主要株価指数の史上最高値更新の要因と今後の関門【フィリップ証券】
S&P500株価指数とナスダック総合指数が6/27、過去最高値からの下落幅を全て取り戻し、それぞれ史上最高値を更新した。
米国によるイラン核施設への攻撃から一転して中東和平への期待が高まり、原油相場が水準を切り下げた。これが予想インフレ率の低下につながったほか、労働市場の減速やトランプ大統領による利下げ要求で市場では7月FOMC(米連邦公開市場委員会)の利下げおよび年内3回利下げシナリオが台頭した。エヌビディア<NVDA>株価の堅調な推移とともにAI(人工知能)への熱狂が蘇った。相互関税の上乗せ措置の猶予期限である7/9についても確定した期限ではないとの考えが示された。ラトニック商務長官は10ヵ国・地域との交渉成立が近いと述べた。トランプ大統領は中国から米国へのレアアース輸出手続き迅速化について合意に署名した。米国株式市場を幾重にも分厚く覆っていた深い霧のような不透明感が、急に晴れ始めたかのように映る。ダウ工業株30種平均株価も6/27終値は2024年12月に付けた過去最高値まであと約2.8%まで近づいた。
財政支出拡大と金融緩和の両輪が揃っている点でドイツと中国は米国の先を行っている。昨年末から6/27終値までの騰落率で見ると、独DAX指数と香港ハンセン指数はそれぞれ約21%上昇している。それに対し、S&P500株価指数は約5%の上昇に過ぎない。さらに、QUICK・ファクトセットのアナリスト業績予想集計によると、S&P500構成銘柄は2025年に前期比8.9%の最終増益見通しであり、欧州STOXX600の4.6%増益を上回る。加えて、金融政策も利下げ見通しが高まれば、米国株の欧州株に対する割安感・出遅れ感が強調されやすくなると考えられる。出遅れを挽回することが主なテーマとなるのならば、大手ハイテク株の中の出遅れ銘柄への投資の好機となるように思われる。
財政政策について、欧州ではNATO加盟各国が防衛費を国内総生産(GDP)の5%まで引き上げることに合意し、ドイツはインフラおよび軍事支出の急増に備えるため、国債増発と減税を連立与党の看板政策としている。これに対し、米国でもトランプ政権が7/4の独立記念日までに「税制・歳出法案」の成立を目指している。成立すればドイツや中国と同様に、財政支出拡大と金融緩和の両輪が揃うように見える。ところが、税制・歳出法案の成立のためには連邦債務上限の引き上げが必要となり、米国債市場の動向が難関となる可能性がある。発行体の信用リスクを表す「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」のスプレッドでは米国はドイツほど財政支出を拡大させる余裕は無い。ベッセント財務長官が国債増発に備えるため、「補完的レバレッジ比率(SLR)」など米国債取引を巡る銀行規制の緩和を示唆しているものの、米国債市場の動向に要警戒だろう。
■ダウ平均構成銘柄の四半期騰落率~1-3月と4-6月で一変、アップル不振
ダウ工業株30種平均構成銘柄(終値)について、①2024年末~25年3月末、②25年3月末~25年6月25日のそれぞれの騰落率を見ると、①の上位銘柄が②で下位となるなど騰落順位が入れ替わった。トランプ関税を巡る不透明感により、4/2発表の相互関税の適用が7/9まで猶予されたことを受けて、①で下落した銘柄ほど②で反発の度合いが大きかったとみられる。
②で多くの大型ハイテク株が堅調に推移した中、アップル<AAPL>は①・②のいずれの期間でも軟調に推移。AI(人工知能)への取組みの遅れを挽回すれば反転上昇の余地があると考えられる。一方、テクノロジー銘柄の中でもIBM<IBM>やシスコシステムズ<CSCO>は①・②を通じて堅調に推移しており、安定感が目立つ。「ハイテク・ディフェンシブ」として注目される。

参考銘柄
アップル<AAPL> 市場:NASDAQ・・・2025/8/1に2025/9期3Q(4-6月)の決算発表を予定
・1974年設立。スマートフォン・PC・タブレット端末・ウェアラブル製品および付属品を設計・製造し世界各国で販売。自社OS搭載のiPhoneやMac、iPadの他、アプリをダウンロードするAppStoreを提供。
・5/1発表の2025/9期2Q(1-3月)は、売上高が前年同期比5.1%増の953.59億USD、純利益が同4.8%増の247.80億USD。カテゴリー別売上高は、iPhoneが同2%増の468.41億USD、サービスが同12%増の266.45億USD。それ以外は、Macが7%増収、iPadが15%増収、周辺機器が5%減収。
・ティム・クックCEOによれば、トランプ関税が3Q(4-6月)に9億USDのコスト増要因となる。米国で販売するiPhoneやiPadの生産を中国からインドやベトナムにシフトする供給網再編コストの増加に加え、年次開発者会議(WWDC)でAI(人工知能)分野の出遅れが目立った点が懸念される一方、同社のiPhoneは、データセンターではなく端末でAIを動かす「エッジAI」普及の牽引役になると期待される。
ブラックベリー<BB> 市場:NYSE・・・2025/9/25に2026/2期2Q(6-8月)の決算発表を予定
