世代交代! AWSの立役者、Aジャシーが新CEOに就任 アマゾン・ドット・コム⑧ Buy&Hold STORIES-4-
アマゾン・ドット・コム<AMZN>
第3章Part8
- 第1章 アマゾン始動‥ネット書店開店、そしてドット・コム・バブルへ
- 第2章 株価低迷期にアマゾン躍進を担う2大プロジェクトが始動!
- 第3章 膨張するアマゾン帝国、「4本目の柱」は何か?
第3章 膨張するアマゾン帝国、「4本目の柱」は何か?
8. 世代交代! AWSの立役者、Aジャシーが新CEOに就任
"大功労者"ジェフ・ウィルケ勇退、そしてベゾスはアンディ・ジャシーを後継者に指名
コロナ禍における"巣ごもり需要"が爆発する中で、アマゾン・ドット・コム<AMZN>の2021年12月期は、売上高4698億ドル(前年同期比22%増)、営業利益248億7900万ドル(同9%増)、最終利益333億6400万ドル(同56%増)と、過去最高の決算内容となった。コロナ禍の2年間で改めて明らかになったのは、直販とサード・パーティー(外部事業者)を含めたオンライン・ショップ、「アマゾン・プライム」のサブスクリクション事業、社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に対応した「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」というアマゾンの主力事業に対する潜在需要の大きさだった。
現在のアマゾン事業のすそ野はあまりにも広く、ベゾスが2000年代の初頭から訴えていた「エブリシング・カンパニー」へと限りなく近付いてきている。祖業、「amazon.com」のオンライン・ショップでは、「マーケットプレイス」のサード・パーティーの売上高が急増し、世界中のセラーが提供する商品を誰もが簡単に買うことができるし、「プライム・ビデオ」は次々に話題作を発表し、世界の動画配信市場の中ではネットフリックス<NFLX>に次ぐ第2位の位置に付けている。もちろん、世界のクラウド市場を開拓してきたAWSは市場シェアが30%を超え、トップの地位を不動のものにしている。
株価も21年7月13日の188.65ドル(分割修正後、以下同)を頂点に、160ドル以上の水準に定着。この期の利益剰余金は859億ドル超にも上り、アマゾンの強さが際立った年となった。そして、業績好調なこの年に、アマゾンはこれまでの歴史の中で最も大きな2つの人事を発表した。ひとつはアマゾン・ドット・コムの創業者にして世界有数のカリスマ経営者、ジェフ・ベゾスからアンディ・ジャシーへのCEO(最高経営責任者)交代。そして、1999年の入社以来、フルフィルメントセンターをはじめとしたアマゾンの物流部門の改革をけん引してきた同社EC(電子商取引)部門トップ、ジェフ・ウィルケの勇退である。
長らくアマゾンの物流、EC部門をけん引してきた"陰の功労者"ジェフ・ウィルケ
CEO交代劇の陰に隠れてあまり注目されていなかったが、ジェフ・ウィルケこそは、ベゾスを除けば、「アマゾン成長の最大の功労者」という声も多く、一時はベゾスの後継者の有力候補と言われていた。だが20年8月、アマゾン全従業員に「後任と交代すべき時が来た。私が20年以上にわたって二の次にしてきた個人的な関心を追求する時間をとる時がきた」というメッセージを残し同社を勇退した。
様々な分野に事業が拡大していく中で、ともするとその存在感が薄くなりがちだが、創業以来、アマゾン・ドット・コムという会社の中で最も重要なセクションは、ウィルケが担当した物流部門と言っても過言ではない。ウィルケの陣頭指揮によって、売れれば売れるほど赤字が拡大した2000年代前半までの物流コストを大幅に削減し、いかにしてアマゾン独特の、膨大な小口注文を、効率よく、低コストで、しかも迅速にさばくことができるかという、とてつもない難題をクリアしてきたからこそ、現在のアマゾンのすべての事業の繁栄につながってきたのだ。
