高い賃上げ率なのに日経平均株価は下落。なぜ?【フィリップ証券】
日経平均株価が3/6に終値3万7704円となった後、午後5時から夜間取引を開始した日経平均先物(3月限)は為替の円高ドル安の進行に伴って売られ、午後8時には3万7040円まで下落した。「一体何が起こったのだろう?」と驚いた人も多かったのではないだろうか。午後4時頃に日本最大の労働組合組織である連合が、2025年春闘の賃上げ要求が32年ぶりに6%を超えたと発表。これにより、日本銀行による早期の追加利上げ観測が高まり、先物価格の下落要因となったようだ。内田副総裁も同日、物価の基調を考える上で「一番重要なのは賃金」と説明していた。
賃上げは日本経済、消費者にとって望ましいにも関わらず、株式市場が売りで大きく反応している。円高ならなおさら、消費者の実質購買力は向上する。先物価格下落の背景には、日本の長期金利(10年国債利回り)上昇への懸念がある。長期金利が1.1~1.2%水準までならば「賃金上昇と物価上昇の好循環」から金利上昇と日経平均株価の予想PER(株価収益率)上昇が両立するものの、さらに上昇すると予想PERが低下する傾向もみられる。
長期金利は日銀の金融政策への期待だけで動くのではない。ウクライナへの軍事支援問題も絡み、欧州一の経済大国であるドイツは、景気回復と軍備増強に向けて厳格な債務抑制の基本原則である「債務ブレーキ」を緩和し、国防費とインフラ支出の大幅引き上げを行う「財政政策の大転換」について連立与党候補どうしで合意。これによりドイツ長期金利は大幅に上昇した。日本も、2027年度に防衛費を国内総生産(GDP)比で2%にすることを目指している中で、米国防総省幹部候補から3%以上に引き上げるべきだと要求されている。防衛費増額のために国債発行増額が必要とされれば、日本の長期金利も上昇せざるを得ないだろう。
日経平均株価は3/7に3万6827円まで下落する場面があった。これは、昨年7/11に付けた史上最高値4万2426円から8/5に付けた昨年来安値の3万1156円への下落幅の半値戻し水準(3万6791円)付近にある。この価格水準は当面の間、意識されやすいだろう。足元の株価下落は長期金利上昇だけでなく、米国のAI(人工知能)半導体、およびデータセンターへの投資を増強する主要大型ハイテク銘柄の株価下落が日本のAI半導体およびデータセンター関連銘柄に波及している面も大きな要因だ。昨年買われた米国株から割安な欧州株や香港株へグローバルな投資資金がシフトする中で、日本株においても昨年買われたAI半導体やデータセンター関連銘柄から割安な銘柄群へと資金がシフトする構造変化を主な要因と考えられる調整局面と捉えるべきだろう。
■日米長期金利と日本株・JREIT~日本株PERと国内長期金利、JREITと米長期金利】
長期金利上昇は、将来収益の現在価値を低下させるため、予想PER(株価収益率)を低下させる要因と考えられる。2024年初以降の日経平均株価における予想PERと日本国債10年物利回りの推移では、10年国債利回りが1.1%を上回ると予想PERが低下する傾向がみられる。長期金利が1.1%までであれば日本経済への負の影響が小さい面もあるだろう。
一般的に金利上昇は不動産投資に不利とされる。しかし、上場不動産投資信託(J-REIT)は年初以降の日本国債10年物利回り上昇する中で、投資口価格が大幅下落につながっていない。東証リート指数の予想分配金利回りも、年初来低下基調の米国債利回りと相関がみられる。J-REIT市場への海外投資家の影響力が背景にあると考えられる。

参考銘柄
明治ホールディングス<2269>
・2009年に明治製菓と明治乳業が合併して設立。食品と医薬品の2事業セグメントを営む。「化学及び血清療法研究所(化血研)」の製薬事業を継承したKMバイオロジクスを2018年に連結子会社化。
・2/10発表の2025/3期9M(4-12月)は、売上高が前年同期比5.0%増の8750億円、営業利益が同4.7%減の664億円。食品セグメントは、売上高が同3%増の7016億円、営業利益が同2%増の494億円。医薬品セグメントは、売上高が同13%増の1740億円、営業利益が同11%減の203億円だった。
