自動車関連株価が示唆する輸出関連株価、グロース銘柄に注目【フィリップ証券】
日本株市場は新たな局面への移行を模索している。日経平均株価は4/7安値の3万1703円から6/30高値の4万0852円まで上昇した。5/13の高値3万8494円までの上昇局面は一本調子だったのに対し、それ以降は上昇の傾きが緩やかになっていることがわかる。主に自動車関連メーカーから構成される東証33業種別・輸送用機器指数の日次終値は、4/7終値の3581ポイントから5/13の4476ポイントまで上昇後、反転して売られ、6/25に4059ポイントまで下落した。
トランプ米政権は4/3以降、米国に輸入されたすべての自動車に25%の関税を課し、5/3以降に輸入された主要な自動車部品に対しても同様に25%の関税を課した。日銀が7/10に発表した6月の企業物価指数によると、北米向け乗用車の契約通貨ベース輸出価格は前年同月比19.4%と下落し、2ヵ月連続で2割近い下落となった。自動車関税に対し、日本の自動車メーカーは現地での価格競争力を維持するため、関税分を負担して輸出価格を引き下げている。この動きが東証33業種別・輸送用機器指数に反映されているが、7月下旬以降に発表の2025年4-6月期決算業績にも反映すると考えられる。
トランプ米大統領は新たな相互関税率を示し、日本に対し8/1から25%を適用する見通しとなった。既に4/3以降に課している一律関税の10%から大幅に引き上げられることとなる。関税交渉が8/1よりもさらに後ずれする可能性が高いとする見方も有力であるものの、実際に適用されれば、大半の企業が自動車メーカーと同様に現地での価格競争力を維持するため、利益を削って関税分を負担せざるを得ないだろう。その場合、輸出関連企業は5/13以降の東証33業種別・輸送用機器指数と同様の推移を辿る可能性が高いと考えられる。
参議院選挙の結果次第で大幅な政界再編となる可能性もあり、8/1までにディールを取り交わすことが現実的に難しくなることも考えられる。「国難」への対応として、連立政権へ参画する政党を増やす「大連立」によって大胆な政策を迅速に実行することが「民意」として示される可能性もあるだろう。
AI(人工知能)の活用が広がるに伴い、グロース銘柄の中で大きな変貌を遂げる企業が出現している。ビッグデータ処理・分析企業のデータセクション<3905>は7/4、世界最大規模のクラウドサービスプロバイダーからの要請に基づき、アジア最大級の日本初となるエヌビディアB200搭載AIスーパークラスターを大阪府内に構築すると発表。AIデータセンターサービスに関する大口の利用契約を締結し、業績へのインパクトが大きいと受け止められた。ソフトウェアのテスト受託事業を営むSHIFT<3697>も四半期ごとに業績を拡大している。「リテールテック(Retail Tech)」を武器にディスカウントストアを展開するトライアルホールディングス<141A>は7/1、西友の買収完了を発表した。
■改善期間入り東証プライム銘柄~流通株式比率と流通株式時価総額
2022年4月の市場区分見直し以降、上場維持基準の未達企業に適用されてきた経過措置が終了し、2025年3月以降に到来する「基準日」から本来の上場維持基準が適用されるようになった。プライム市場では流通株式時価総額が100億円以上、流通株式比率が35%以上だ。上場維持基準に適合しない場合、基準日から3ヵ月以内に上場維持基準の適合に向けた計画を開示する必要がある。
流通株式比率を高めるには大株主が保有する株式などを売却してもらう必要があり、需給悪化による株価下落要因となり得る。流通株式時価総額を短期間で高めるための即効性ある手段は見当たらない。上場維持可能な市場への区分変更か、あるいは、大株主を買い手としたTOB(株式公開買付)や経営陣によるMBO(マネジメント・バイ・アウト)を通じた非上場化なども選択肢となるだろう。

参考銘柄
SHIFT<3697>
・2005年に東京都渋谷区にて設立。ソフトウェアテスト関連、ソフトウェア開発関連、その他近接の3サービスを展開。テスト実行を担うテストエンジニアに関して、独自の「CAT検定」適性評価に特色。
