大山季之【米国株マーケット・ビュー】―AI相場、今後のテーマは「そこに愛(AI)はあるんか?」と「カンニング戦略」

特集
2024年4月6日 11時00分

大山季之(松井証券マーケットアナリスト)

◆金融緩和の流れを示した「中銀ウィーク」にマーケットは安堵

17年ぶりのマイナス金利解除を決めた日銀の金融政策決定会合が行われた3月19日の週は、FRB(米連邦制度理事会)など世界の中央銀行の金融政策決定会合が集中した「中銀ウィーク」となった。まず19日、20日の二日間にわたって開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、パウエル議長が引き続き、金融緩和の姿勢を示し続けたことで、マーケットは安堵した。懸念されたリセッション(景気後退)に陥ることなく、物価が徐々に低下していくという、マーケット参加者が期待するシナリオ通りの流れになっていることが確認されたわけだ。

さらに今回の「中銀ウィーク」では、FOMCの翌日、21日にスイス中央銀行が、各国中銀の先陣を切って、利下げを発表し、ちょっとしたサプライズとなった。その後、メキシコ中銀も利下げを発表した。足もとを見れば、アメリカでは早期利下げ観測が後退するという見方もあったのだが、すでに早期利下げの方針を示していたECB(欧州中央銀行)も含め、「中銀ウィーク」で改めて見えてきたのは、グローバルな金融緩和への流れが、確実に進んでいるということだ。

そうした状況を受けて、株式マーケットは一斉に「リスク・オン」となり、S&P500株価指数<^SPX> も最高値を更新している。ただ、現在は好調な米国株式マーケットだが、一つ大きなリスクがある。各国の中銀が金融緩和の姿勢を示しているのは、実際に物価が下がってきているからだが、アメリカでは物価はまだ下がっていない。まだ物価が下がっていないにもかかわらずその状態で、FRBが数カ月後の利下げを示唆しているわけだ。

穿った見方をすれば、2年前に利上げが遅れたために急激なインフレを招いてしまったという反省があり、FRBとしては「同じ失敗を繰り返したくない」という気持ちがあるのかもしれない。だが当然のことながら、物価が下がっていない段階で利下げをしてしまったら、またインフレを再燃させてしまう可能性もある。そうでなくてもトランプが大統領になればインフレが進むだろうし、このまま株式マーケットが期待するままに利下げをして良い結果が出るのだろうか、という不安もなくはない。

◆世界的な株高でラグジュアリー・ブランドが絶好調

とは言え、先日発表されたアメリカ企業の2023年12月-24年2月期決算を見てみると、一部の例外を除いて好決算が続いている。3月22日発表のフェデックス<FDX>は、売上高こそ減少が続いているが、構造改革によって営業利益が大幅に上振れ、50億ドルの自社株買いプログラムを発表したこともあって昨年来高値を更新した。アメリカの投資銀行の先行指標として注目されたジェフリーズ・ファイナンシャル・グループ<JEF>も純利益が前年同期比20%増と好調だった。

目を見張るのが、ラグジュアリー・ブランドのセクターの好調ぶりだ。エルメス、フェラーリ<RACE>、インターコンチネンタル・ホテルズ・グループ<IHG>、ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス<HLT>など、いずれも「バブっているのではないか」と思えるぐらい、年初来、株価が高騰している。

日米の株価にばかり目が向かいがちだが、実はいま、ヨーロッパの株式マーケットも絶好調なのだ。1月の安値と比較してドイツは12%(4月4日時点)、フランスは11%(同)、イタリアは14%(同)と、日本ほどではないが、アメリカに負けずに株価が上昇している。こうした世界的な株高が、富裕層に恩恵を与えていることは確かだろう。

◆「期待外れ」と「期待以上」が混在‥AI銘柄は市場評価で明暗を分ける

AI関連ではマイクロン・テクノロジー<MU>が予想を大幅に上回る決算となってマーケットを驚かせた。同社の決算で改めて明らかになったのは、生成AIを動かすためには大量のメモリーが必要だったということ。同社は、前四半期までメモリー不況で過剰在庫を抱え、赤字続きだったのに、あっという間に在庫が"蒸発した"というのだから。

これから、AIを搭載したパソコンやスマホが続々と発売されるが、一説によると、パソコンでは現行機種からAI搭載機種に移行すると、使用するDRAMメモリーが40~80%増え、スマホでは50~100%増えると言われている。同社は2025年8月期には過去最高の売上高を達成するという見通しを立てているが、ライバルのサムスン電子やSKハイニックスの業績も好調で、同社の業績急回復の背景にはこうしたメモリー市況全体の好転がある。"AIさまさま"といったところだろう。

