米国株相場の転機~新興国市場とラッセル2000【フィリップ証券】
相場は大きな転機なのだろうか? 11日発表の6月の消費者物価指数(CPI)は前月比0.1%低下と、2020年5月以来のマイナス。パウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長は15日、「インフレ率が2%に達するまで待たない」方針を示した。これらを受けてCMEグループのFEDウォッチによれば、市場は9月に少なくとも0.25ポイントの利下げ実施の可能性を完全に織り込んだ。
先週末にトランプ前大統領銃撃の暗殺未遂事件が発生。トランプ氏は負傷したものの、健康不安がつきまとうバイデン大統領と対照的なタフさを印象付けたこともあり、大統領選への当選確率が跳ね上がった。15日の米国株市場は「確トラ(確実にトランプ)」シナリオから財政拡大の恩恵を受ける景気敏感銘柄のほか、石油・天然ガスなど化石燃料エネルギー開発規制や、自己資本規制などの緩和が期待される石油株、銀行株などが物色された。テスラ<TSLA>のイーロン・マスクCEOもトランプ氏への献金を公表。「フリーダム・シティ」構想からロボタクシー事業を睨んだ規制緩和へベットしているように見受けられる。
財政拡大による長期金利上昇と利下げにより、景気後退の兆しとされる長短金利の逆イールドの解消が期待される。米国債利回りの15日終値は、30年債と2年債の利回りが4.46%で同水準、10年債と2年債の逆イールドは0.23ポイントに縮小した。ただ、過去の歴史では「ITバブル」崩壊前の2000年3月、および「サブプライム・ショック」前の2006年末に逆イールドが解消され、その後順イールド格差が拡大に向かっていた。また、1981年3月30日にレーガン大統領の暗殺未遂事件が発生。その際のレーガン氏の対応で支持率が大きく上がったものの、主要米国株価指数は翌年の8月まで下落トレンドで推移。足元のトランプ人気の盛り上がりへの期待は早計かもしれない。
利下げ見通しがドル売りを伴えば、米国に近く地の利がある中南米の新興国への恩恵が大きそうだ。ブラジルはトランプ氏が目指す規制緩和に関して金融分野で先行している。ブラジル中央銀行が開発した即時決済システム「PIX(ピックス)」はいまやブラジル人の大半が利用するインフラへと成長。手軽なデジタル決済手段の登場により銀行口座の開設も増加。ヌー・ホールディングス<NU>のヌーバンクを筆頭にフィンテックの進展が目覚ましい。また、中南米以外でも米中対立に伴うサプライチェーン分断が進む中で米国の友好関係にある市場は、米国企業からの投資が見込まれやすいだろう。
時価総額加重平均指数のS&P500やナスダック100は、それぞれ均等加重平均の場合との乖離が大幅拡大。小型株指数「ラッセル2000」の過去最高値更新を試す辺りが一旦の転機となる可能性も考えられよう。
参考銘柄
アスペン・テクノロジー<AZPN> 市場:NASDAQ・・・2024/8/1に2024/6期4Q(4-6月)の決算発表を予定
・1981年設立。プロセス製造業(石油やガス、化学、エンジニアリング、建設等)向け資産最適化ソフトウェアを提供する米IT企業。顧客企業のスループットやエネルギー効率、生産性の向上を支援。
・5/7発表の2024/6期3Q(1-3月)は、売上高が前年同期比21.0%増の2.78億USD、非GAAPの調整後EPSが同60.4%増の1.70USD。世界的な脱炭素化への投資拡大を追い風として、ライセンスとメンテナンスの両契約に係る年換算価値が同9.5%増、営業活動キャッシュフローが同5.4%増と伸長。
・通期会社計画を下方修正。年初以降に顧客が投資に慎重になっていることを反映し、売上高を前期比5.4%増の11.0億USD(従来計画11.2億USD)、調整後EPSが同10.0%増の6.29USD(同:6.59USD)とした。同社は生成AI(人工知能)に至るAI進化をソフトウェアに組み込み、様々な業界に跨るバリューチェーンの繋ぎ合わせに取り組む。利下げと規制緩和があれば顧客企業の投資拡大を後押ししよう。
エンブラエル<ERJ> 市場:NYSE・・・2024/8/8に2024/12期2Q(4-6月期)の決算発表を予定
・1969年設立のブラジルの航空機メーカー。世界3位の航空機メーカーでブラジル最大の輸出企業。民間航空機やプロペラ機、軍用機、ビジネスジェット機の設計、開発、製造、販売を行う。
・5/8発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比25.1%増の8.96億USD、非IFRSの調整後EPSが前年同期の▲0.48USDから▲0.07USDへ赤字幅縮小。3月末受注残は昨年末比13%増の211億USD。内、商業航空機が26%増の111億USDと貢献。引き渡し機数が前年同期比7機増の25機。
