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【特集】迫られる変革ここにも “実店舗”売上減と「D2C」関連飛躍の実像 <株探トップ特集>

実店舗での売り上げ減少は必然的にeコマース拡大を意味する。消費財メーカーも流通再構築を迫られるなか、飛躍機を迎えつつあるのが「D2C」だ。

―見え始めた市場拡大、参入相次ぎ関連株も裾野広がる―

 新型コロナウイルス感染症は働き方や企業のビジネスモデル、消費者の行動に大きな影響をもたらした。テレワークなどの普及が進んだほか、デリバリーやエンターテインメントコンテンツのストリーミングサービスの利用率が向上し、外出自粛で店舗への客足が遠のくなかeコマース(電子商取引)の需要も一段と伸びている。一方で、消費財メーカーは多くの課題が突き付けられ、実店舗での売り上げ減から卸売り業者に依存する企業は特に深刻な状況だ。そこで注目されているのがダイレクト・ツー・コンシューマー(D2C)と呼ばれるネット直販ビジネスで、現在はスタートアップ企業が中心ながら最近では大手企業も関心を寄せている。

●流通チャネルの多様化が必須に

 D2C(DtoC)とはDirect to Consumerを略したマーケティング用語で、メーカーが自社で企画・製造した商品を自社サイトで消費者に直接販売するビジネスモデルのこと。チャネルとなる卸業者を介さないことで、中間コストを削減してクオリティーの高い商品を伝統的なブランドよりも低価格で提供できるとともに、そこで得られた顧客データをその後の戦略に生かすことができる。

 製造から販売まで一貫して自社で行う手法はファッション業界などで取り入れられているSPA(Speciality store retailer of Private label Apparel:製造小売業)と似ているが、店舗では販売せず自社のサイトで顧客にダイレクトに販売するという点に違いがある。また、混同しやすいものでは、BtoC(企業が一般消費者に対して提供するビジネス)やBtoB(企業間ビジネス)、BtoBtoC(卸や販売店を通じたビジネス)、CtoC(消費者間で行われる取引)があり、誰と誰の取引でどのような手法によるものかが表されている。

 D2Cが関心を集めている背景には、提供する商品やサービスの思想や世界観をSNSやWebサイトを通じて消費者に直接伝えることでコアなファンを獲得しやすいほか、ロボットや3Dプリンターといった技術の発展から小ロットでも安価に発注できるようになったことが挙げられる。米国では既に衣料品や生活消費財などの業界でD2Cブランドが伝統的なブランドのシェアを奪い、未上場ながら企業価値が10億ドルを超えるユニコーンと呼ばれる企業が生まれている。コロナ禍で流通チャネルを多様化する必要が迫られるなか、日本でも今後D2Cに乗り出す企業が増えそうだ。

●市場拡大見据え参入続々

 丸井グループ <8252> は今年2月、D2C企業への投資を手掛ける「D2C&Co.(ディーツーシーアンドカンパニー)」を設立したと発表し、5月には化粧品のD2Cブランドを展開するDINETTE(ディネット、東京都渋谷区)と資本・業務提携したことを明らかにした。同社は年間2億人が来店するマルイ店舗や700万人を超えるエポスカード会員、小売りノウハウを持つ人材といったグループの経営資源を活用して、DINETTEの成長・発展に向けた取り組みを推進するとともに、リアル店舗への出店や協業カードの発行などを通じてグループ全体の価値向上につなげるとしている。

 また、テックファームホールディングス <3625> [JQG]グループのWe Agriは4月末に、新型コロナの感染拡大でスーパーマーケットなどでの買い物に不安がある消費者と、外食需要の低下で飲食店に供給されず余った生鮮食品をICT(情報通信技術)でつなぐ大田市場・仲卸初となるD2Cサービス「大田市場直送.com」を開設。三井物産 <8031> 子会社で繊維専門商社の三井物産アイ・ファッションは9月からD2Cビジネスを本格展開する予定だ。

 このほか、アーティスト向けプラットフォーム「Fans’(ファンズ)」をはじめ、各種D2Cソリューション事業を展開しているフェイス <4295> の今後の動向にも注目したい。

●環境構築支援にも注目

 足もとでは新型コロナの影響を受けて新たな販路を模索し、D2C事業に乗り出す企業やブランドが増えているが、D2Cブランドの運営は「ブランドビジネス」と「ECビジネス」を同時に実現することが求められるため、マネージメントが難しく、成功確率が低いといわれている。

 そこでD2C環境の構築を支援するビジネスが登場し始めており、クロス・マーケティンググループ <3675> 子会社のクロス・コミュニケーションとウェブサービス事業を手掛けるニューロープ(東京都渋谷区)は共同で、3月中旬からD2Cブランドの成長を支援する「ターゲティングサービス」の提供を開始。ブランドコンセプトに合致するユーザー(ファン予備軍)を素早く抽出できるほか、それらユーザーへの「ダイレクトマーケティング」や、フォロワー数を加味したマイクロインフルエンサー抽出による「アンバサダーマーケティング」などが可能になるという。

 博報堂DYホールディングス <2433> 傘下の博報堂は6月中旬、D2Cブランドビジネスを包括的に支援する体制を整えたと発表した。グループが強みとする「ブランディング」と「ECビジネス」の知見を高度に融合させながら、D2Cブランドの新規開発からビジネス設計、事業運営までのあらゆるニーズをワンストップで支援する。

 また、D2Cのネットショップの集客・販売促進支援をショッピングアプリを通じてサポートしているBASE <4477> [東証M]も見逃せない。3月末以降、新型コロナの影響で営業活動や集客を自粛していた実店舗を運営している事業者やイベント・催事で物販事業を行っている事業者などを中心に ネットショップの開設が急増しているといい、ネットショップ作成サービス「BASE(ベイス)」のショップ開設数は7月に110万件を突破した。

 これ以外では、サイバーエージェント <4751> 子会社のCA Retail Marketingが1月下旬から、D2C企業を対象に実店舗での商品販売を支援するサービス「CAリテールマーケット」の提供を始めている。D2C市場の拡大に伴って販路拡大やリアルな購買体験の場として店舗の役割が再評価されているためで、小売店舗と新たな商品のマッチングを行うことで店舗の価値最大化を図るとしている。

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