「トランプ2.0」と「長期金利上昇2.0」~ディフェンシブ重視か【フィリップ証券】

市況
2025年1月17日 15時04分

米トランプ次期大統領の就任式が1/20に迫ってきた。輸入品に対する一律関税の導入に関し、国内経済への悪影響を考慮して段階的導入を検討していると報じられているものの、「トランプ2.0」は波乱含みの船出となりそうな雲行きだ。

債券市場も「長期金利上昇(債券売り)2.0」の兆しが表れている。1/10発表の12月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数、失業率ともに強い内容だったことを受けて長期金利が上昇。米10年国債利回りは週明けの1/13に一時4.8%を超えるなど、23年11月の月初以来の高水準となった。昨年9月のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利を0.5ポイント引き下げて以降、12月までに合計3回、計1ポイントの利下げを実施したのとは逆に、米10年国債利回りは9/17の3.6%割れから反転上昇した。その背景には強い経済を背景としたインフレ再燃、財政赤字拡大、国債発行増加などへの懸念があるとみられる。物価指標が落ち着けば変わっている可能性があるものの、長期金利上昇は、2022~23年にかけてFRB(連邦準備制度理事会)による急激な金融引き締めを背景とした「第1弾」に対し、「第2弾」に突入した可能性があるだろう。

そこで念のために、2022年の米国株における物色動向について、21年末~22年末の年間騰落率を通じて再確認しておきたい。

S&P500株価指数の11業種別指数の上位順は、①エネルギー+59.0%、②公益事業▲1.4%、③生活必需品▲3.2%、④ヘルスケア▲3.6%、⑤資本財・サービス▲7.1%、⑥金融▲12.4%、⑦素材▲14.1%、⑧不動産▲28.4%、⑨情報技術▲28.9%、⑩一般消費財・サービス▲37.6%、⑪コミュニケーション・サービス▲40.4%。エネルギー価格高騰を除けば、生活必需品やヘルスケアに関連したディフェンシブ銘柄が底堅かったことが分かる。

上位10銘柄は、①シェブロン<CVX>+59%、②メルク<MRK>+49%、③トラベラーズ<TRV>+22%、④アムジェン<AMGN>+20%、⑤キャタピラー<CAT>+19%、⑥IBM<IBM>+10.63%、⑦コカ・コーラ<KO>+10.60%、⑧ユナイテッドヘルス・グループ<UNH>+7%、⑨ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>+6%、⑩ハネウエル・インターナショナル<HON>+5%。その一方、下位10銘柄は、①エヌビディア<NVDA>▲50.3%、②アマゾン・ドット・コム<AMZN>▲49.6%、③セールスフォース<CRM>▲48%、④ウォルト・ディズニー<DIS>▲44%、⑤シャーウィン・ウィリアムズ<SHW>▲32%、⑥3M<MMM>▲30%、⑦ナイキ<NKE>▲29%、⑧マイクロソフト<MSFT>▲28%、⑨アップル<AAPL>▲26%、⑩シスコシステムズ<CSCO>▲23%。ディフェンシブ銘柄の中で医薬品・バイオ関連が好調だったのに対し、IT・半導体関連の大型ハイテク株が軟調だったことが分かる。2022年の当時はAI(人工知能)が現在ほど急速に進むとはまだ考えられていなかった点を考慮するとしても、相場循環の観点からの可能性としては考慮すべき点かもしれない。

参考銘柄

アボットラボラトリーズ<ABT> 市場:NYSE・・・2025/1/22に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

・1900年設立。多角化されたヘルスケア企業。栄養剤製品事業、診断事業(診断システム・検査)、後発医薬品事業、医療機器事業(心不全・糖尿病等向け)を営む。23/12期まで52期連続増配。

・10/16発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比4.9%増の106.35億USD、非GAAPの調整後EPSが同6.1%増の1.21USD。新型コロナ検査関連の影響を除く既存事業売上高は同8.2%増。売上比率45%の医療機器が13%増収と堅調に推移。売上高総費用比率も1.3ポイント改善した。

・通期会社計画は、新型コロナ検査関連の影響を除く既存事業売上高が前期比9.5-10.0%増で従来計画を据え置いた。調整後EPSは同5-6%増の4.64-4.70USD(従来計画4.61-4.71USD)とレンジを縮小。同社が開発した血糖モニタリングシステムで小さく柔軟なセンサーを使う「Lingo」は昨年9月より米国で処方箋なしで購入が可能。テクノロジーの国際見本市「CES 2025」でも注目を集めた。

ディア<DE> 市場:NYSE・・・2025/2/14に2025/10期1Q(11-1月)の決算発表を予定

・1837年創業の世界最大の農業機械メーカー。「ジョンディア」ブランドで農業機械・芝刈機・建設機械・林業機械を製造。大型・精密農機、小型農機、建機・林業、金融サービスの主要4事業を営む。

・11/21発表の2024/10期4Q(8-10月)は、売上高が前年同期比27.7%減の111.43億USD、EPSが同44.9%減の4.55USD。大型・精密農機が38%、小型農機が25%、建機・林業が29%とそれぞれ減収かつ営業利益率が悪化も、在庫削減を受けて全体の通期営業キャッシュフローが同7.5%増加。

