コーア商事HD Research Memo(7):長期事業計画の達成に向けて、中長期の成長戦略を推進(1)
■コーア商事ホールディングス<9273>の中長期の成長戦略
1. 10ヵ年長期事業計画の概要
同社グループでは、2020年に10ヵ年長期事業計画を策定し、持続的成長戦略を公表した。それは、新薬の新規開発の主体は従来の低分子からバイオ医薬品(バイオテクノロジーを応用した医薬品)などの高分子に移行し、さらに中分子、再生医療、遺伝子治療など、モダリティ(治療手段)がより多様化・複雑化するとともに、医療の個別化が進むという環境変化を見据えたものだ。このようなモダリティ革命とも言うべき医薬を取り巻く環境変化を、同社グループでは企業価値向上の機会として捉え、経済的価値と社会的価値を両立することを目指す。
2024年4月に蔵王第2工場への設備投資を決定し、将来の事業運営について一定程度見通すことが可能となったため、新たに長期事業計画の財務目標を公表した。すなわち、2030年6月期の連結売上高(セグメント間の内部取引を除く)40,000百万円、連結営業利益8,000百万円の達成を目指す。2024年6月期実績の売上高22,134百万円、営業利益4,382百万円から、今後6年間で売上高・営業利益ともに年率成長10%強の拡大を目指す意欲的な計画である。また、セグメント別には、現状は原薬セグメントの方が利益貢献は大きいが、今後は原薬セグメントの収益基盤の維持に加え、医薬品セグメントの成長により利益を拡大し、2030年6月期には両セグメントの営業利益を各々4,000百万円の同規模にする計画である。
特に医薬品セグメントでは、稼働中の蔵王第1工場でのバイアルラインの稼働率向上に加えて、2027年7月に稼働開始予定の蔵王第2工場でのプレフィルドシリンジの生産開始に伴い、売上高・営業利益が大きく伸びる計画だ。プレフィルドシリンジは製造時点で薬剤が封入してある使い捨てタイプの注射器であることから、感染症予防及び針刺し事故の危険性軽減や薬剤調整作業にかかる時間の短縮、保管効率化や運搬の簡便化等の利点により採用が進んでいる。生理食塩水などを中心に、無菌製剤や大量生産が可能なワクチン製剤、バイオ医薬品でも採用が進んでおり、今後の需要の増加が見込まれる。同社が扱うマキサカルシトール注射剤は、副甲状腺ホルモンの合成・分泌を抑え、血中の副甲状腺ホルモン濃度を下げる薬で、通常、透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いられる医薬品である。先発品の中外製薬をはじめ、数社が販売しているが、他社の製剤はすべてアンプルであるのに対し、同社の製剤のみがプレフィルドシリンジである。プレフィルドシリンジの製剤は、感染予防と医療従事者の安全性と作業効率向上の観点から有用である。マキサカルシトールのプレフィルドシリンジ製造に他社が参入するには設備投資の必要性や、既存製品の薬価が影響することにより利益率確保が難しいと考えられるため参入障壁が高いと見られることから、同社の医薬品セグメントは長期的に大きく成長すると予想される。
2. 長期事業計画の成長戦略
同社グループの長期事業計画は、後発医薬品産業のあるべき姿についての厚生労働省における議論や、プレフィルドシリンジ市場の成長性を踏まえて、今後の外部環境の変化への対応として、業界再編も予想されるなか、グループ独自の取り組みを進めていくために策定されたものである。
長期事業計画では、第1にグループの経営方針“New Business Model Innovation”を掲げ、商社機能と製造機能を併せ持つビジネスの独自性とそのシナジー効果を十分に活用して、国内の医薬品業界に新しいビジネスモデルを確立する。第2に、コーア商事を原薬輸入商社から医薬品専門商社へ転換させることで、ジェネリックのみならず長期収載品※1・AG※2への展開、新しいモダリティへの対応であるライセンスイン活動※3を推進する。第3に、コーアイセイは、注射剤を主としたジェネリック医薬品メーカーから特長のある注射剤国内トップメーカーを目指し、蔵王工場シリンジラインの増強や、バイアルラインの本格稼働に向け、新規品目を追加していくとともに、医薬品倉庫や注射剤製造設備等へ投資し、生産能力強化や安定供給体制を推進する計画である。
※1 既に特許が切れ、同じ効能・効果を持つジェネリック医薬品が発売されている新薬。
※2 先発医薬品メーカーから許諾を得て製造される、原薬、添加物及び製法等が新薬と同一のジェネリック医薬品。
※3 知的財産が絡む場合において、開発、製造、販売の権利を買うこと。
セグメント別には、原薬セグメントにおける成長戦略では、既存事業の持続的成長と新規事業の着実な推進を計画する。既存事業では、設備投資による機能向上と、長期収載品・AGの取引強化を目指す。同社グループでは横浜と大阪に分析センターを持つが、設備投資は老朽化した横浜分析センターに対するもので、倉庫・分析機能の向上によって、ジェネリック業界の枠を超えた新規顧客・品目、シェア増加に対応する。また、新規事業では、製剤輸入販売の事業化と、ライセンスイン活動の推進により、新しい原薬の輸入を目指す。すなわち、ネットワークとグループシナジーを駆使して、海外での開発・製造メリットの高い製剤ビジネスを推進する計画だ。
また、医薬品セグメントにおける成長戦略では、量産型の蔵王第2工場建設により、国内でも数少ない少量多品種高薬理工場である蔵王第1工場の特徴を生かし、注射剤のシリンジ・バイアルに特化した開発から製造までの一貫したCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization;医薬品開発製造受託機関)体制に基づき、ジェネリック医薬品メーカーなどからの受託事業を強化する計画だ。現在稼働中の本社工場では、「炭酸ランタンOD錠」をはじめとする固形剤製造と、注射剤受託製造を推進する。また蔵王第1工場では、高薬理付加価値製剤の少量・多品種生産ラインの特徴を生かし、治験薬の生産から商業生産まで可能であり、プレフィルドシリンジやバイアルを少量・多品種生産する。
一方、2027年7月稼働開始予定の蔵王第2工場では、プレフィルドシリンジの量産型高薬理無菌製剤工場として事業拡大を推進し、大量・少品種生産を担う計画である。山形市の蔵王工場敷地内に、省力化設備を備えた第2工場を建設中で、投資予定額は65億円に上る見通しだ。第2工場は、1~2mlプレフィルドシリンジ1,200万本/年の量産(大量生産)型高薬理無菌製剤工場となる。稼働中の本社工場と蔵王第1工場に、新たに蔵王第2工場が加わり、新規受託案件を獲得することで、医薬品セグメントのさらなる事業拡大を目指す。
成長戦略によって医薬品セグメントの成長を加速させ、現在の原薬セグメント中心の収益構造から2030年6月期までに2本柱の事業ポートフォリオとすることで、より安定した事業基盤を持つ企業グループを目指す。また、成長投資と株主還元にも配慮し、設備投資、回収・リターン、株主還元というサイクルを回し、企業を持続的に成長させ、資本コストを意識した経営を目指す。すなわち、ROEの水準維持、流動性改善策(積極的なIR活動の実施、株主還元策、資本政策等)の検討などにより、持続的な企業価値向上を図る。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 国重 希)
《EY》
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