配当・優待権利に注目、経過措置適用企業は筆頭株主に注目【フィリップ証券】

市況
2024年9月18日 16時35分

日経平均株価は史上最高値4万2426円を付けた7/11から3万1156円の年初来安値8/5まで17(営業)日間の下落、その19日後の9/2に3万9080円の戻り高値を付けた。今週の「メジャーSQ週」にかけて下落に転じるなか、米大統領選候補者討論会が行われた日本時間9/11に3万5253円を付けた翌日以降、米国消費者物価指数(CPI)発表を経て半導体関連を中心に反発の兆しだ。

ただ、米国株市場ではS&P500指数が史上最高値を付けた7/16から9/10までの同指数構成銘柄を見ると半導体関連が特に下落率が大きいことが分かる。ある程度の戻りが期待できるとしても押し目買いから買い上げるスタンスは難しいだろう。特に米国時間9/18結果発表のFOMC(連邦公開市場委員会)を控えて米国債利回りの10年物と2年物の逆イールド解消が定着する場合、大型ハイテク株と半導体関連に偏っていた「歪み」が正常化・矯正の局面に向かう可能性が高いとみられる。米国株市場は既にヘルスケアと飲食チェーン、防衛関連に物色が大きくシフトしている。

日本株では9月末基準日の配当権利付き銘柄への物色が活発となる展開が想定される。株主還元・配当方針も配当性向引上げだけでなく、中長期的に利益水準に左右されない配当へのシフトを目指し、株主資本配当率(DOE)を基準とするほか、配当水準の下限を決めて減配をしない(増配または維持)ことを会社が約束する「累進配当」を導入する企業が増えている。「日経累進高配当株指数」はその構成銘柄が累進配当を10年以上続ける銘柄のうち予想配当利回りが高い銘柄ということで注目される。

最近は「株主平等原則」の観点から本業に無関係な株主優待を廃止して増配に回す企業が増える中で、株主優待制度を維持しつつ予想高配当利回りの銘柄は貴重だ。「銘柄ピックアップ」で取り上げた商船三井<9104>のほかに日本製鉄<5401>も鹿島アントラーズ観戦や紀尾井ホール演奏会招待などの優待制度がある。

上場維持基準を下回っていても暫定的に上場を認める「経過措置」が来年3月以降に順次終了することが決まるなか、主に流通株式比率または流通株式時価総額で本来の上場維持基準を満たしていない会社(経過措置適用)のうち東証プライム上場企業は、取引所8/15公表分で71社。その内、18社は筆頭株主が上場企業だ。親子上場が少数株主保護の観点から問題ありとされる中で筆頭株主が株式売出して需給を悪化させてまで上場を維持する価値があるのか問われよう。親子または関係会社上場で筆頭株主による完全子会社化等のTOBが増える可能性もあろう。

■日経累進高配当株指数の30銘柄

9月権利付き最終売買日を26日に控え、高配当利回り銘柄が注目されやすい時期だ。昨年6月末から公表が開始された「日経累進高配当株指数(愛称:しっかりインカム)」は、実績ベースで減配せず増配か配当維持(累進配当)を10年以上続ける銘柄のうち、日経の予想配当に基づく配当利回りが高い順に30銘柄で構成され、年1回定期見直し、6月末に入れ替えとされる。結果的には予想低PER(株価収益率)、低PBR(株価純資産倍率)銘柄が揃っていることもあり、東証が掲げる、投資者の視点を踏まえた「資本コストや株価を意識した経営」の観点から自社株買いを含めた更なる株主還元が期待できる余地もありそうだ。

新NISA成長投資枠で非課税メリットを堅実に享受する上では有効だろう。

(図表1)

【タイトル】

シップヘルスケアホールディングス<3360>

・1992年設立。医療・保健・福祉・介護の分野で、一括受注の総合サービスを行うトータルバックプロデュース事業のほか、メディカルサプライ事業、ライフケア事業、調剤薬局事業その他を営む。

