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【特集】海の脱炭素化が本番、「ゼロエミッション船」関連株が描く株高航路 <株探トップ特集>

気候変動対策が喫緊の課題となるなか、海の脱炭素化に向けた動きが加速してきた。国交省は究極のエコシップ「ゼロエミッション船」の商業運航を28年までに実現する構えだ。

―日本主導でIMOに国際ファンド創設を提案、海運業界に吹くフォローの風―

 気候変動問題への対応が世界的に喫緊の重要課題となっているなか、二酸化炭素(CO2)の排出量削減が自動車業界だけでなく、海運業界でも一段と加速してきた。国土交通省は3月16日、日本主導で欧州・アジア・主要船籍国など10ヵ国・国際海運9団体が共同で、国際海事機関(IMO)に対して海運脱炭素化に向けた研究開発・実証を支援するための新たな国際ファンドの創設を提案したと発表。この提案が実現すると、創設後10年間で5000億円(毎年500億円)規模の国際ファンドが構築されることになり、温室効果ガス(GHG)を排出しない究極のエコシップ「ゼロエミッション船」の早期実現に取り組む企業の追い風となりそうだ。

●国交省が技術開発を後押し

 国交省は1年前に海運・造船・舶用の各海運産業界や研究機関・公的機関などと連携し、国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップを策定。2028年までに水素燃料船やアンモニア燃料船といったゼロエミッション船を商業運航することなどを目標としている。こうした背景には、IMOが18年に採択したGHG削減戦略で、30年までに08年比40%効率改善、50年までに08年比50%総量削減、更には今世紀中のできるだけ早期にGHG排出ゼロを掲げていることがあり、今回のIMOへの提案によって日本が世界有数の海運・造船大国として気候変動対策をリードしたい考えだ。今後は6月のIMO第76回海洋環境保護委員会で審議を行い、早ければ年内にも国際合意することを目指している。

 こうしたなか、国交省は国内海事産業の技術力強化などを目的に、造船所や舶用メーカーなどが集約・連携して行う「自動運航船」「ゼロエミッション船」「内航近代化」の3テーマに関する技術開発事業の公募を開始した(公募期間は3月16日~4月12日)。新型コロナウイルス感染症対策及びアフターコロナ時代を見据え、デジタルトランスフォーメーション(DX)や50年カーボンニュートラルの実現などの課題を解決するために複数事業者が連携して行う次世代技術開発を支援することにより、技術のトップランナーを中核としたシステムインテグレーター(システム全体を所要の機能を発揮するように設計し、設備、機器などを統合する企業)を育成し、造船・舶用などの集約・連携を加速することで、国内海事産業の構造転換を進め、技術力の強化と船舶輸送能力の確保を図るという。

●大手海運を中心に取り組み進む

 日本郵船 <9101> と川崎重工業 <7012> 、ENEOSホールディングス <5020> 、東芝 <6502> 傘下の東芝エネルギーシステムズ、日本海事協会(東京都千代田区)は2月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)助成事業の公募採択を受けた「高出力燃料電池(FC)搭載船の実用化に向けた実証事業」に関して、横浜市と包括連携協定書を締結した。水素FC船の開発・実証運航(24年予定)に向けた取り組みを推進し、環境に配慮した船舶への対応をいち早く進めるとともに、カーボンニュートラルポート(国際物流の結節点・産業拠点となる港湾で、 水素 アンモニアなど次世代エネルギーの大量輸入や貯蔵、利活用などを図るとともに、 脱炭素化に配慮した港湾機能の高度化を通じてGHG排出を港全体としてゼロにする構想)の形成を目指す横浜港から脱炭素化社会を実現していく構えだ。

 商船三井 <9104> は2月、人工知能(AI)を活用して船舶の運航合理化に取り組んでいる米ベアリングとのパートナーシップを拡大すると発表した。両社は19年からAIを搭載した最適な航路選択「スマート・ルーティング」などの研究を進めており、最適な航路を選択することでGHG削減につなげる検証に取り組んでいる。また、同社は昨年11月に風力と水素を活用したゼロエミッション事業「ウインドハンタープロジェクト」を立ち上げているほか、12月にはユーグレナ <2931> と微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)などを原料としたバイオディーゼル燃料を使用したトライアル運航を実施した。

 川崎汽船 <9107> は中期目標として、IMOが定める「CO2排出効率08年比40%改善」を上回る「08年比50%改善」などを掲げ、次世代型環境対応LNG燃料船の導入などに注力している。また、昨年8月から三菱重工業 <7011> グループの三菱造船などと共同で、船舶から排出されるCO2を回収する実証事業に着手。21年中頃から21年度末まで実証運転を行い、実用化を急ぐ。

 このほかでは、名村造船所 <7014> と岩谷産業 <8088> 、関西電力 <9503> 、東京海洋大学などが共同で昨年11月から、水素燃料電池船の商用化運用に向けた検討を開始。25年に開催される大阪万博で旅客船として運航し、万博会場である夢洲と大阪市内の観光地を結ぶことを想定している。

 また、高度な環境性能船の開発などを目的に昨年10月に設立された次世代環境船舶開発センターのメンバーとして参画しているジャパン マリンユナイテッド(横浜市)の株主であるジェイ エフ イー ホールディングス <5411> とIHI <7013> 、尾道造船(神戸市)が建造する環境負荷低減船向けエンジンをこのほど受注したジャパンエンジンコーポレーション <6016> [東証2]も「ゼロエミッション船」関連銘柄として注目したい。

●代替燃料の供給網づくりも活発化

 海の脱炭素化に向けた取り組みが加速するなか、ゼロエミッション船の有力候補のひとつであるアンモニア燃料船の燃料供給網づくりも熱を帯びてきた。住友商事 <8053> は3月、海運会社のAPモラー・マースク(デンマーク)など海外5社と、船舶向けグリーンアンモニア(再生可能エネルギーを利用して窒素と水素から製造されたカーボンフリーのアンモニア)燃料供給の事業化に向けた共同検討について覚書を締結した。アンモニアは燃焼時にCO2を排出しないことから、GHG排出量の削減に大きく寄与する可能性のある次世代の代替燃料として期待されており、アンモニアの製造から専用船の開発や貯蔵・供給に至るまで一連のサプライチェーン構築を検討する。

 伊藤忠商事 <8001> も同月、伊藤忠エネクス <8133> 及び宇部興産 <4208> 、上野トランステック(横浜市)と、国内での舶用アンモニア燃料の供給及び供給拠点の整備について共同開発することで合意した。今回の共同開発は、国内での舶用アンモニア燃料の供給拠点整備にとどまらず、伊藤忠と伊藤忠エネクスが並行して進めているアンモニアを主燃料とする船舶の共同開発、同船舶の保有運航、舶用アンモニア燃料の導入、及びその供給設備を含めた統合型プロジェクトの一環として位置付けられており、国内外の各企業、関係省庁とも協力し、GHG削減に向けた取り組みを進めるとしている。

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