デリバティブを奏でる男たち【93】 キースクエアのスコット・ベッセント(後編)
今回は2024年の米大統領選挙で勝利したドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)により財務長官に指名された、米マクロ投資会社キースクエア・グループの創設者であるスコット・ケネス・ホーマー・ベッセント(Scott Kenneth Homer Bessent)を取り上げています。
前編で触れたようにベッセントは、第42回で紹介したジェームズ・スティーブン・チェイノス(James Steven Chanos、通称ジム・チェイノス)率いるキニコス・アソシエイツ(現在のチェイノス・アンド・カンパニー)で働いていましたが、1991年に同社の主要顧客であった世界三大投資家のひとり、ジョージ・ソロス(George Soros)のソロス・ファンド・マネジメント(SFM)に移る決意をします。
2000年にはそのSFMから独立し、ベッセント・キャピタルという自身のヘッジファンドを設立しますが、上手くいきません。2005年にはファンドをファミリー・オフィス形式に転換することを余儀なくされました。独立に失敗したベッセントは母校のイェール大学で非常勤教授をしながら、ファンド・オブ・ファンズであるプロテジェ・パートナーズでも働き、調査および戦略担当ディレクターを務めていました。ところが、2011年にソロスから声が掛かり、再びSFMの資産を運用することになります。
◆再びソロス資産の運用と再度の独立
この年にソロスは40年間続けた顧客資金の運用を止めて、自己資金の運用に専念することにしました。併せてSFMで2008年から最高投資責任者(CIO)を務めていたキース・アンダーソン(Keith Anderson)も退任します。
アンダーソンは第12回で取り上げたローレンス・ダグラス・フィンク(Laurence Douglas Fink、通称ラリー・フィンク)率いるブラックロック<BLK>の共同創業者の一人でした。アンダーソンはブラックロックで債券部門のグローバルCIO兼副会長を務め、2007年まで約20年間在籍していました。ブラックロックを退任した後は自らのファンドを創設するとみられていましたが、SFMでソロスの息子であるロバートの後任としてCIOに就任しました。アンダーソンの就任期間はわずか3年程度でしたが、彼が過去8年間で4人目のCIOだったことを考えると、決して短い方ではなかったと思われます。
▼ブラックロックのラリー・フィンク(前編)―デリバティブを奏でる男たち【12】―
https://fu.minkabu.jp/column/1145
アンダーソンの後任としてベッセントは、ソロスのファンドを運用することになりましたが、ファミリー・オフィスとはいえ、その額は約250億ドルと半端ではありません。これを2015年までに約300億ドルに膨らませます。特に2013年は「日本株高・円安」を牽引したアベノミクスを背景に、円売りを仕掛けて高い運用成績につなげたようです。
しかし、ベッセントは再び独立を目指します。ソロスから20億ドルの運用資金を提供してもらい、最終的に45億ドルを調達してヘッジファンド、キースクエア・グループを創設します。このときSFMで一緒に働いていたマイケル・ジャーミノ(Michael Germino)を共同創業者としました。社名のキースクエアとは「鍵となる正方形」という意味ですが、これはチェス用語でゲームの終盤戦にキングが移動すれば勝つことができるマスのことを指しています。
◆激しく変化する運用成績
この社名に沿うようにベッセントの投資スタイルは、地政学と経済学を活用したグローバル・マクロです。まずは2016年に英国のEU(欧州連合)離脱投票「ブレグジット」前後の英ポンド下落を正確に予測し、その後の米大統領選挙でもトランプの勝利と米国株やドルの上昇を的中させ、この年は13%の利益を得ました。ところが、2017年から2021年は厳しい運用成績を強いられます。しかし、その後は再び大幅な利益を叩き出し、特に2022年は米国のインフレ急伸が米連邦準備制度理事会(FRB)の予測よりも長く続くと予想し、債券売り・ハイテク株売りを仕掛けて年間で29%の利益を上げました。
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証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。MINKABU PRESS編集部の委託により本シリーズを執筆。
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