ブラックフライデーは好調も、米国株の2つの「偏り」は要警戒【フィリップ証券】

市況
2024年12月6日 14時12分

感謝祭翌日の「ブラックフライデー」恒例の大幅値引きに対する消費者の反応は好調だった模様だ。アクセス解析ツールのアドビアナリティクスは、11/29のオンライン購入額は前年比9.9%増の108億USD(過去最高)になると予想。背景には、トランプ次期政権で貿易関税が幅広く課されれば物価が上昇すると予想した消費者が値引きセールでまとめ買いをしようとしたこともありそうだ。「トランプ関税」前の駆け込み消費で11月の小売売上高、およびウォルマート<WMT>をはじめとした大手小売関連企業の足元の業績が上振れる可能性があるだろう。

米国株上昇の原動力として2つの「偏り」が挙げられる。第1に、大型ハイテク株への偏りとして「マグニフィセント7」合計時価総額のS&P500株価指数銘柄の合計時価総額に対する比率の高さだ。日次終値ベースで昨年1/5に18.7%まで低下後、今年7/10に34.4%の史上最高水準まで上昇した。その後はやや低下したものの、11/29は31.3%の高水準にある。第2に、米国上場全株式の時価総額合計を米国の名目GDP(国内総生産)で割った割合(%)を示す「バフェット指数」だ。月末値を見ると、21年11月の過去最高水準222.67から、22年9月の152.16まで低下した後、反転して今年11月に216.79に上昇した。

これらは、米国株を巡る偏りが緩和する方向ではなくますます進行していることを示しており、高値からの売りを警戒すべき局面にあることを示している。それでも政府の財政支出拡大や中央銀行による金融緩和などを通じた流動性の供給が続く限り、株価下落も一時的にとどまると考えられる。世界主要国のマネーサプライ(M2)の合計金額を指数化したグローバルマネーサプライ指数(M2)の日次推移を見ると、今年9/30に108.51の史上最高水準に達した後、11月末に105.33に低下している。

フランスで9月に発足したバルニエ政権が、年内成立を目指して提出した来年度予算案を巡って政権崩壊の危機を招いている。歳出削減や増税といった内容の法案を通すことが難しい一方で、財政赤字の対GDP比率に改善の見通しが立たなければフランス国債が売られ、かつてのユーロ危機再来といった金融市場が混乱することも懸念される。このように、財政支出拡大によるマネーサプライ供給はフランスに限らず、世界的に限界に達しつつある可能性がある。

2020年の新型コロナ禍以降に株価が大幅上昇した情報技術(IT)・金融技術(フィンテック)関連銘柄には、21年頃に付けた過去最高値から、失望売りにより数年かけて大幅に株価が下落した銘柄が見られる。財務改善と業績の裏付けを伴い、株価回復基調にある銘柄は投資チャンスとして注目される。

参考銘柄

オートデスク<ADSK> 市場:NASDAQ・・・2025/2/28に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表予定

・1982年設立。汎用CADソフトウェア「AutoCAD」などを提供。「建築・エンジニアリング・施工(AEC)」、「AutoCAD・AutoCAD LT」、「製造(MFG)」、「メディア・娯楽(M&E)」の4つの製品別セグメントを展開。

・11/26発表の2025/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比11.0%増の15.70億USD(会社予想:15.55-15.70億USD)、非GAAPの調整後EPSが同4.8%増の2.17USD(同:2.08-2.14USD)。企業のデジタル変革(DX)需要増を背景に、継続課金の請求額(Billings)は同28%増、前四半期比で24%増。

・通期会社計画は、Billingsを前期比14-15%増の59.0-59.8億USD(従来計画58.8-59.8億USD)へ上方修正。売上高が前期比約11%増の61.15-61.30億USD、調整後EPSが同9-10%増の8.29-8.35USDと従来計画を据え置き。同社はソフトウエア業界でのCFO(最高財務責任者)およびCOO(最高執行責任者)経験豊富なムーアジャニ氏を12/16付けで新CFOに任命すると発表。経営手腕が期待される。

アンバレラ<AMBA> 市場:NASDAQ・・・2025/2/27に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表予定

・2004年設立の半導体関連企業。デバイス内で処理を行うエッジ人工知能(AI)、画像信号処理、ビデオ圧縮を提供する低電力システムオンチップ(SoC)半導体を幅広い先端分野用途向けに開発。

