FRBバランスシート圧縮ペース減速の「実質緩和」で米国株はいよいよ最高値更新へ【フィリップ証券】
米国の主要株価指数は5月に入り堅調に推移し、4月の下落分を取り戻した。15日にはNYダウが1ヶ月半ぶり、ナスダック総合指数が連日で史上最高値を更新した。FOMC(連邦公開市場委員会)でFRB(連邦準備制度理事会)が6月からバランスシート圧縮(量的引き締め=QT)のペース減速を行うと決めたことに加え、米財務省も米国債買入消却を5月下旬~7月にかけて行うとしたこともその原動力だろう。市場がFRBの利下げ観測で一喜一憂する間、実質的な金融緩和は既に進行していると言えそうだ。
他方、物価上昇と景気後退が同時進行する「スタグフレーション」が懸念され始めている。主要株価指数が最高値を大きく更新するには、CPI(消費者物価指数)や小売売上高などでスタグフレーション懸念を払拭することが条件となろう。なお、15日に発表された4月の両経済指標は、CPIコアの伸びが前月から鈍化し、小売売上高は前月比横ばいだった。
ウォルマート<WMT>をはじめ、大手小売企業の決算発表を控える中、足元の決算動向ではプロクター・アンド・ギャンブル<PG>のように衛生関連商品など生活必需品を扱う企業が堅調だった。一方で、飲食関連でスターバックス<SBUX>やマクドナルド<MCD>のように強いブランド力があっても物価上昇が業績に響き始めるケースが目立っている。医薬品・医療関連など、よりディフェンシブ度の高い銘柄が物色される可能性があり、肥満症治療薬のほか日本のエーザイ<4523>と認知症関連の治療薬を共同開発しているバイオジェン<BIIB>などが注目される。
生成AIに係る先端半導体関連株も巻き返しの兆しがある。台湾TSMC<TSM>の月次売上は、直近の4月が前年同月比約60%増となり市場を驚かせた。22日のエヌビディア<NVDA>の四半期決算発表に向けて、生成AIのインフラ(基盤)、プラットフォーム(ソフトウエア)などへと重点がシフトする展開が見込まれる。リレーショナル・データベース(RDB)のオラクル<ORCL>は、その分野で圧倒的な地位を占めている強みを生かし、インフラとプラットフォームの両方を兼ね備えて「クラウド・シフト」を進めており、注目されよう。
関連銘柄
アムジェン<AMGN> 市場:NASDAQ・・・2024/8/2に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1980年設立のバイオテクノロジー企業。遺伝子組換え技術や分子生物学的技術を軸として、循環器疾患、癌、骨疾患、神経疾患、腎疾患、炎症性疾患などの治療薬の研究開発を手掛ける。
・5/2発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比22.0%増の74.47億USD、非GAAPの調整後EPSが同0.5%減の3.96USD。高コレステロール血症治療薬(レパーサ)、重症喘息治療薬(テゼペルマブ)、骨粗鬆症治療薬(イベニティ)等が増収貢献。他方、調整後営業利益率が同5.1ポイント低下。
・通期会社計画は、売上高が前期比15-20%増の325-338億USD、調整後EPSが同2-8%増の19.0-20.2USD。開発中の肥満症薬「マリタイド」は、既に出回っているノボ・ノルディスク<NVO>、イーライ・リリー<LLY>の治療薬に比べて少ない頻度の注射で効果が長く続くほか服用を中止した際の体重のリバウンドが起きにくいという治験データが出ている。第3の有力プレーヤー候補として注目される。
オラクル 市場:NYSE・・・2024/6/12に2024/5期4Q(3-5月)の決算発表を予定
・1977年設立のソフトウェア企業。主にデータベース管理システム(DBMS)を企業向けに提供。サーバーとストレージ販売・サポートのハードウェア事業、クラウドサービスに係るサービス事業を営む。
・3/11発表の2024/5期3Q(12-2月)は、売上高が前年同期比7.1%増の132.80億USD、非GAAPの調整後EPSが同15.6%増の1.41USD。契約済・売上未計上の残存履行義務(RPO)が同29%増の800億USD。クラウド関連収入が同25%増の51億USD(内、インフラが49%増、アプリケーションが14%増)と成長。
・2024/5期4Q(3-5月)会社計画は、調整後EPSが前年同期比3.0-0.6%減の1.62-1.66USD。生成AI向けのデータ処理増加に伴いクラウド基盤を使う企業の需要が高まる見通し。同社は日本のクラウド・コンピューティングとAIに10年で80億USD投資計画を発表。日本企業はデータやサービスの自前管理の需要が強く、DBサーバーに強い同社のクラウド・インフラの強みが見込まれる。
台湾積体電路製造[TSMC] 市場:NYSE・・・2024/7/22に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1987年設立。台湾本拠の世界最大の専業ファウンドリ(半導体受託生産)。同社製造の半導体はモバイルデバイス、高性能コンピューター(HPC)、車載半導体、IoT等の多様な半導体市場に跨る。
・4/18発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比12.9%増の188.7億USD、EPSが同5.3%増の1.38USD。スマホやパソコン向けが回復途上にあることから粗利益率が同3.2ポイント低下の53.1%と悪化も、生成AI向けなど先端半導体の受託生産が好調で4四半期ぶりの増収増益。
・2024/12期2Q(4-6月)会社計画は、売上高が前年同期比25.0-30.1%増の196-204億USD、粗利益率が51-53%(前年同期54.1%)。5/10発表の4月の売上高が前年同月比59.6%増の2360億台湾ドルと、4月としての過去最高、前年同月比で4ヵ月連続プラス、前月比で20.9%増収、単月ベースで23年10月に続く過去2番目高水準。10日終値で予想PER(株価収益率)は24.8倍と割高感は薄い。
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