・1984年に「リサーチ・イン・モーション」として設立。カナダを本拠地とし、モバイル端末「BlackBerry」で知られる。セキュア通信、IoT(モノのインターネット)、ライセンスの3つの事業セグメントを展開。
・6/25発表の2026/2期1Q(3-5月)は、売上高が前年同期比1.4%減の1.21億USD(会社予想1.07-1.15億USD)、非GAAPの調整後EPSが前年同期の▲0.02USDから0.02USDへ黒字転換(会社予想▲0.01USD-ゼロ)といずれも会社予想を上回った。リアルタイムOSのプラットフォーム「QNX」が伸長。
・通期会社計画は、売上高を前期比5%減-1%増の5.08-5.38億USD(従来計画5.04-5.34億USD)へ上方修正した一方、QNX事業売上高が同6-14%増の2.50-2.70億USD、調整後EPSを同4-5倍の0.08-0.10USDと従来計画を据え置いた。主力成長ドライバーと位置付けるQNXプラットフォームは、自動車業界を中心にシェアを高めている。他市場でも安全認証済みIoT製品への需要増が見込まれる。
カーニバル<CCL> 市場:NYSE・・・2025/9/30に2025/11期2Q(6-8月)の決算発表を予定
・1973年設立。北米・豪州・欧州・アジアでクルーズ客船を運航する。カーニバルクルーズライン、プリンセスクルーズ、コスタクルーズ等のブランドを展開し、世界中の旅行者向けに休暇体験を提供。
・6/24発表の2025/11期2Q(3-5月)は、売上高が前年同期比9.5%増の63.28億USD、為替一定の純収益率(Net Yields)が同0.4ポイント上昇の6.4%(会社予想4.4%)、非GAAPの調整後EBITDAが同26%増の15億USD(同13億USD)。旅行の中でも割安としてクルーズの人気が高まり、堅調に推移。
・通期会社計画を上方修正。為替一定の純収益率を5.0%(従来計画4.7%)、調整後EBITDAを前期比10%増の69億USD(同67億USD)とした。好調な予約状況と価格引き上げを受けて1Q決算発表時に続いての上方修正となった。顧客は以前よりも早期に予約する傾向が強まり、予約リードタイムが過去最長を記録。地政学リスクが高まる中でも予約やキャンセルの傾向に変化は見られない模様。
セールスフォース<CRM> 市場:NYSE・・・2025/8/28に2026/1期2Q(5-7月)の決算発表を予定
・1999年設立のCRM(顧客関係管理)の大手。「セールス」、「サービス」、「マーケティング・コマース」といったクラウド関連業務のほか、企業向けに「セールスフォース・プラットフォーム」を提供する。
・5/28発表の2026/1期1Q(2-4月)は、売上高が前年同期比7.6%増の98.29億USD(会社予想97.1-97.6億USD)、非GAAPの調整後EPSが同5.7%増の2.58USD(会社予想2.53-2.55USD)。24年10月に提供開始した「エージェントフォース」が堅調に推移し、4月末の残存履行義務(RPO)が同12%増。
・2026/1通期会社計画を上方修正。売上高を前期比8-9%増の410-413億USD(従来計画405-409億USD)、調整後EPSを同10-11%増の11.27-11.33USD(同11.09-11.17USD)とした。「エージェントフォース」は、対話型の生成AIと異なり、具体的な指示がなくても自らの判断で仕事をする自律型AIの「AIエージェント」。データ統合管理のインフォマティカ買収(約80億USD)の相乗効果が見込まれる。
アルファベット<GOOGL> 市場:NASDAQ・・・2025/7/23に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定
・2015年にGoogleの持株会社として設立。検索、YouTube等に関連する広告収入やAndroid等を含む「Google Services」、クラウド基盤の「Google Cloud」、新規事業の「Other Bets」の3部門を展開。
・4/24発表の2025/12期1Q(1-3月)は、売上高が前年同期比12.0%増の902.34億USD、純利益が同46.0%増の345.40億USD。検索連動型広告(売上比率56%)が10%増収、YouTube(同10%)が10%増収。Google Cloud(同14%)は、28%増収、営業利益が2.4倍の21.77億USDへ拡大した。
・傘下のGoogleが社内利用限定だった自社開発半導体「テンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)」の外部提供拡大を進める中、エヌビディアの画像処理半導体(GPU)の有数の買い手であるオープンAIがGoogleのAI半導体を借りる形で使用を開始したと報じられた。傘下の「ウェイモ」がアトランタで自動運転タクシーの運行を開始のほか、東京都内でも公道で自動運転車走行を開始した。
執筆日:2025年6月30日
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