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【特集】徹底取材・日銀「ETF配分」見直し決定、“8円88銭高”の裏で変わったもの <株探トップ特集>

31日、日銀金融政策決定会合発表後の東京市場は、10年国債の急騰とドル買い円売りが進行。終わってみれば8円88銭高の小動きだった日経平均とは裏腹に、今後の全体相場の行方を占う重大な変化が起きていた。

―発表後のマーケット襲った波浪、利回り急低下とドル高円安進行の意味は―

 日本銀行は31日、金融政策決定会合の結果を発表した。金融政策の「柔軟化」が焦点となった今回の日銀決定会合だが、ETF(上場投信)の TOPIX型組み入れ比率を高めることが決定されたものの、全体の金融政策の枠組みはほぼ維持された。久々の日銀プレーに揺れた東京市場だが、今後の影響はどう見れば良いのか。市場関係者の声を聞いた。

●YCC政策はほぼ維持、日経225に買い戻し流入

 31日の東京市場は日銀の決定に揺れた。金融政策の「柔軟化」の観測が浮上したこともあり、昼過ぎの決定発表に向け、為替相場は乱高下し、株式市場でも銀行株などに思惑売買が流入した。結局、日銀は午後1時過ぎに決定を発表。長期金利をゼロ%程度とするといったイールドカーブ・コントロール(YCC)政策は維持され、ETFはTOPIX型の比率を高めることが発表された。これを受け、111円前後で推移していたドル円相場は111円40銭近辺に上昇した。一時、株価がプラス圏に浮上した 銀行株はマイナスに転じた。

 「日銀の発表が午後1時過ぎにまで延びたことで、この日の取引は思惑的な売買が強まった」とサクソバンク証券の倉持宏朗チーフマーケットアナリストはいう。日銀の発表時間が遅れたことで、政策変更への期待が膨らんだが、結果はETFのTOPIX比率拡大などにとどまった。この発表を受け「材料出尽くし感から、『日経225売り、TOPIX買い』のポジションのアンワイド(巻き戻し)が入ったようだ」と倉持氏は指摘する。

●円安基調は続く、市場は政策維持のメッセージ受けとる

 とりわけ、顕著な反応を示したのが債券市場だ。前日に0.110%まで上昇していた10年国債の利回りは一転0.06%に急落した。この市場の反応に対して、「日銀は超低金利政策を維持するというメッセージを流し、それをマーケットは受け止めた」(アナリスト)との見方がされている。為替相場も欧州時間に111円60銭近辺まで円安が進んだ。

 外為どっとコム総研の神田卓也調査部長は「日銀は現状の政策を維持するために、副作用にも考慮するという姿勢を打ち出したのだと思う。副作用への配慮ありきではない。日米金利差拡大が予想されるなか、当面、円安基調は続くだろう」とみる。

 マーケットが懸念していたのは、「外国人投資家が、日銀の金融政策柔軟化を欧米と同様の出口戦略の第一歩と受け止め、日本の長期金利が上昇し日米金利差縮小から急激な円高が起こり、株価が下落するなど市場が混乱すること」(債券アナリスト)だったが、現状では、ほぼ想定の範囲内の結果に波乱無く落ち着いたとの見方は少なくない。

●銀行株上昇には金利高必要、中小型品薄株にはプラスも

 そんななか、気になるのは銀行株の行方だ。日銀ETF買いに伴うTOPIX比率の高まりは、時価総額の大きい三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> やみずほフィナンシャルグループ <8411> など銀行株にはプラスに働く。ただ、いちよしアセットマネジメントの秋野充成上席執行役員は「銀行株の上昇には日銀ETFのTOPIX買いに加え、長期金利の上昇が必要だろう。今回、超低金利政策の長期化が示されたことで銀行株の厳しい環境は続く」とみている。アイザワ証券の清水三津雄ストラテジストも「日本株を巡る基本的な状況は大きくは変わらない。日銀ETFがTOPIX比率を高める影響も限定的だろう。好影響があるとすれば中小型の品薄株ではないか」と推測する。

 市場には、ETF買入方法を変更した場合、買入額の増加幅が大きいのはトヨタ自動車 <7203> 、三菱UFJ、NTT <9432> 、三井住友フィナンシャルグループ <8316> 、キーエンス <6861> などで、個別銘柄への資金流入のインパクトが大きい銘柄として京阪ホールディングス <9045> 、相鉄ホールディングス <9003> 、日本特殊陶業 <5334> 、ディップ <2379> 、三井住友建設 <1821> など日経225非採用銘柄が挙げられている。

●日銀指値オペ水準は変更の可能性、バリュー株復活の芽は残す

 日銀の金融政策の見直しに関して「来年秋の消費税引き上げまでは、大きな変更はないだろう」(いちよしアセットの秋野氏)と予想されている。では、日銀の基本的な金融政策の枠組みに変化が無いなか、バリュー株本格復活の可能性はないのか。米国市場ではフェイスブックなど主力IT株が波乱状態となり、その一方バリュー株を見直す動きが出ている。さらに、低金利政策の副作用に配慮するという意味で、銀行の業績への影響は考慮される可能性がある。このため「日銀が許容する上限の長期金利が引き上げられることはあり得る」(外為どっとコム総研の神田部長)とみられており、実際、黒田日銀総裁は長期金利の変動を「従来の倍程度を念頭に考えていく」と発言。指値オペの上限は0.1%が0.2%前後に引き上げられるともみられている。

 NT(日経平均・TOPIX)倍率が大きく拡大するなか、米国情勢を含む外部環境の変化や、日銀の副作用を考慮した姿勢次第では、銀行株を含むバリュー株が見直される芽は残されているだろう。

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