米国株の市場環境は変わったのか?【フィリップ証券】
足元の大きな株価調整を経て、米国株市場の環境は大きく変わったのだろうか? 米FOMC(連邦準備制度理事会)では、米FRB(連邦準備制度理事会)による9月の0.25%利下げの可能性が高まったに過ぎなかったが、米ISM(サプライマネジメント協会)が発表した7月の製造業景況感指数が46.8と悪化。更に、7月の雇用統計では失業率が4.3%と6月の4.1%から上昇し、9月の0.5%利下げ、年内合計1.25%の利下げ見通しが一挙に高まった。
「失業率の3ヵ月移動平均が過去12ヵ月間の最低値から0.5ポイント超上昇した場合、景気後退に陥る可能性が高まる」という「サーム・ルール」が発動したとしてダウ工業株30種平均の終値が前日比610ドル安となった。サーム・ルールは過去50年のデータで検証した場合に完璧な有効性を示しているとされるが、市場が過剰に反応した可能性もある。5日発表の7月の米ISM非製造業景況指数は51.4(6月実績:48.8、市場予想:51.0)に改善し、ひとまず落ち着きを取り戻している。
米国株の主要銘柄にも、悪材料の精査が進んでいるようだ。米半導体インテル<INTC>の株価終値が2日、前日比26%下落。業績悪化と人員削減を受けて売りが広がった。ただ、インテルは競合他社と比べてAI半導体の開発で出遅れていたことから、生成AIで先行している他の半導体企業がつられて売られる理由には乏しい。AI半導体で主役のエヌビディア<NVDA>も次期AI半導体の「ブラックウエル」が設計上の不備で遅れる見込みと報道された。それでも、アルファベット<GOOGL>やマイクロソフト<MSFT>、アマゾン・ドット・コム<AMZN>など大型ITハイテク企業が生成AIへの投資に注力し過剰投資が懸念されて株価が売られやすくなっている中では、エヌビディアは恩恵を受ける立場として再評価の余地があろう。エヌビディアをAI半導体で追撃するアドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>には更に「追うものの強み」もありそうだ。
アップル<AAPL>も著名投資家バフェット氏率いる投資会社が4-6月にその保有をほぼ半減させたと報じられ話題となっている。ただ、アップルは次世代「iPhone16」を今年後半に少なくとも9000万出荷を目指し、サプライヤーやパートナー企業に対し出荷台数で前機種に対し約1割増加を目標とするなど強気だ。「エッジAI」の恩恵を受けるAI半導体銘柄は引き続き有望だろう。
関連銘柄
アドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD> 市場:NASDAQ・・・2024/10/31に2024/12期3Qの決算発表を予定
・1969年設立の半導体企業。法人向けエンタープライズ事業のほか、CPU (Ryzen他)、GPU(Radeon他)、両者統合のAPUなど製品も手掛ける。22年2月に半導体FPGA大手ザイリンクスの買収を完了。
・7/30発表の2024/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比8.9%増の58.35億USD(会社計画54-60億USD)、非GAAPの調整後粗利率が同3ポイント上昇の53%(同:53%)、EPSが19.0%増の0.69USD。AI(人工知能)半導体の貢献でデータセンター売上高が同2.1倍の28.34億USDと業績拡大を牽引。
・2024/12期3Q(7-9月)会社計画は、売上高(中心値)が前年同期比16%増の64-70億USDと伸びが加速、調整後粗利益率が同2.5ポイント上昇の53.5%。圧倒的な存在感を示すエヌビディアへの追撃で前進。新しいAIアクセラレーター「MI300」の通期売上見通しが45億USDへ上方修正されたほか、生成AI普及はPCなどクライアント部門(2Qが同50%増収)の押し上げ効果も期待されよう。
アーム・ホールディングス<ARM> 市場:NASDAQ・・・2024/11/8に2025/3期2Q(7-9月期)の決算発表を予定
・1990年設立の英企業でソフトバンクグループ <9984> [東証P]傘下。世界の半導体企業向けに高性能・低コスト・高エネルギー効率のCPU製品と関連技術を設計・開発し、ライセンスを供与。スマホ向けは世界市場独占。
・7/31発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比39.1%増の9.39億USD(会社計画8.75-9.25億USD)、非GAAPの調整後EPSが同66.7%増の0.40USD(同:0.32-0.36USD)と、会社計画レンジ超過。受注残を意味し、将来売上に繋がる残存履行義務(RPO)が同29%増の21.68億USDと拡大。
・通期会社計画は、売上高が前期比18-27%増の38-41億USD、調整後EPSが同14-30%増の1.45-1.65USDと従来計画を据え置き。同社半導体設計製品の世界シェア(2022年)はモバイル99%と独占しスマホ市場回復の恩恵をフルに受けるポジションとして、アップルが発売予定の生成AI採用の新型iPhoneのほか、省電力が要請されるオンデバイス(エッジ)対応需要が高まろう。
クアルコム<QCOM> 市場:NASDAQ・・・2024/11/1に2024/9期4Q(7-9月)の決算発表を予定
・1985年設立。ワイヤレス機器で使用する半導体製品の設計・開発・基盤技術商業化を行う。半導体チップ販売のQCT、ライセンス販売のQTLの主要2事業のほか新興企業への投資等のQSIを営む。
・7/31発表の2024/9期3Q(4-6月)は、売上高が前年同期比11.1%増の93.93億USD(会社計画88-96億USD)、非GAAPの調整後EPSが同24.6%増の2.33USD(同:2.15-2.35USD)と、それぞれ会社予想レンジ上限。QCTの内、主力のスマホ向けが同12%増収へ回復に加えて、車載向けも同87%増収。
・2024/9期4Q(7-9月)会社計画は、売上高が前年同期比10-19%増の95-103USD、調整後EPSが同21-31%増の2.45-2.65USD。米調査会社IDCによれば、2024年4-6月のスマホの世界出荷台数が前年同期比6.5%増で3四半期連続で増加と回復基調。首位サムスン電子は、クアルコムが開発したオンデバイス型の省電力AI半導体を採用したAI機能付き最新スマホが売上に貢献。
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