師走相場の3つのリスク要因と注目すべき投資分野【フィリップ証券】
12月の株式市場は「師走相場」と呼ばれ、「掉尾(とうび)の一振」や「クリスマス・ラリー」などの言葉で表されるように上昇相場への期待が高まりやすい。1949年から2023年までの日経平均株価における12月相場の騰落の実績を見ても47勝28敗と、高い勝率だ。今年の師走相場も堅調に推移するのだろうか?考慮すべき点として、「関税政策など米トランプ次期政権の政策による企業収益や日本経済への影響」、「日銀金融政策決定会合(12月18・19日開催)における追加利上げ観測」、「欧州の経済悪化と政局の不安定化に伴うユーロ売りの影響」といった3点が挙げられる。
トランプ次期大統領は日本時間11/26日午前、SNS上で来月1月の大統領就任初日にメキシコとカナダへ25%の関税を課すための大統領令に署名すると表明。中国にも10%の追加関税を課すと投稿。メキシコでの生産が北米での販売を支えている面がある大手自動車メーカーにとって逆風は避けられないだろう。
日銀の金融政策については、労働団体の「連合」が来年の春闘での賃上げ率について定期昇給分を含めて全体で5%以上、中小企業で6%以上を求める方針のほか、11/29に発表された東京23区の11月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)が前年同月比2.2%上昇と10月の1.8%上昇から加速するなど、利上げを正当化し得る環境は整っている。既に市中金利も11/28の全銀協TIBOR(東京銀行間金利)3ヵ月物金利が0.57%と追加利上げは織り込まれている。当面は円高圧力として日本株の上値を抑えやすいだろう。
欧州情勢については、S&Pグローバル発表の11月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)が大幅に悪化したことに加え、フランスで歳出削減と増税を盛り込んだ2025年予算案の議会承認に向けた折衝の難航と内閣不信任による政権崩壊の可能性といった政局不安のダブルパンチが発生している。特に仏10年国債利回り上昇を背景に、独仏10年債利回り格差は11/27に0.90%と、12年前のユーロ危機以来の高水準を記録。ユーロ売りも円高圧力として日本株の上値を抑える要因となりそうだ。
銀行株は日銀の追加利上げ観測に加え、NTTドコモによる住信SBIネット銀行<7163>買収の観測など、大規模な業界再編が囁かれ始めた。損保株は政策保有株式売却を通じた株主還元強化の動きがみられる。売られ過ぎの半導体関連銘柄は、半導体売上や半導体製造装置販売高の堅調な推移が続いている点に注目したい。「過度な期待」で買われ過ぎた一部IT関連銘柄の株価も、「幻滅期」での大幅下落を経て、生成AI(人工知能)を活用したDX(デジタル変革)需要を背景に立ち直りつつある点も注目だ。
■半導体と半導体製造装置の売上
米国上場の主要な半導体関連30銘柄で構成されるフィラデルフィア半導体株(SOX)指数は、7/11に付けた過去最高値5931ポイントから下落後、5000ポイントを挟んで横ばい圏で推移している。
米国半導体工業会(SIA)が発表した9月の世界半導体販売額(3ヵ月移動平均)は、前年同月比23.2%増と11ヵ月連続で前年実績を上回り、前月(同20.6%増)を上回る伸びを記録。また、日本半導体製造装置協会(SEAJ)による10月の日本製半導体製造装置(輸出を含む)の販売額(3ヵ月移動平均)は前年同月比33.4%増と、10ヵ月連続で前年実績を上回り、前月(同23.4%増)から伸びが加速。半導体と半導体製造装置の直近の販売実績からすれば、半導体株の株価が再び上値を試す展開が見込まれる可能性があるだろう。
■不動産株と銀行株は逆相関か?
