまで悪化してきています。アメリカ経済の強さは資金循環の速さにあるとされていますが、銀行の貸し渋りを通じて資金循環が滞れば、信用収縮の影響として景気減速は避けられそうにないと思われます。
ほかに、株式市場に流れ込むリスクマネーの量は中央銀行のバランスシートに比例すると言われますが、FRBのバランスシートは金融引き締め策の一環として行われている量的引き締め(QT)により、2022年半ばころからは減少していました。しかし、シリコンバレー銀行の破綻後の緊急融資プログラムにより、FRBのバランスシートは一時的に増加に転じました。これが金融緩和的な状況を生み出したことで、4月以降の株式市場の上昇に寄与していたと考えられています。ただ、FRBのバランスシートは再び減少しはじめ、既にシリコンバレー・ショック前の水準にまで戻しています。今後は再び金融引き締め的な状況へと転じることで、株式市場にはネガティブな影響がもたらされると考えられます。
さらに、株式市場は米国株を中心にすでに割高感が否めないことも弱気派を支持する要因になっています。日米の代表的な株価指数であるS&P500指数とTOPIXを対象とした一株当たり利益=EPSについて、この逆数である株式益利回りからアメリカの10年債利回りを差し引いたイールドスプレッドという指標があります。これはアメリカ債券との対比でみた株式のバリュエーションを示す指標ですが、日米ともに2013年以降の過去10年において最も割高な水準に達しています。しかし、欧米経済の景気減速が懸念され、各国中央銀行の金融引き締めが続くなか、一段のバリュエーションの上昇は難しいと考えられています。
※原稿作成:フィスコアナリスト仲村幸浩
?マザーズ先物の活用方法2023夏~上半期相場の回顧と下半期の見通し~ vol.3に続く?
《NH》