・11/26発表の2025/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比63.4%増の8200万USD(会社予想:7700万-8100万USD)、非GAAPの調整後粗利益率が同横ばいの62.6%(同:62.5-64.0%)、調整後EPSが前年同期の▲0.28USDから0.11USDへ黒字転換。AIを活用した高価格帯の新製品の売上が伸びた。

・2025/1期4Q(11-1月)会社計画は、売上高が前年同期比47-55%増の7600万-8000万USD、調整後粗利益率が61.5-63.0%(前年同期62.5%)。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」、および自動車分野の先進運転支援システム(ADAS)など新製品が牽引する見通し。株式市場で投資の注目分野とされるエッジAIの売上比率が全体の約70%に達することから、エッジAI関連銘柄として注目されそうだ。

ペイパル・ホールディングス<PYPL> NASDAQ・・・2025/2/4に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・1998年設立の電子決済サービス企業。利用者が事業者にクレジットカード番号等を伝える必要がない点に強み。Eコマースやホテル・飲食店での予約・事前決済など個人・法人向けで利用される。

・10/29発表の2024/12期3Q(7-9月)は、営業収益が前年同期比5.8%増の78.47億USD(会社予想:1桁台半ばの伸び率)、非GAAPの調整後EPSが同22.4%増の1.20USD(同:1桁台後半の伸び率)。稼働口座数が同0.9%増にとどまるも1口座当たり取引件数の増加により決済総額が同9%増へ拡大。

・通期会社計画を3ヵ月前に続いて上方修正。調整後EPSを前期比10%台後半(従来計画:同10%台前半~半ば)の伸び率とした。昨年9月就任のクリス新CEOが打ち出した変革の一環で引き続き合理化に注力し財務改善が進む中で昨年10月安値から株価は約77%上昇したものの、21年7月高値からは約72%下落。予想PERも18倍台。米トランプ次期政権下で金融の規制緩和が期待される。

ブロック<SQ> 市場:NYSE・・・2025/2/21に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表予定

・2009年に設立。米国・カナダ・日本など幅広い地域で個人事業主から幅広い規模の企業まで対象としてモバイル決済ソリューションを提供のほか、個人向けの金銭管理アプリ「Cash App」も提供。

・11/7発表の2024/12期3Q(7-9月)は、粗利益が前年同期比18.4%増の22.5億USD(会社予想:22.2億USD)、非GAAPの調整後営業利益が同393%増の4.44億USD(同:3.20億USD)。粗利益の内訳はSquare事業が同16%増、Cash App事業が暗号資産の収益貢献もあり同21%増の13.1億USD。

・通期会社計画を上方修正。調整後営業利益を前期比344%増の15.6億USD(従来計画3.5億USD)とした。粗利益は前期比18.5%増の88.9億USDと従来計画を据え置いた。ジャック・ドーシーCEOは、ビットコインのマイニング事業および自社管理ウォレット「ビットキー」への投資を強化する方針を発表した。株価は昨年10月安値から約2.4倍上昇も21年8月高値から約67%下落水準にとどまる。

トレードデスク<TTD> 市場:NASDAQ・・・2025/2/14に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表予定

・2009年設立。デマンドサイドプラットフォーム(DSP)と呼ばれる広告向けソフトウエアプラットフォームを運営。AI(人工知能)を広告に活用し、広告主向けに効率的な広告提供で収益化を実現する。

・11/7発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比27.4%増の6.28億USD(会社予想:6.18億USD)、非GAAPの調整後EBITDAが同28.5%増の2.57億USD(同2.48億USD)、調整後EPSが同24.2%増の0.41USD。顧客契約更新率が10年連続で95%超を維持し、3Qも同水準で推移した。

・2024/12期4Q(10-12月)会社計画は、売上高が前年同期比24.8%増の7.56億USD、調整後EBITDAが同27.8%増の3.63億USD。同社が強みを有する「パブリッシャー直接取引」が取引手数料の透明性を高めている。更に、同社が開発した、新しい広告識別子「Unified ID 2.0」は個人情報保護の観点からサードパーティCookie廃止の潮流の中で代替需要にとどまらず業界の標準となりつつある。

執筆日:2024年12月3日

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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