半面、あまりにも急激なAI銘柄の株価上昇を受けて、"行き過ぎ"を指摘する声も出ている。もちろん、そんなことはないと考えるが、AI銘柄への投資でこれから重要になるのは、「AI事業の収益化」ができているかの見極めだ。例えば、マイクロンと対照的に、これまで有力なAI銘柄と目されていたアドビ<ADBE>は、3月に発表された第1四半期決算で、期待されていたような収益化ができていないことが分かり、株価が急落した。期待が大きい分、会社が考える収益化のタイミングと投資家の想定にズレが生まれてしまったのだ。

あとは、AI半導体銘柄への買い需要が何に基づいているのかを見極めることも必要だ。マイクロン・テクノロジーは業績向上によって株価が上昇した"実需"だが、現在の半導体相場の中で、とりあえず資金を投入していこうという"仮需"を集めている銘柄もあるからだ。例えば、アメリカの半導体保護を目的とした「CHIPS法」を見越して、恩恵のありそうな銘柄に資金を投下する、といったケースだ。

確実に言えるのは、現在のAI銘柄は、マーケットの評価の"入れ替わり"が激しいということだ。マイクロンのように、本命に近いポジションに昇格する銘柄もあれば、IBM<IBM>のように、圏外だったのが「実はAI銘柄だった」と突然、再認識される銘柄もある。逆にアドビのように、本命視されていた銘柄が期待を裏切ってしまう例もある。

そんな中、今後のAI銘柄への投資戦略は、エヌビディア<NVDA>を中心として、基本的には「トレンド・フォロー」で間違いはないだろう。そのうえで、各社の動向を精査して、「AIの収益化」が実際に進んでいるかどうかを慎重に見分けることが必要だ。某CMではないが、「そこに愛(AI)はあるんか?」だ。

と言っても、出入りの激しいAI銘柄を個人が一つ一つ追っていくのは簡単ではない。その場合には、一つの銘柄に資金を集中するのではなく、ETFやファンドを使ってできるだけ関連銘柄に薄く広く、リスク分散しながら投資していく、という方法も賢明なのではないだろうか。ETFでは「グローバルXロボット&AI ETF」<BOTZ>、「グローバルXクラウド・コンピューティングETF」<CLOU>、「グローバルXサイバーセキュリティETF」<BUG>などが挙げられる。

◆「カンニング戦略」でプロの運用を個別株投資判断に生かせ

AI以外では、やはりラグジュアリー・ブランドのセクターに投資をしたいところだ。各社とも株価はすでに上昇しているが、冷静に考えれば、世界的な金融緩和はまだ始まっていない。つまり、これから本格的に富裕層に資産効果が表れてくるのだから、まだまだ上値余地はあるのだ。ただ、こうしたラグジュアリー・ブランドはヨーロッパ企業が多く、個別銘柄としての投資対象になりにくい。そんな中で、注目したいのが「ピクテ・プレミアム・ブランド・ファンド」だ。

このファンドは、アメリカ企業を多く組み込んでいて、アメリカン エキスプレス<AXP>、ビザ<V>、インターコンチネンタル、ヒルトンなどが上位に入っている。月次レポートを見れば、ラグジュアリー・セクターの個別銘柄の投資判断の参考にもなるだろう。

参考になるファンドと言えば、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが運用している「netWIN GSテクノロジー株式ファンド」が面白い。このファンドは1兆円超の総資産をハイテク中心の34銘柄に集中投資するという、かなりリスクを取った運用をしているのだが、特徴的なのは大胆な銘柄入れ替えを続けていることだ。

最新の月次レポートを見てみると、組み込み上位銘柄にはマイクロソフト<MSFT>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、エヌビディア、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>、マーベル・テクノロジー・グループ<MRVL>、セールスフォース<CRM>など、なるほどと思える銘柄が入っているが、少し前まで上位に入っていたアップル<AAPL>やビザは売却してしまっている。

出入りの激しいハイテク銘柄の中から、プロが厳選してポートフォリオに組み入れて運用しているので、運用会社の月次レポートはぜひ定期的にチェックして欲しいと考えている。やみくもに一つの銘柄に集中投資するよりもリスクが低いし、銘柄の取捨選択を学びながら個別株運用に活かしてほしい。もちろん、新NISA(少額投資非課税制度)の成長投資枠でも使えるし、私は「カンニング戦略」と呼んでいるのだが、個別株投資にも大いに参考になるはずだ。

【著者】

大山季之(おおやま・のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト 

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。

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