・8/9発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比6.0%増の1552億円、営業利益が同8.8%減の35.02億円。売上比率73%のメディカルサプライが同11%増収、同16%のトータルバックプロデュース事業が9%減収、ライフケア、調剤薬局が増収増益も主力2事業がそれぞれ23%、17%営業減益。

・通期会社計画は、売上高が前期比1.4%増の6400億円、営業利益が同6.0%増の260億円、年間配当は同3円増の53円。米国市場でヘルスケア関連物色が強まるなか日本でも医療介護総合確保推進法の施行を受け、団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けた医療提供体制改革および地域包括ケアシステム構築が進められることは、高利益率のトータルバックプロデュース事業へ追い風だろう。

テクノプロ・ホールディングス<6028>

・2006年設立後2012年に経営陣がMBOを実施しその後M&Aを通じ業況拡大。製造業の技術開発に係る技術者派遣・請負中心にR&Dアウトソーシング、施工管理アウトソーシング、国内その他、海外の4事業。

・8/8発表の2024/6通期は、売上収益が前期比9.7%増の2192億円、売上総利益から販管費を減算した事業利益が同14.1%増の243.95億円。国内在籍技術者数が同8.0%増の2万6504人、平均稼働率が95%(同0.2ポイント低下)、月次平均売上単価がソリューション事業拡大により同1.3%増の67万8000円。

・2025/6通期会社計画は、売上収益が前期比8.1%増の2370億円、事業利益が同10.7%増の270億円、年間配当が同10円増配の90円。中期経営計画(22年6月期初年度5ヵ年計画)で26年6月末に2万7500人迄増やす計画だったが年間2000人増員予定から前倒し達成見通し。IT分野が半数を占めるなか自動運転技術や電気自動車(EV)向け需要増の輸送用機器を中心に派遣先が幅広くなった。

極東開発工業<7226>

・1955年に横浜市で設立し特装車の販売を開始。特装車事業(ダンプトラック、タンクローリ、ごみ収集車など)、環境事業(リサイクル施設の製造販売)、パーキング事業(立体駐車装置関連)を営む。

・8/7発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比9.7%増の286億円、営業利益が前年同期の▲8700万円から9.31億円へ黒字転換。売上比率86%の特装車事業は、同11%増収、営業利益が前期▲2.40億円から7.33億円へ黒字転換。パーキング事業は増収増益、環境事業は減収減益。

・通期会社計画は、売上高が前期比4.7%増の1340億円、営業利益が同30.6%増の63億円、年間配当が同93円増配の150円。25年3月期までの中期経営計画では各年度の総還元性向100%に加え、機動的な自社株買い、年間配当下限を54円に設定。同社は日経累進高配当指数の構成銘柄で予想配当利回りは5.8%台。「物言う株主」ストラテジックキャピタルも保有割合増加を継続中。

商船三井<9104>

・1964年に大阪商船と三井船舶が合併。ドライバルク事業、エネルギー・海洋事業、製品輸送事業、関連事業を主に営む。2022年1月に不動産のダイビルと港湾運営の宇徳をTOBで完全子会社化。

・7/31発表の2025/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比13.2%増の4359億円、営業利益が同66.2%増の406億円。日本郵船<9101>、川崎汽船<9107>を含む3社のコンテナ定期船事業オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)からの持分法投資利益上振れ寄与で経常利益は同20.2%増の1086億円。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比11.5%増の1兆8150億円(従来計画1兆8000億円)、経常利益を同35.1%増の3500億円(同:2300億円)、年間配当を同60円増配の280円(同:180円)とした。2023-25年度は配当性向を22年度の25%から30%へ引き上げる一方、下限配当(150円)を導入。配当利回り(足元5.9%台)と「にっぽん丸・MITSUI OCEAN FUJIクルーズ」の株主優待の両睨み。

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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