金利上昇局面では、預貸利ざや拡大への期待を背景として銀行株が買われ、借入金利上昇による収益圧迫を懸念して不動産株が売られやすいとされる。ところが、21世紀初以降のTOPIX業種別指数の不動産と銀行の株価動向を見ると、国内長期金利が変動する局面では、不動産株と銀行株は逆相関どころか、連動する傾向にある。借入金利上昇は、不動産会社からすればコスト増を将来の賃料や売却価格に転嫁する余地があることから中長期的な収益圧迫要因になりにくい。不動産価格上昇が担保価値上昇を通じて銀行貸出余力を拡大しやすい。
不動産株と銀行株の株価が中長期的に連動しやすいとすれば、相対株価から見て銀行株は不動産株に対して大きく出遅れている面があることもうかがえる。
参考銘柄
テラスカイ<3915>
・2006年設立。セールスフォース<CRM>やAWS(Amazon Web Service)のクラウドシステムに関する「ソリューション事業」、およびSaaSベンダーとして国内外にクラウドサービスを提供する「製品事業」から構成される。
・10/15発表の2025/2期1H(3-8月)は、売上高が前年同期比33.5%増の119億円、営業利益が同177.3%増の6.1億円。売上比率93%のソリューション事業は同35%増収、セグメント利益が同43.7%増の14億円。製品事業は同17%増収、セグメント利益が▲0.47億円から▲0.96億円へ赤字幅拡大。
・通期会社計画は、売上高が前期比25.5%増の240億円、営業利益が同73.3%増の9.05億円、年間無配。主力のセールスフォース関連市場で積極的採用の継続と独自のエンジニア育成への取り組みに加え、今年4月発表のNTTデータグループ<9613>との資本業務提携を背景に国内クラウド導入市場の主導的地位を固めて事業拡大の方針。「2025年の崖」へのシステム対応需要増加も追い風だろう。
イビデン<4062>
・1912年に揖斐川電力を設立。「電子」(プリント配線板・パッケージ基板)、「セラミック」(環境・特殊炭素・ファインセラミック・セラミックファイバー)、「その他」(建材・樹脂・設備工事等)の3事業を営む。
・10/31発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比3.2%減の1815億円、営業利益が同18.4%増の285億円。売上比率54%の電子事業は同4%減収も、生成AI用サーバー向けの堅調な推移を受けて同13%営業増益。セラミック事業も減収・増益。その他事業は増収・増益。
・通期会社計画を下方修正。電子事業全体の市場回復が弱含みとの見方から、売上高を前期比0.1%減の3700億円(従来計画:3900億円)、営業利益を同15.9%減の400億円(同:420億円)とした。年間配当は同横ばいの40円で従来計画を据え置いた。同社は次世代AI半導体で躍進するエヌビディア<NVDA>向けで高水準の需要を獲得。「エヌビディア関連」として見直し余地があるだろう。
BASE<4477>
・2012年設立。個人・小規模事業者向けのECプラットフォーム「BASE」を運営。BASE事業(ECプラットフォーム)、PAY.JP事業(オンライン決済サービス)、YELL BANK事業(事業資金提供サービス)を営む。
・11/6発表の2024/12期9M(1‐9月)は、売上高が前年同期比35.5%増の112億円、営業損益が▲4.20億円から7.99億円へ黒字転換。売上比率57%のBASE事業は同13%増収、セグメント利益が6.7億円へ黒字転換。売上比率37%のPAY.JP事業は同65%増収、セグメント利益が2億円へ黒字転換。
・通期会社計画は、売上高が前期比32.7%増の155億円、営業損益が前期の▲4.25億円から2億円へ黒字転換。「既存製品付加価値向上に伴う価格適正化で収益性を改善しつつ流通総額拡大との両立を図る」という24年度目標は成果が出ている。今年8月に越境EC強化目的でwant.jp社を連結子会社化。国際航空貨物市場で中国発のEC関連が急増の中で越境EC市場の拡大が追い風だろう。
レオパレス21<8848>
・1973年に東京都中野区で設立。自社物件の賃貸・管理、建築請負したアパート一括借上げによる賃借物件の賃貸・管理などに係る賃貸事業のほか、シルバー事業(介護老人施設運営)他も営む。
・11/8発表の2025/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比2.0%増の2161億円、営業利益が同17.5%増の174億円。売上比率96%の賃貸事業は家賃単価の上昇等により同2%増収、営業利益がコスト構造適正化もあり同19%増の215億円。期中平均入居率は85.75%と、同0.58ポイント低下。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.4%増の4286億円、営業利益が同14.1%増の266億円、年間配当が同10円増配の10円。アパート家賃上昇の加速は建設業や派遣業、飲食宿泊業など法人契約の増加や、技能実習生や留学生など外国人の需要増加が背景。中国が日本に対する短期滞在ビザ免除措置の再開を決めた中で、日本政府が訪日中国人へビザ免除を行うかが注目される。
※執筆日 2024年12月2日
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