・2025/10通期会社計画は、当期純利益が前期比▲30-▲23%の50-55億USD、営業キャッシュフローが同▲51-▲40%の45-55億USD。穀物や油糧種子の価格が軟調に推移し農家が機械の購入に消極的な面が見られるものの、同社はトラクター、ダンプトラック、電動芝刈機などの商業用車両における自動運転分野で存在感を高めている。自動運転関連銘柄として評価を高めると期待される。

ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ> 市場:NYSE・・・2025/1/22に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

・1887年設立。世界60ヵ国に250社以上の傘下企業を有する世界最大級のヘルスケア企業。「医薬品」および「医療装置」の2事業部門を運営する。消費者向け事業が2023年8月に分離独立した。

・10/15発表の2024/12期3Q(7-9月)は、営業収益が前年同期比5.2%増の224.71億USD、非GAAPの調整後EPSが買収先に関する特定の研究開発費(IPR&D)の影響で同9.0%減の2.42USD。処方薬部門が同4.9%増収、医療装置部門が同5.8%増収。1-9月のフリーキャッシュフローが同17%増加。

・通期会社計画を上方修正。買収・事業売却・新型コロナ禍の影響を除く調整後営業収益を前期比5.7-6.2%増(従来計画5.5-6.0%増)、V-Wave社買収の影響を除く調整後EPSを同1-2%増の10.10-10.20USD(同10.0-10.1USD)とした。連続増配年数が62年となる中でも予想配当利回りが3.5%水準にあること、および大手格付機関の信用格付けで最上級のトリプルA格を得ている点が注目される。

メルク<MRK> 市場:NYSE・・・2025/2/4に2024/12期4Q(10-12月)の決算発表を予定

・1891年に独E.Merckの米国子会社として設立後、第1次世界大戦中に米政府が接収し米国籍化。医療用医薬品、ワクチン、バイオ医薬品、アニマルヘルス製品を提供。140ヵ国以上で事業を展開。

・10/31発表の2024/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比4.4%増の166.57億USD、事業買収・売却の影響を除く非GAAPの調整後EPSが同26.3%減の1.57USD。がん治療薬「キイトルーダ」が同17%増収の69.47億USDも、HPV関連がん予防ワクチン「ガーダシル」が11%減収の23.06億USD。

・通期会社計画を下方修正。売上高を同5-7%増の631-643億USD(従来計画634-644億USD)、調整後EPSを前期比約5.1倍の7.72-7.77USD(従来計画7.94-8.04USD)とした。売上比率で約45%を占めるキイトルーダの特許切れを4年後以降に控えるなか、昨年3月に米国の当局より承認された肺動脈高血圧症(PAH)薬「ウィンレベア」の3Q売上が1.49億USD。画期的な治療法として注目度が高い。

マイクロン・テクノロジー<MU> 市場:NASDAQ・・・2025/3/20に2025/8期2Q(12-2月)の決算発表を予定

・1978年創業。DRAM、NAND、NORおよび3D XPointメモリーを製造する唯一の企業。コンピュータ&ネットワーキング(CNBU)、データセンターから自動車向けまで幅広いメモリーソリューションを提供。

・12/18発表の2025/8期1Q(9-11月)は、売上高が前年同期比84.3%増の87.09億USD(会社予想85-89億USD)、非GAAPの調整後EPSが同51.7%増の1.79USD(同1.66-1.82USD)。PC・スマホ向けは需要低迷も、データセンター関連向けが同400%増収、かつ売上比率で半分以上を占めるまで成長。

・2025/8期2Q(12-2月)会社計画は、売上高が前年同期比32-39%増の77-81億USD、調整後EPSが同238-243%増の1.42-1.44USD。ラスベガス開催のテクノロジー国際見本市「CES 2025」でエヌビディアのファンCEOは、次世代GPU(画像処理半導体)向けのメモリチップをマイクロンに提供していると表明。生成AI普及に伴うデータセンター向け需要増の追い風が見込まれる。

ピュア・ストレージ<PSTG> 市場:NYSE・・・2025/2/28に2025/1期4Q(11-1月)の決算発表を予定

・2009年設立のデータ・ストレージ管理会社。クラウド環境のあらゆるデータワークロードに対応し、構造化および非構造化データの大規模サポートのほか、データ分析、バックアップ・復元等を行う。

・12/3発表の2025/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比8.9%増の8.31億USD(会社予想8.15億USD)、調整後営業利益率が同1.9ポイント縮小の20.1%(同17.2%)、非GAAPの調整後EPSが同横ばいの0.50USD。定額継続課金(サブスクリプション)収入が同22%増かつ売上比率45%に達した。

・2025/1期4Q(11-1月)会社計画は、売上高が前年同期比9.7%増の8.67億USD、調整後営業利益率が同4.4ポイント縮小の15.6%。同社は3Qにハイパースケーラー(大手クラウドサービス業者)上位4社から受注を獲得したと発表。フォーチュン500企業の約6割(24年1月末)を同社サービスの顧客とする中で、クラウドとAIがサブスクリプション収入の対象として射程に入ってきている。

執筆日:2025年1月14日

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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