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【特集】いよいよ実用化、「バイオ3Dプリンター」関連株が創りだす株価未来図 <株探トップ特集>

細胞を使って臓器などの立体的な組織を作り出す「バイオ3Dプリンター」が注目されている。これから本格的に立ち上がる市場を前に関連銘柄の動向を追った。

―新薬安全性評価で活躍するニューテクノロジー、再生医療分野でも期待感高まる―

 3Dプリンター は既にさまざまな製品の製造現場や私たちの生活にも取り入れられなじみのあるものとなっているが、3Dプリンターのなかでも、細胞を使って臓器などの立体的な組織を作り出す「バイオ3Dプリンター」がいよいよ実用化の段階に入ってきた。現在では、新薬の安全性の評価などに用いる組織を作るために使用されているが、将来的には再生医療 の一環として人工の組織や臓器を作るのにも活用が期待されている。

 既に一部の研究機関などでは導入が始まっているが、米国やスウェーデン、中国企業などが先行しており、日本企業は後塵を拝しているのが現状となっている。ただ、本格的な普及はこれからで、市場が本格的に立ち上がるとともに、株式市場でも関心が高まってくるとみられる。関連銘柄には今から注目しておきたい。

●バイオ3Dプリンターとは

 バイオ3Dプリンターとは、2010年代になって登場したまだ新しい技術で、細胞などを積み重ねて生体に近い立体的な組織を形成する装置のこと。通常の3Dプリンターで構造物をつくる場合には、切削装置で削って作る方法や鋳型に詰めて作る方法などがあるが、これらの手法では外形を作ることができても生体として機能するための内部構造は作ることはできない。

 そこで、バイオ3Dプリンターでは、内部構造を一層一層作る積層造形が一般的で、生体材料であるバイオインクを針に刺して積み上げる方式や、インクジェットプリンターのようにノズルからバイオインクを吹き出して積層体を作る方式がある。

 現在、再生医療で実用化段階にあるのは、皮膚や軟骨、心筋、角膜上皮などの単一の細胞をシート状に培養したもの。しかし、ヒトの組織や臓器は複数種類の細胞から成るものが多く、構造も立体的となっている。バイオ3Dプリンターでは、そうした立体的な組織や臓器を作ることができるため、開発への注目が高まっている。

 バイオ3Dプリンターは、新薬の安全性の評価などで段階的に採用が進んでいる。こうした治験の多くは従来、動物などを用いて実施されていたが、ヒトの細胞で作った組織を使えば、より実際での使用に近い状態で効果を確かめることができる。

 また、バイオ3Dプリンターを用いて製造した軟骨や血管などの再生医療等製品の開発も進められており、将来は人工の臓器を作ることが期待されている。

●独自の技術で渋谷工に注目

 バイオ3Dプリンターの分野で注目されているのが、澁谷工業 <6340> だ。

 同社が、富士フイルムホールディングス <4901> やCYBERDYNE <7779> [東証M]などが出資するサイフューズ(東京都文京区)と共同開発したバイオ3Dプリンターは、まず脂肪由来幹細胞を大量培養して細胞の塊(スフェロイド)を製造。これをくし状の足場に差し込んで立体的な組織や臓器を作り上げるという技術を採用している。通常は細胞の足場となる材料を使うが、足場材を使わないことで、組織に悪影響をもたらす可能性を排除したのが特徴だ。

 渋谷工が8月に発表した20年6月期業績予想では、営業利益96億円(前期比7.4%減)を見込む。決算発表以降、株価は冴えない展開となっていただけに見直し余地がありそうだ。

 また、サイフューズは、渋谷工と共同開発した「regenova(レジェノバ)」を小型化した「S-PIKE(スパイク)」を独自に開発。これをシスメックス <6869> が販売している。

 シスメックスはヘマトロジー(血球計数検査)分野などが好調で、20年3月期営業利益640億円(前期比4.4%増)を見込む。「S-PIKE」を販売することで、今後需要拡大が見込まれる再生医療分野のラインアップ拡大につながり、中期成長への寄与が期待できる。8月2日の決算発表後に落ち込んだ株価も反発局面にあり、注目余地は大きい。

●リコーはインクジェット技術を応用

 一方、ここ最近、バイオ3Dプリンター関連として注目度が高まっているのが、インクジェットプリンターの技術を応用したバイオ3Dプリンターを開発したリコー <7752> だ。

 同社は今年6月、米エリクサジェン・サイエンティフィック社との共同事業を発表したが、エリクサジェンの細胞分化誘導技術とリコーのバイオプリンティング技術を組み合わせることで、例えば複数人のiPS細胞由来の細胞をワンチップ化した細胞チップを高効率に製造することが可能になる。この細胞チップを用いることで、新薬開発における安全性や毒性評価の精度が向上し、創薬プロセス全体の効率化も見込まれるという。

 こうした新薬の安全性評価の分野では、カナダのバイオ3Dプリンターベンチャー、アスペクト・バイオシステムズが18年10月、JSR <4185> とヒト肝組織の開発に向けた新しい協業をスタートすると発表した。安全性評価のために、血管ネットワークを備えたヒト肝組織を開発するためで、JSRの持つ組織工学や生体材料技術が活用されるという。アスペクト社は、バイオ3Dプリンター技術を活用して米ジョンソン・エンド・ジョンソン社などとも共同研究を進めており、JSRにとってもビジネスチャンス拡大が期待できる。

 また、コスモ・バイオ <3386> [JQ]もバイオ3Dプリンターベンチャーの米オルガノボが行う化合物評価で提携しており、関連銘柄といえそうだ。

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