トランプ政権のエネルギー政策は明瞭、対イラン睨み原油価格の低位安定を指向 <コモディティ特集>
米ダラス連銀が先月発表した四半期エネルギー調査では、年末のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)の価格見通しの中央値は70.00~74.99ドルだった一方、石油関連企業から寄せられた石油についてのコメントは悲観ばかりだった。「これまでの2025年を表すキーワードは不確実性」、「事業の暗黙の資本コストは著しく上昇」、「政権の混乱は商品市場にとって災難。ドリル・ベイビー・ドリルは神話とポピュリストの叫びでしかない。関税政策は予測不可能で、明確な目標もない」などと、トランプ米政権に対する批判が目立った。世界を混乱させている相互関税の発表前でこの内容である。
●原油安のなかで増産はおそらく不可能
クリス・ライト米エネルギー省長官が、米国のシェールオイル産業は1バレル=50ドルでも増産は可能との認識を示したことについて、ダラス連銀のエネルギー調査に返答した石油企業は非現実性や矛盾も指摘した。コロナショック後の物価高や、足もとの米関税政策により設備投資コストが拡大を続けているにもかかわらず、原油相場が低迷するなかでの増産はおそらく不可能だろう。米国離れを背景としたドル安は物価を押し上げるほか、米国債市場も不安定化しつつある。
トランプ米大統領は米国のエネルギー支配(U.S. energy dominance)を政策の一つに掲げており、エネルギーを武器として外交や経済で優位性を確立することを目指しているが、米国が原油のさらなる増産を成し遂げるには、設備投資の拡大を促す原油高が必要不可欠である。米国は天然ガス生産で世界的に優位な立場にあるとしても、1バレル=50ドルの原油価格は石油産業に対する死亡宣告に等しい。そもそも世界最大の産油国である米国は原油の輸入国でもあり、世界をエネルギーで支配しようとするならば、とりあえずは国内の原油消費を完全に自給する必要があるのではないか。米エネルギー情報局(EIA)によると、米原油輸入量は日量600万バレル規模である。
●原油価格を低く安定させようとする意図は明らか
トランプ米政権のエネルギー政策は支離滅裂かもしれないが、米大統領選の勝利に向けた大風呂敷のなかで矛盾が発生しただけであり、政治の世界に大言壮語がつきものだと考えるなら、粗探しに意味はない。ただ、ドリル・ベイビー・ドリルや、1バレル=50ドル発言からすると、原油価格を低く安定させようとする意図は明らかだ。親イスラエルのトランプ米政権にとって、イランの核施設空爆は常に米国の選択肢で、衝突を念頭に置きつつ、普段から原油相場を抑制しようとしている可能性が高い。米国の関税戦争により世界的な景気見通しが悪化し、原油安が加速したことについて、トランプ米大統領はどちらかといえば満足しているのではないか。
トランプ米政権のエネルギー政策は明瞭である。イランを巡りこれまでにない衝突が発生するリスクを考慮するならば、原油相場を常日頃から低い価格帯に押さえつけておく必要がある。高い原油相場がさらに高くなれば経済的な打撃は大きいが、低い水準から多少高くなるのならば、ダメージ・コントロールとしては成功だろう。そもそも、原油安は産油国であるイランの歳入を圧迫する。米エネルギー政策の延長線上に、目指すべき米国の理想像は存在しないと思われる。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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