・7/9発表の2025/8期9M(9-5月)は、売上高が前年同期比17.6%増の954億円、営業利益が同68.7%増の119億円。ソフトウェアテスト関連(売上比率65%)は18%増収、粗利益率が3.5ポイント上昇(36.9%)、ソフトウェア開発関連が16%増収、粗利益率が1.7ポイント上昇(26.1%)と堅調に推移。
・通期会社計画は、売上高が前期比17.5%増の1300億円で据え置きに対し、営業利益を同42.4%増の150億円(従来計画135億円)へ上方修正。キーエンス<6861>元社長の佐々木道夫氏が2024年より会長に就任。同氏によれば、SHIFTは効率・データ重視の社風がキーエンスと類似。一方、製造業にとどまらず、様々な業種の企業や組織が顧客となり得る点から成長フィールドが広いとの見方だ。
中越パルプ工業<3877>
・1947年に富山県高岡市で高岡製紙として設立。王子ホールディングス<3861>の持分法適用会社。主力の紙・パルプ製造事業、発電事業の他、セルロース・ナノファイバー製品、紙加工品の製造・販売を行う。
・5/15発表の2025/3通期は、売上高が前期比3.0%増の1110億円、営業利益が同21.5%減の48億円。紙・パルプ製造事業(売上比率91%)は5%増収、営業利益が34%減の36億円。原燃料価格や物流費の上昇に加え、修繕費など固定費の増加が響いた。発電事業およびその他は営業増益。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比0.9%増の1120億円、営業利益が同1.2%増の49億円、年間配当が同10円増配の80円。同社は6/25、東証プライム市場の「上場維持基準への適合に向けた計画(改善期間入り)」を公表。基準日時点の流通株式時価総額が91億円にとどまる。筆頭株主の王子HDは三菱製紙<3864>の株式(32.84%)も保有し、グループ再編の余地もある。
ぴあ<4337>
・1972年に東京都中野区で情報誌月刊『ぴあ』を創刊。音楽・スポーツ・演劇・映画・各種イベントのチケット販売をはじめ、エンタメ関連書籍刊行、コンサート・イベント企画・制作・運営等が主な業務。
・5/15発表の2025/3通期は、売上高が前期比14.6%増の453億円、営業利益が同117.9%増の26億円。大型興行の企画・主催、チケット販売、ぴあカード会員事業などの拡大を受けて取扱高が過去最大の2700億円へ増加。昨年10月に一部料金を改定したことで、コスト増を吸収し、増益となった。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比3.6%増の470億円、営業利益が同29.0%増の34億円、年間配当が同10円増配の10円とし5期ぶりに復配。チケット購入では好きなアーティストやコンテンツを応援する「推し活」が活発となり、支払額が増加傾向。ネット販売が主流となる中、抽選販売システム構築や不正転売防止、決済処理などを含む各種手数料引き上げの業績への貢献が見込まれる。
横河ブリッジホールディングス<5911>
・1907年に工学博士横河民輔が大阪市西区境川町にて、日本初の橋梁・鉄骨専業メーカーとして創業。橋梁事業、エンジニアリング関連事業、先端技術事業、不動産事業を展開する。
・5/14発表の2025/3通期は、売上高が前期比2.9%減の1593億円、営業利益が同4.6%増の166億円。受注高は同8.0%増だった。橋梁事業(売上比率62%)は1%増収、営業利益が55%増の136億円。設計変更に伴う採算改善が奏功した。エンジニアリング関連事業(同36%)は減収・営業減益。
・2026/3通期会社計画は、売上高が前期比1.7%増の1620億円、営業利益が同28.0%減の120億円、年間配当が同10円増配の120円。政府は6/6、国土強靭化の中期計画を閣議決定。先行する「5ヵ年加速化対策」の事業規模15兆円が20兆円へ拡大された。インフラ老朽化に対しインフラメンテナンス国民会議の富山会長は「特に道路・橋梁は国の基幹となる『インフラ・オブ・インフラ』」と述べた。
※執筆日 2025年7月11日
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