日経平均株価は高ボラティリティ局面へ、日銀と財務省の国債関連政策【フィリップ証券】
最近の日経平均株価の推移は、チャート分析上、参考になる動きが見られた。4/7に3万0792円の年初来安値を付けた後、同日から5/13の高値3万8494円を付けるまで24営業日を要した。株価(終値)が上昇、下落のどちらの勢いが強いかを計測するテクニカル指標の「14日間のRSI(相対力指数)」を見ると、4/7に11.9%と極端な売られ過ぎだったのが、5/14に96.0%と極端な買われ過ぎになった。5/13以降、3万7100円台~3万8500円近辺の狭い価格帯で推移していた中、5/13から数えて24営業日目の6/13、中東でイスラエルがイランの核施設に先制攻撃をしたこともあり、一時、前日比632円安の3万7540円まで下落。一般的には「地政学リスクに反応した、やむを得ない下落」と受け取られるものだろう。
ところが、5/13までに要した日数と同程度の日数で横ばいが続いた間、14日間のRSIは低下基調だったことから、時間経過に伴う買いの勢い減退(日柄調整)が株価下落に伴う「価格調整」に先行していたとの解釈も可能だった。株価の上昇、下落まで予測することは容易ではないものの、横ばいのこう着状態から価格変動性の高い状態へ転換する時期として上記の「同程度の日数」を予め見ておく余地があったと考えられる。チャートの横軸(時系列)に注目する分析手法は今後も注目される。
自民党は、物価対策として「バラマキ」批判を受けて一度は見送られた現金給付策を正式に打ち出した。財政拡張懸念から長期・超長期国債が売られれば日本株の上値を重くする要因になると考えられる。一方、財務省が6/20に開催する「国債市場特別参加者会合(プライマリー・ディーラー懇)」では、超長期国債の減額も視野に、2025年度の国債発行計画の年限構成を再検討、あるいは過去に発行した低利率の国債を買入消却する案が浮上している。また、6/16-17に開催される日銀金融政策決定会合でも、金融政策の正常化に伴う国債の買い入れ額の減額幅を縮小するのかどうかが議論される見通しだ。
6月下旬は、米国の中間決算期特有の資金回帰に伴うドル買い需要、夏の賞与支給に伴う新NISA(少額投資非課税制度)の買い、および3月末決算銘柄の配当支払いが再投資に回る可能性など、日本株投資にとってプラス要因が多い時期だ。日銀と財務省による日本国債に関連した政策動向がそのプラス要因を加速させるのか、帳消しにしてしまうのかが注目される。
金融庁は不動産投資信託(REIT)の対象に新たにデータセンター(DC)設備の組入れを認める方針と報じられた。DCに設置する冷却装置や非常用電源も組み入れ対象になると想定され、それらを扱う企業の業績にも好影響を与えると期待される。
■防衛関連銘柄は欧州情勢に追随~FTSE航空宇宙・防衛指数と三菱重工業
防衛予算増額に伴う受注増を受けて防衛関連銘柄は日本株を牽引するセクターとなっている。その代表的銘柄である三菱重工業<7011>は6/12終値で、市場予想PER(株価収益率)が38.7倍、PBR(株価純資産倍率)が4.92倍、予想配当利回りが0.70%と、足元の株価はファンダメンタルズ面から見て割安ではない。
ウクライナ情勢に対してドイツやイギリスが米国に頼らない安全保障体制の構築を目指し始めたこともあり、防衛関連セクターの世界の中心が欧州にシフトしつつある。そのような中で、三菱重工業の株価もFTSEオールシェア航空宇宙・防衛指数との連動性が高まっている。同指数の日々の動向は、三菱重工業をはじめとする日本株の防衛関連の株価動向を予測する上で参考になる可能性がある。

■J-REIT用途別と6・12月決算銘柄
東証上場のJ-REIT(不動産投資信託)57銘柄のうち6月・12月決算期銘柄は8銘柄。J-REITは税法の要件を満たすことで非課税のメリットを享受でき、相対的に高分配金を期待できる中、投資口価格も堅調に推移している。
時価総額を、不動産鑑定価格ベースの純資産価値で割った「NAV倍率」は引き続き1倍割れが中心だが、J-REIT時価総額首位の日本ビルファンド投資法人<8951>は1.1倍まで上昇。また、インヴィンシブル投資法人<8963>のように高い予想分配金利回りであっても値上がりにつながらない点は注意が必要だ。さらに、用途別東証REIT指数を見ると、首都圏物件を中心に含み益を分配金に反映させやすいオフィスが堅調の一方、住宅は5月以降、勢いが鈍化している。

参考銘柄
セック<3741>