・通期会社計画は、売上高が前期比14-21%増の60-64億USD、調整後フリーキャッシュフローが同31%減の2.20億USD以上で従来計画据え置き。同社傘下で「空飛ぶ車」の電動垂直離着陸機(eVTOL、イーブイトール)の設計製造を手がけるイブ・ホールディング<EVEX>はeVTOL受注残が13ヵ国・30顧客対象に2900機(3月末時点)と世界有数。米利下げは主要新興国市場へ追い風となろう。
コーニング<GLW> 市場:NYSE・・・2024/7/30に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1851年創業。世界最大級のガラス製品メーカーであり、液晶ディスプレイ用ガラスパネル、光通信の光ファイバー、ガソリン微粒子排出物制御用のセラミック基板・フィルター製品などが主力製品。
・4/30発表の2024/12期1Q(1-3月)は、非GAAPコア売上高が前年同期比3.2%減の32.58億USD(会社予想:31億USD)、コアEPSが同7.3%減の0.38USD(同:0.32-0.38USD)と、利益面で会社予想範囲の上限推移。顧客在庫調整一巡に光接続製品の需要増で1Qで年内底入れの可能性が示唆された。
・2024/12期2Q(4-6月)会社計画は、コア売上高が前年同期比2%減の34億USD、コアEPSが同7%減~2%増の0.42-0.46USD。同社は7/8、2Q暫定決算を発表しコア売上高を36億USDへ上方修正。データセンター上で生成AI(人工知能)に係る機械学習・深層学習向けの大量・高速データ通信を行うための光ファイバー接続の新製品需要加速。会社は向こう3年程度の好循環サイクルを見込む。
メルカドリブレ<MELI> 市場:NASDAQ・・・2024/8/2に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1999年設立。中南米でeコマースシステム提供のウルグアイ国籍企業。電子決済「Mercado Pago(メルカドパゴ)」に係る「フィンテック事業」、およびEコマース「Mercado Libre(メルカドリブレ)」を中心とする「コマース事業」を営む。
・5/2発表の2024/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比36.0%増の43.33億USD、非GAAPの調整後EBITDAが同25.4%増の6.82億USD。為替(ドル高)の影響を除けば、同94%増収、フィンテック事業における総決済金額が同86%増、コマース事業における総流通金額が同71%増と拡大した。
・2024/12期の会社計画は非公表。1Qの米ドルベースは、ブラジルが前年同期比57%増収、メキシコが59%増収の一方、アルゼンチンは通貨安が響き22%減収。主力のブラジルは中央銀行が開発した即時決済システム「ピックス」の利用が急増し、人口の7割超が使う巨大サービスに成長と追い風が吹く。米利下げがあればアルゼンチン通貨安への歯止めを通じた業績押し上げも期待される。
PLDT<PHI> 市場:NYSE・・・2024/8/2に2024/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1928年設立のフィリピン最大の電気通信企業。「スマート」ブランドの移動体通信、および固定通信を主な事業とする。どちらも競合のグローブと市場シェアを概ね二分。NTTグループが約20%保有。
・5/9発表の2024/12期1Q(1-3月)は、通信サービス収入が前年同期比5.0%増の521.95億PHP(フィリピンペソ)、継続事業に係るコアEPSが同8.4%増の41.27PHP。登録者数(内、約89%がモバイル)が同8.8%減もデータ・SMSサービスで1ユーザー当たり平均収入増加。売上高費用率が同4.6ポイント低下。
・フィリピンは英語力の高さを生かし、企業のコールセンターなどビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を成長産業に位置づける。米国が南シナ海への海洋進出を強める中国を念頭にフィリピンと経済分野も含めて協力を深め、米メタ・プラットフォームズ<META>とフィリピン政府が4月、フィリピンと米国を結ぶ太平洋横断海底ケーブルとフィリピン基幹通信網を接続。配当利回り面も注目される。
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