「戻り高値の次」を要警戒~主要株価指数の200日移動平均【フィリップ証券】
米国株式市場は、5/5発表の4月のISM非製造業景況指数が良好だったこと、5/6-7の米連邦公開市場委員会(FOMC)、5/8の米英貿易交渉合意、週末にスイスで開催される米中閣僚級貿易協議への期待の高まりといった一連の好材料を通じて堅調な道筋を辿った。米国の代表的な株価指数であるS&P500を見ると、5/9終値は、トランプ米大統領がホワイトハウスの中庭で相互関税について歴史的な演説を行った4/2終値と同水準にある。実際には相互関税の発動は7/9まで一時停止となる中、株価は相互関税ショックをほぼ吸収している。
S&P500の5/9終値は5659ポイントとなり、相場の中期的な方向性を示唆する200日移動平均の5748ポイントに迫ってきた。200日移動平均は4/2の5762ポイントを過去最高値として、横ばいに近い緩やかな下落となっている。これは、中期的な相場の方向性が上にも下にもはっきりしないことを示唆している面もある。一方、ダウ工業株30種平均(ダウ平均)株価は、5/9終値が4万1249ドルと、200日移動平均の4万2236ドルまであと約2.4%まで迫る中、5/9の200日移動平均は史上最高値水準にある。S&P500の200日移動平均で過去最高値を付けた4/2には4万2180ドルだったことから緩やかながらも上昇を維持している。ダウ平均で見た場合、米国株式市場の中期的上昇トレンドはまだ崩れたとは言えない。
将来の相場に対する投資家心理を反映する指数とされるVIX指数は、5/9終値が21.90と中立的水準とされる20に近づいた。米連邦準備制度理事会(FRB)が急激な利上げを行っていた2022年の米国株式市場は下落基調で推移する中、戻り上昇を試す局面でVIX指数が20割れまで低下すると戻り一服となり、再び下落基調に転じる動きを繰り返したケースも見られた。S&P500、ダウ平均ともに、200日移動平均まで上昇した後の動きには警戒が必要と思われる。
5/13に4月の米消費者物価指数(CPI)、5/15に4月の米小売売上高と米卸売物価指数(PPI)が発表される。全米小売業協会(NRF)は、5月の全米の主要コンテナ港での輸入貨物量が1年半ぶりに前年比で減少に転じると公表。既に小売業者の多くが中国などからの仕入れを停止し始めており、供給網の混乱が物価と景気へ影響する可能性がある。また、ベッセント財務長官が5/9、連邦政府債務上限引き上げか債務上限の停止の措置を講じなければ8月に財政資金が枯渇する「合理的可能性」があると警告。保有ポートフォリオのヘッジとして、対象とする指数・株価と逆の動きをする「インバース型ETF」も要検討だろう。
米国株式市場はS&P500、ダウ平均ともに、4/7の年初来安値水準は200週移動平均ラインまで下落していない。夏から秋にかけて「二番底」の安値を試すとした場合、200週移動平均が目安となる可能性を警戒しておきたい。
■2008年と2025年の経済環境の違い~短期間で政策金利を引き上げた影響
2007年と2024年は、米FRB(連邦準備制度理事会)が政策金利を1年以上の据え置きから9/18に0.5ポイント利下げに転換し、その後も年末まで2回連続で利下げを行うなど、米景気サイクルの類似性が際立っている。一方、政策金利引上げは、2004年7月~06年6月まで約2年間(引き上げ幅4.25ポイント)に対し、2022年3月~23年7月まで約1年4ヵ月(同5.25ポイント)と、後者の方がより短い期間でより大きな利上げ幅となった。CPI(消費者物価指数)上昇率やドル指数も、後者の方が利上げ期間途中まで急激な上昇を示していた。
2008年にFRBによる利下げが相次いだのに対し、2025年は3回連続で政策金利据え置きとなった背景には、2024年までの金融引締めと据え置きが2007年までと比べて十分ではない面もあるだろう。

参考銘柄
カメコ<CCJ> 市場:NYSE・・・2025/7/31に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1987年設立のカナダのウラン製造・販売企業。世界最大ウラン鉱床を保有。ウラン探査・採掘のウラン部門、精製・変換の燃料サービス部門を営む。カザフスタンで国営企業と合弁で生産を行う。
・5/1発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比24.4%増の7.89億USD、非IFRSの調整後EPSが同45.5%増の0.16USD。ウラン平均実現価格が9%上昇。また、2023年に買収を完了した原子力発電設備大手ウエスチングハウスの調整後EBITDAが19%増の0.92億USDと業績に貢献した。
・通期会社計画は、売上高が前期比5-13%増の33.0-35.5億USD、ウエスチングハウス関連の調整後EBITDAが同16-27%減の3.55-4.05億USD。ウラン生産量が4%減、ウラン平均実現価格が5%上昇と従来計画を据え置いた。トランプ大統領が5/7、原子力規制委員会(NRC)からのライセンス取得の遅延を回避する措置を講じるなど原発開発迅速化のための大統領令を発令する意向と報道された。