・1970年に渋谷区代々木で設立。リアルタイムソフトウェアの提供が主体のリアルタイム技術専門会社。社会基盤システム、宇宙先端システム、モバイルネットワーク、インターネットの4事業を展開。
・5/12発表の2025/3通期は、売上高が前年同期比20.6%増の102億円、営業利益が同22.2%増の17億円。モバイルネットワークが減収も、インターネット(売上比率13%)が16%、社会基盤システム(同48%)が50%、宇宙開発・サービスロボットを含む宇宙先端システム(同30%)が9%の増収。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比3.9%増の107億円、営業利益が同2.6%増の18.4億円、年間普通配当が同6円増配の111円。同社は宇宙関連銘柄として他社のロケット打上げ失敗時に株価が連れ安する傾向があるものの、成長分野で好バランスの事業ポートフォリオを擁する。同社は量子コンピューター分野に注力。同分野で世界最大規模となる基本ソフトウエア群を公開している。
イムラ<3955>
・1950年に井村荷札封筒を現・奈良県葛城市に設立。パッケージソリューション事業(各種封筒の製造販売)、メーリング&デジタルソリューション事業(ダイレクトメール等の発送代行)を主として営む。
・6/11発表の2026/1期1Q(2-4月)は、売上高が前年同期比8.7%増の56億円、営業利益が同46.3%増の5億円。パッケージソリューション(売上比率70%)は0.6%減収、営業利益が14%増の4億円。メーリング&デジタルソリューション(同22%)は28%増収、営業利益が1.7億円(前年同期が0.1億円)。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.9%増の215億円、営業利益が同15.9%減の11億円、年間配当が同横ばいの30円。戸籍法改正に伴って5/26から戸籍に氏名のフリガナを記載する新制度がスタート。本籍地の市区町村から戸籍に記載される予定のフリガナが郵便で通知される。日本の戸籍の数は2022年3月末現在、5226万3682戸籍。政局次第では国政選挙関連の需要増も期待される。
ウェザーニューズ<4825>
・1986年設立。気象を含む自然現象データを顧客と共に収集・加工し、コンテンツとして提供。BtoB(法人向け)の気象予測に基づく業務支援、およびBtoS(社会向け)の情報コンテンツ提供を行う。
・4/7発表の2025/5期9M(6-2月)は、売上高が前年同期比4.6%増の174億円、営業利益が同37.1%増の31億円。航海(売上比率27%)が8%、航空(同6%)が10%、陸上・環境(同29%)が9%の増収。BtoSのモバイル・インターネット(同36%)が5%増収。AI(人工知能)活用が利益率向上に寄与。
・通期会社計画は、売上高が前期比5.7%増の235億円で据え置きに対し、営業利益を同28.4%増の42億円(従来計画38億円)へ上方修正。年間配当が同10円増配(株式分割の影響考慮後)の70円。同社はこれまで顧客企業への報告を人手に頼ってきた中、AIで報告書作成など業務の一部を自動化し、月に7000時間の削減を達成。社内アイデア吸い上げによる自社仕様AIの構築が強み。
ワークマン<7564>
・1982年に群馬県伊勢崎市で設立。作業服および関連用品の専門店チェーン。ショッピングセンターやホームセンターを擁する「ベイシアグループ」の中核企業。フランチャイズ展開を主軸とする。
・5/12発表の2025/3通期は、営業総収入が前期比3.2%増の1369億円、営業利益が同5.4%増の243億円。PB(プライベートブランド)商品のチェーン全店売上比率が0.7ポイント上昇の68.5%、粗利率が1.8ポイント上昇。チェーン全店既存店売上高は1.1%増、期末店舗数は純増40店の1051店舗。
・2026/3通期会社計画は、営業総収入が前期比7.5%増の1471億円、営業利益が同6.6%増の260億円、年間配当が同横ばいの73円。2025年6月より、労働安全衛生規則の改正に伴い、職場における熱中症対策が罰則付きで事業者に義務付けられた。同社は「暑熱四大リスク(気温、湿度、輻射熱、風)を軽減できる新製品「XShelter暑熱軽減ウェア」を投入。円高メリットの側面も注目される。
※執筆日 2025年6月13日
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