「アマゾン・プライム」というサービスができたのも「マーケットプレイス」の出品者が増えたのも、ベゾスとともに推し進めた「フルフィルメント・バイ・アマゾン(FBA)」のシステムが構築されたからだ。そして「アマゾン・プライム」があったからこそ、「プライム・ビデオ」のサービスも生まれた。AWS誕生のきっかけとなったのも、膨張する物流システムに対応するため、サーバー増強の必要性が生じたことにあった。多くの新サービスの起点は物流部門にあったのだ。
「アマゾン・キンドル」、「アマゾン・エコー」といった新製品や、ハリウッドへの進出など派手な話題がメディアを賑わせた2010年代も、着々とアマゾンの物流改革は進んでいた。2012年にロボット・システムのスタートアップ企業、キバ・システムズを買収。これによって、アマゾンのフルフィルメントセンターの自動化は急速に進展し、現在の驚異的な物流管理体制は構築された。
米郵政公社、ユナイテッドパーセルサービス(UPS)<UPS>、フェデックス<FDX>などの外部業者に頼っていた配送を、自社で賄うための取り組みを始めたのもこの時期だ。代表的な施策は、15年12月に子会社を立ち上げ、16年春にボーイング<BA>の貨物機40機をリースして始まった「アマゾン・エア」という自社空輸サービスだ。その後、アマゾン専用機は増え続け、全米各地の空港と、アマゾンの物流のハブ空港として使用する契約を結ぶなど、着々と事業規模を拡大している。
世界的なアマゾンEC物流網を支える「アマゾン・エア」
さらに各配送拠点から自宅までの、いわゆる「ラストワンマイル」でも自前の配送網を構築するために、新規配送事業者向けの自動車リース・サービスをスタート。これらを含めた自社配送は2019年、これまでアマゾンの物流を担っていた大手3社を抜き、アマゾンの配送シェアのトップとなった。商品の注文受付から在庫保管・管理、そして配送まで、アマゾンのECサービスのすべてを一気通貫で行う体制が整ってきたのだ。
こうしたウィルケ率いるEC部門の弛まぬ物流改革がなければ、ひょっとしたら今でもアマゾンは万年赤字体質から脱し切れていなかったかもしれない。そうした功労者が同社を去り、一つの時代の幕を下ろしたのだ。
一方、アマゾンの創業記念日、2021年7月5日にベゾスからバトンを受けたアンディ・ジャシーは、1997年にアマゾンに入社。2000年代にはベゾスの右腕として、アマゾンの秘密兵器、AWSの立ち上げに全精力を傾け、見事、クラウド・コンピューティングの先駆者として高収益の新事業を立ち上げ、発展させてきた。ウィルケと並ぶアマゾン・ドット・コムの大功労者であるとともに、ベゾスの経営思想を誰よりも体得した人物でもあり、ベゾスの後継者としては誰もが納得する人選だった。
「私はアンディ・ジャシーに全幅の信頼を寄せています」。21年2月、ベゾスは全従業員にメールで自身のCEO退任を告げ、こう続けた。
「アマゾンは将来に向けて、最高の立場にいます。私たちは個人と企業にサービスを提供し、2つの産業を創出し、全く新しいデバイスを発明しました。アマゾンは機械学習や物流など様々な分野でリーダーであり、もし新たなスキルを必要とする場合でも、その習得に十分な柔軟性と忍耐力があります。発明を続けてください。最初はクレイジーに見えても絶望しないでください。好奇心を羅針盤にしてください。今日もまだ、『デイ・ワン』です」(『Forbes JAPAN』2021年2月3日配信記事より)
オンライン・ショップとクラウド・サービスという2つの新たな市場を世界に生み出し、それぞれの市場リーダーとしての地位を維持しつつも、時代の変化やテクノロジーの進化とともに、新たな発明を続けていく。ベゾスの思想「ジェフィズム」の正当後継者としてアンディ・ジャシーに課された使命は、この言葉に集約されているのではないか。
一代で巨大帝国を築き上げたベゾス。後進に道を譲った今、何を思う?
無人店舗、広告、自動運転、生成AI、それとも?‥「第4の柱」は生まれるのか