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【市況】米政権交代はベトナムに追い風?【フィスコ・コラム】


バイデン米次期政権の正式発足に向け対米外交をどう修正するか、各国首脳が頭を悩ませている問題でしょう。新型コロナウイルス抑止に成功したベトナムも、経済を本格回復できるかどうかは対米関係次第。まずは「為替操作国」の問題が焦点となりそうです。


トランプ政権は今年8月、ベトナムが2019年に通貨ドンを対ドルで意図的に引き下げたと判断し、「為替操作国」に指定する見通しを示しました。それに続き、通商代表部(USTR)も10月にベトナムの通貨政策について調査開始を公表。結果を踏まえ、今後1年以内に対抗措置を発動する構えです。近年の経済成長を支えてきた対米貿易の行方がベトナムにとって重要であることは論を待ちません。


ベトナムのフック首相は、為替操作国の調査については客観的に評価するよう求めています。ベトナムは米中通商摩擦により中国からの生産拠点が移管された恩恵を受けており、対米貿易黒字は拡大基調を維持。新型コロナに見舞われた今年も、ここまで前年を3割程度も上回るペースです。制裁などを受ければ失速は避けられないでしょう。


しかし、来年1月発足のバイデン政権による通商政策次第とも言えます。元中国財務相は通商摩擦は政権交代後も続くとみていますが、民主党はオバマ政権下で環太平洋経済連携協定(TPP)など自由貿易を推進しており、ベトナムは自由貿易協定(FTA)の恩恵を受ける可能性があります。バイデン政権は雇用創出の観点から貿易赤字の是正を継続するものの、トランプ政権ほど強硬ではないとみられます。

さらに期待されるのは、外交・防衛を柱とする対中政策でしょう。1970年代のベトナム戦争後に断絶していた両国で、1990年代になると国交正常化の気運が高まります。アメリカの中国台頭への警戒が背景にあります。ベトナムは隣国である中国との良好な関係を維持しながら、その一方で中国に偏らない外交を目指しアメリカと徐々に接近し関係の緊密化を進めてきました。


アメリカとベトナムの関係構築が加速したのは、2000年代に入り中国が南シナ海の領有権に関する主張を強めたためです。その問題で中国と対立するベトナムは航行の自由を求めるアメリカと利害が一致し、特にオバマ政権下で急接近します。両国の安全保障に関しては共同軍事演習のほか、ベトナム中部カムラン湾への米海軍の寄港などで中国の進出をけん制しています。


中国の習近平国家主席はつい先月、人民解放軍を強化し「世界一流の軍隊」を作るとの考えを表明しました。アメリカへの強い対抗意識を示したと受け取れます。経済や安全保障での米中の覇権争いが今後激化すれば、アメリカにとってベトナムはますます重要な関係国になるでしょう。経済と外交・防衛は底流で思惑が一致することを考えれば、為替操作国認定には慎重になる可能性もあります。


米大統領選後のベトナム株式市場で活況が続くのは、新型コロナまん延の抑止に成功したことへの評価だけでなく、バイデン政権発足による対米関係の一段の強化を市場が期待しているためでもあります。


※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。


(吉池 威)

《YN》

 提供:フィスコ

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