シンタス<CTAS> 市場:NASDAQ・・・2025/7/18に2025/5期4Q(3-5月)の決算発表を予定
・1929年創業。北米最大の従業員向けユニフォームレンタル会社。ロゴマット、トイレ用品、救急セットなどのほか、工業用カーペットやタイル清掃なども行う。2024年5月末で479ヵ所の拠点を構える。
・3/26発表の2025/5期3Q(12-2月)は、売上高が前年同期比8.4%増の26.09億USD、EPSが同17.7%増の1.13USD。粗利益率が1.2ポイント上昇の50.6%、営業キャッシュフローが10.3%増の15.30億USDと堅調に推移。新型コロナ禍収束後も、安全・清潔・法令遵守の観点から制服需要が継続。
・通期会社計画を上方修正。既存事業売上高伸び率を前期比7.4-7.7%(従来計画7.0-7.7%)、EPSを同15-16%増の4.36-4.40USD(同4.28-4.34USD)とした。同社は北米で企業制服のシェアが高く価格競争力があるほか、在庫管理や運転経路の最適化で利益率が改善。人手不足により業務の外部委託が増加し、業績拡大につながっている。3/14支払いの四半期配当は前年同期比14.9%増。
ノボ・ノルディスク<NVO> 市場:NYSE・・・2025/8/6に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1923年設立。デンマークの製薬企業で糖尿病、成長ホルモン、血友病等の領域を中心に医薬品を開発・製造・販売。「糖尿病」、「肥満ケア」、「希少疾患(バイオ医薬品)」を主な事業部門とする。
・5/7発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比19.5%増の780億DKK(デンマーク・クローネ)、EPSが同15.0%増の6.53DKK。製品別売上では、糖尿病ケアが10%増の550億DKK(うちGLP-1向けが13%増の395億DKK)、肥満ケアが67%増の184億DKK、希少疾患が5%増の46億DKK。
・通期会社計画(為替変動の影響を除く)を下方修正。売上高成長率を前期比13-21%(従来計画16-24%)、営業利益成長率を同16-24%(同19-27%)とした。米国でGLP-1向けのブランド普及の遅れが業績に響いた。肥満症向けGLP-1受容体薬の開発で経口薬が次の焦点となる中、競合する米イーライリリィ<LLY>との比較で技術力は劣らないとみられる一方、時価総額は両社の差が拡大。
シスコ<SYY> 市場:NYSE・・・2025/7/30に2025/6期4Q)4-6月)の決算発表を予定
・1969年設立の世界最大の食品流通事業者。米フードサービス、海外フードサービス、チェーンレストランSYGMAの事業を営む。顧客はレストラン、病院、学校、ホテルなど42万5000施設に及ぶ。
・4/29発表の2025/6期3Q(1-3月)は、売上高が前年同期比1.1%増の195.98億USD、非GAAPの調整後EPSが同水準の0.96USD。米国の販売数量が2.0%減に加え、仕入れコスト上昇に伴い調整後粗利益率が0.34ポイント悪化も、販管費の効率化により調整後営業費率が0.17ポイント改善した。
・通期会社計画を下方修正。売上高成長率を前期比3%(従来計画4-5%)、調整後EPS成長率を同1%(同6-7%)とした。配当や自社株買い計画は据え置いた。同社はデジタルツール活用により時間当たり出荷数量増や配送ルート効率化などサプライチェーンに関連する生産性向上を成長戦略の柱とする。2025/6期9M(7-3月)のフリーキャッシュフローは前年同期比10%増の9.54億USD。
ウエイスト・マネジメント<WM> 市場:NYSE・・・2025/7/24に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・1968年設立。全米最大規模の廃棄物管理サービス会社であり、廃棄物の回収、移送、リサイクル、資源回収、処分を行う。廃棄物再エネルギー化施設の開発・運営・所有業者としても全米首位。
・4/28発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比16.7%増の60.18億USD、非GAAPの調整後営業EBITDAが同2.7%減の16.69億USD。2024年11月に医療廃棄物処理ステリサイクル(1Qの売上比率11%)を買収したことが全体の増収に寄与した一方、減益と利益率の悪化に影響した。
・通期会社計画は、売上高成長率が前期比16%、調整後営業EBITDAが同14-17%増の74.5-76.5億USD、フリーキャッシュフローが同15-20%増の26.75-27.75億USD。同社は規制など参入障壁が高く競争が緩やかな市場分野で同業他社買収により拡大を図ることを成長戦略の柱としている。ステリサイクル統合に伴うシナジー効果として通期で0.8-1.0億USDの営業EBITDA改善を見込んでいる。
執筆日:2025年5月12日
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