・通期会社計画は、売上高が前期比4.8%増の1兆1590億円、営業利益が同2.0%増の860億円、年間配当が同5円増配の100円。9Mの医薬品は、「ワクチン・動物薬」を除く営業利益が前年同期比26%増。厚生労働省は血液からつくる医薬品「免疫グロブリン製剤」の増産支援を行う。国内で採血された血液を使って対象薬を作っているのはKMバイオロジクス、武田薬品工業<4502>を含む3社。
日本スキー場開発<6040>
・2005年に日本駐車場開発<2353>により設立。スキー場事業を展開。特徴あるスキー場を取得し、地元関係者と一体となって冬以外の「グリーンシーズン」も含めてスキー場活性化・再生に取り組む。
・3/7発表の2025/7期1H(8-2月)は、売上高が前年同期比26.5%増の49.55億円、営業利益が同54.0%増の10億円。来場者数は、8月~11月中旬(グリーンシーズン)が426千人と3年連続で過去最高を更新。11月下旬~1月(ウインターシーズン)も前年同期比100千人増の822千人で過去最高。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比19.5%増の98.5億円(従来計画96億円)、営業利益を同22.4%増の19億円(同17億円)、年間配当を株式分割考慮後で同0.17円増配の3.5円(同3.33円)とした。グリーンシーズンでも大自然の眺望を望む展望テラス、大型遊具施設、キャンプフィールドの展開等を通じ、1年を通じた営業体制を整えることに成功。「地方創生2.0」の成功例と言えるだろう。
大和証券リビング投資法人<8986>
・2005年設立。大和証券グループ本社<8601>をスポンサーとする住居系J-REITの日本賃貸住宅投資法人が20年4月に日本ヘルスケア投資法人と合併。24年2月末資産規模は住宅7対ヘルスケア3。
・11/20発表の2024/9期(4-9月)は、営業収益が前期(2024/3期)比6.6%増の141億円、営業利益が同7.5%増の70億円、1口当たり分配金(利益超過分配金を含まない)が同4.3%増の2400円。賃貸物件3件取得(取得価格合計66億円)、4件売却(譲渡価格合計55億円)の資産の入替を実施した。
・2025/3期(10-3月)会社計画を上方修正。営業収益を前期(2024/9期)比3.9%増の147億円(従来計画132億円)、営業利益を同9.9%増の77億円(同66億円)、1口当たり分配金を同8.3%増の2600円(同2400円)とした。3/6終値で2025/9期までの会社予想年分配金利回りが5.65%、株式のPBRと似た指標のNAV倍率が0.76倍。一般に賃貸借契約はヘルスケア施設の方が住宅よりも固定・長期。
トライアルホールディングス<141A>
・1974年に福岡市で家電製品販売「あさひ屋」を創業。「TRIAL」ブランドのディスカウントストアを全国展開する「流通小売事業」とセルフレジ付きショッピングカートの「Skip Cart」ほか「リテールAI事業」を主に営む。
・2/13発表の2025/6期1H(7-12月)は、売上高が前年同期比11.1%増の4037億円、営業利益が同16.2%減の97億円。既存店売上高成長率が3.9%、粗利益率が0.1ポイント上昇の19.8%。6月末では店舗数が前年末比20店増の338店、Skip Cart導入店舗数が同22店増の245店(うち外販3社・4店)。
・通期会社計画は、売上高が前期比12.7%増の8088億円、営業利益が同20.0%増の229億円、年間配当が同1円増配の16円。同社は3/5、西友の完全子会社化を発表。取得価額は概算3826億円と同社総資産額(前年末3146億円)を超える。新株発行を伴う資金調達予定はなく、取引銀行から概算3700億円の借入金調達方針。金利上昇を見越した戦略的な大型買収という側面もあるだろう。
※執筆日 2025年3月7日
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