武者陵司「2025年、日本株は米株独り勝ちの代替たり得るか」<後編>

市況
2024年12月24日 10時00分

「2025年、日本株は米株独り勝ちの代替たり得るか」<前編>から続く

(3)なぜ2024年、4万円で足踏みしたのか、2025年は足かせを解きほぐせるか

なぜ、2024年に日経平均株価は4万円で足踏みしたのだろうか。第一は景気実態の低迷、第二は不適切な政策への懸念で上値を刈り取られた、の2つが決定的であろう。

●2024年の失速、円安インフレの被害が家計に集中

株高により期待で始まった2024年は日本経済の失速で終わった。主因は物価上昇に伴う実質賃金の減少によって、実質個人消費が2023年1-3月をピークに減少に転じたためである。2024年6月からの定額減税により補填されたものの、その額は3兆円と実質消費減少6兆円の半分に過ぎず、消費水準の低迷からは抜け出せなかった。

実質個人消費支出を振り返ると、過去10年間では、2014年3月の消費税増税(5%→8%)直前の2014年1-3月の310兆円がピークで、その後一度もそれを上回っていない。直近の2024年7-9月は前年比小幅プラスに浮上したものの、依然として10年前のピークに比べ4%減の水準にある。

加えて、年初の型式認定不正による自動車減産や中国経済の不振による輸出の低迷が、円安によるインバウンドの増加、設備投資の増加などのプラス要素を押し消した。日本の工業基盤が衰弱してしまって円安による生産回復に時間がかかっていること、インフレによる実質所得減のリカバリーに時間がかかっていることなどから、円安のプラス効果発現までのタイムラグが長くなっためである。

●実質賃金上昇、投資と生産増の好循環、インバウンドで日本の潜在成長率高まる

しかし、2025年は繰り延べられていた円安によるJカーブ効果の発現が顕著になることは確実である。2025年も2年連続の5%賃上げが続き、実質賃金は2%を超えるプラスに浮上していくだろう。国民民主党の頑張りによる恒久減税の寄与も期待でき、実質消費は1~2%のプラスに浮上するだろう。インバウンドの増加に加えて、台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>熊本工場の稼働など、設備投資増の生産力化も見込まれる。OECD(経済協力開発機構)の2025年経済見通しは、米国2.4% 、ユーロ圏1.3%に対して日本は1.5%と堅調な伸びを予想している。

●日本の政策リスクは無視できる

2024年に株価の足かせとなった不適切な政策の発動懸念は、2025年は大きく薄らいでいくだろう。

2024年は7月に史上最高値を付けた後、「植田ショック」「石破ショック」という二つの政策ショックで、日本株式のボラティリティーが異常に高まった。植田日銀の前のめりの金融引き締め姿勢に驚き、8月には3日で20%という大暴落が起きたが、その後の政策スタンスの修正で株価は元に戻った。また、金融財政引き締め政策を持論としてきた石破氏が自民党の総裁に決まったことで、10月に株価は急落したが、すべての引き締めプランが棚上げされ、岸田氏の「新しい資本主義」の踏襲が打ち出されて、またまた株価は元に戻った。

心配されている石破リスクも、石破メリットに転換しそうな予感がある。健全財政と金融規律路線を主張していた石破氏は君子豹変し、その持論のほとんど全てを反故にした。

円安のメリットは、インフレによる名目成長率の急伸、海外所得の増加となって企業収益と税収増加をもたらしている。この企業利益と税収増加を家計に還流させる上で、石破自民党の少数与党化は、恒久減税を主張する国民民主党に譲歩せざるを得ず、むしろプラスになっている。来年の参院選を睨めば、恒久減税の引き上げは、石破政権延命の決定打になるかもしれない。

国際政治を概観すると、日本の優位性が一段と際立っている。中国やロシア、北朝鮮、イランなど専制国家に対する厳しいスタンス、DEI(多様性、公平性、包括性)やPC(ポリティカル・コレクトネス)など、経済合理性を否定する心情の影響の小ささ、安倍・岸田政権から踏襲されている、より透明で自由な金融を推進する「新しい資本主義」路線など、日本の政策のフレームワークはグローバル投資家にとって極めて納得性のあるものである。

●2025年は日本産業ルネッサンス元年に

2025年はTSMCの熊本工場の稼働が始まり、日本の産業拠点としての根源的強さが再評価される元年となるだろう。日本の産業基盤の素晴らしさに驚愕したTSMC創業者のモリス・チャン氏に見られるように、日本の生産拠点としての圧倒的強さを思い知らせる事柄が、これから続出するだろう。

ハーバード大学が作成している「世界の経済複雑性ランキング」(ECI)をみると、1995年から日本が一貫して世界のナンバーワンであることに、注目するべきである。このランキングは、世界各国の輸出データに基づき、①輸出品の複雑性と多様性、及び②偏在性(独占度)を評価し、順位付けしたもの。複雑性が高いほど高付加価値産業を有し、産業の多様化が進み、世界市場での独占度が高いことを示している(カリフォルニア大学サンディエゴ校ウリケ・シェーデ教授著「シン・日本の経営 悲観バイアスを排す」日経BPで紹介されている)。

スマートフォンを例にとると、スマートフォン完成品の組み立て以上に、材料や部品、製造機械の技術的ブラックボックス部分が大きい方がランクが高くなる。日本はスマホの生産シェアは低いが、スマホの最終完成品に至る必要技術を世界で一番多く備えていると言える。「あらゆる必要なものは全部日本で揃う」ということである。

また、国際的ビジネスマンにとっては今さらではあるが、(突出した異能はいないが)日本の労働力の均質性、レベルの高さ、労働に対する誠実性が抜きん出ていることは、OECDによる成人力調査によって明らかにされた(OECD国際成人力調査、分野別ランキング)。ビジネス拠点としての日本の優位性は、同時に半導体工場の建設が進む米国やドイツなどとの比較において際立っていくだろう。日本が先端産業の世界的製造拠点として復活することは明らかである。日本の産業ルネッサンスはすぐそこに来ている。

(2024年12月20日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン370号」を転載)

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