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「雇用統計ショック」の余波は広がるのか?【フィリップ証券】

市況
2025年8月8日 14時30分

7/29-30に開催した米FOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利が据え置かれ、米FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「9月については何の決定もしていない」と述べた。市場の9月利下げへの期待は後退した。FOMCの声明では、「失業率は低水準を維持し、労働市場の状況は引き続き堅調」とされた。

その2日後、米労働省が発表した7月の雇用統計は、非農業部門の雇用者数は前月比7万3000人増と市場予想(10万人増)を下回った。これだけであれば大きな問題にならなかったと思われるが、6月までの過去2ヵ月分の雇用者数も計25万8000人の大幅な下方修正が発表された。回答率の低下や統計機関における予算制約や人員不足の深刻化などが、統計のブレ拡大の要因とされている。それでも、米FRBの金融政策決定がこのような信憑性に欠けるデータに基づいて行われていたとすれば、本来は世界の金融市場の根幹を成す存在として、最高水準の信認を得るべきFRBだが、その権威が失墜しかねない。

トランプ米大統領は、一方的に労働省労働統計局長を解雇。さらに、クーグラーFRB理事が任期途中で8/8に辞任することも決まり、トランプ氏はその後任人事を近く発表する見通しだ。トランプ氏の意を汲む人物が後任になれば、FRBの独立性が大きく脅かされるリスクが浮上する。物価安定よりも利下げが優先され、米ドルへの信認も失われるだろう。インフレによる長期金利上昇を抑えるには黒田前日銀総裁時代の日本のように中央銀行が国債を買い入れて人為的に長期金利を操作するしかなくなるかもしれない。それは日本が経験した通り、通貨安加速への道のりだろう。デフレだった日本とは状況が異なることから、より大きな混乱が伴う可能性も考えられる。

米国株式市場は「雇用統計ショック」で一時的に大幅下落したものの、足元は大型ハイテク株を中心に好決算・先行き堅調見通しだ。雇用情勢の鈍化、景気減速を受け止めて、9月のFOMCに向けて「利下げ催促相場」の様相を強めそうだ。米中貿易交渉では、エヌビディア<NVDA>製AI(人工知能)半導体チップを巡り、位置情報追跡機能に関する火種が生じている。トランプ政権は電気自動車(EV)の販売義務など脱炭素を進める規制の根拠である「危険性認定」の撤回方針を示した。また、トランプ氏は欧米の主要な製薬企業の幹部に対し、米国内の処方薬価格を他国に合わせて引き下げるよう要求する書簡を送付した。個別銘柄の「政策リスク」には要注意だろう。

■「ソーシャル・ファイナンス」のSoFi~テクノロジーと顧客中心主義の融合を標榜

米フィンテック企業のソーファイ・テクノロジーズ<SOFI>が業績を拡大している。2025/12期2Q(4-6月)は、営業収益が前年同期比106%増の3.62億USD、うち預貸利鞘による純金利収益が39%増の1.93億USD、手数料収入に相当する非金利収益が359%増の1.69億USD。経費率は16.7ポイント低下の45.3%へ改善した。四半期ごとに純金利収益、非金利収益ともに拡大し、貢献利益マージンが上昇を続けた。

7/4に成立した米大型減税・歳出法により連邦学生ローンの借入限度額が厳しく設定されることから、同社の顧客ターゲットである大学院生や専門職学位取得者が教育費を賄うために民間ローンに頼るケースが増加すると見込まれる。データ駆動型リスク評価やデジタルプラットフォームの強みが発揮されると考えられる。

【タイトル】

参考銘柄

クレイン<CR> 市場:NYSE・・・2025/10/28に2025/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・クレインホールディングスから2023年4月にスピンオフ。航空宇宙&エレクトロニクス事業、プロセスフロー技術事業から構成される工業製造コングロマリット。エンジニアリング・マテリアル事業を売却。

・7/28発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比9.2%増の5.77億USD、非GAAPの調整後EPSが同24.2%増の1.49USD、6月末受注残が同20%増。航空宇宙&エレクトロニクス(売上比率45%)は12%増収、受注残が29%増。プロセスフロー技術(同55%)は7%増収、受注残が1%増。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比6.5%増(従来計画5%増)、調整後EPSを同13-19%増の5.5-5.8USD(同5.3-5.6USD)とした。事業ポートフォリオの継続的な利益率向上のため事業の選択と集中に注力。2Qの調整後EBITDAマージンが前年同期比1.3ポイント上昇と、年初にエンジニアリング・マテリアル事業を売却した効果が表れている。航空関連でトランプ政策の追い風が見込まれる。

モンゴDB<MDB> 市場:NASDAQ・・・2025/8/29に2026/1期2Q(5-7月)の決算発表を予定

・2007年設立。汎用目的のデータベース・プラットフォームの開発を行う。同社のクラウドサービスを通じて、企業はオープンソースのデータベース(DB)を迅速かつ低コストで導入・開発・運営できる。

・6/4発表の2026/1期1Q(2-4月)は、売上高が前年同期比21.9%増の5.49億USD(会社計画5.24-5.29億USD)、非GAAPの調整後EPSが同79.7%増の1.06USD(同0.63-0.67USD)。調整後営業利益率が9ポイント上昇、フリーキャッシュフローが74%増の1.05億USD。生成AI(人工知能)普及が追い風。

・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比12-14%増の22.5-22.9億USD(従来計画22.4-22.8億USD)、調整後EPSを同15-20%減の2.94-3.12USD(同2.44-2.62USD)とした。同社のドキュメント指向データベースは複雑なデータの扱いやすさ、負荷分散による規模拡大の容易さやデータ同期による耐障害性の強さ等に利点。生成AI関連のデータやアプリケーションの拡大が追い風となるだろう。

プール<POOL> 市場:NASDAQ・・・2025/10/24に2025/12期3Q(7-9月)の決算発表を予定

・1993年設立。スイミングプールの設備、部品、消耗品、関連レジャー用品を販売する世界最大の卸売業者。5つの傘下流通ネットワーク(SCP、Superior、Horizon、NPT、Sun Wholesale)を擁する。

・7/24発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比0.8%増の17.84億USD、非GAAPの調整後EPSが同3.8%増の5.17USD。補修用製品の拡大が持続したことに加え、消費者の裁量的支出額の伸びが改善を示した中、拠点の販売センターを6月末で昨年末比2ヵ所増の450拠点へ拡大。

・通期会社計画を下方修正。税効果の影響を含む調整後EPSを前期比0-4%減の10.8-11.3USD(従来計画11.1-11.6USD)。米国のプール関連消費の約6割は既存プールの保守や小規模修理。米国南部への人口流入および家庭屋外スペースへの支出増等が追い風となっている。投資会社バークシャー・ハサウェイが25年1-3月に同社株を86.5万株買い増して3月末現在で146万株を保有。

レスメド<RMD> 市場:NYSE・・・2025/10/24に2026/6期1Q(7-9月)の決算発表を予定

・1989年設立。睡眠時無呼吸障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など呼吸器疾患の医療機器を取り扱う医療機器大手。相次ぐ買収でクラウド型ソフトウエア・ソリューション関連のSaaS部門を拡充。

・7/31発表の2025/6期4Q(4-6月)は、売上高が前年同期比10.2%増の13.48億USD、非GAAPの調整後EPSが同22.6%増の2.55USD。睡眠・無呼吸障害の問題意識浸透が追い風。営業効率性とコスト削減への注力が奏功し、調整後粗利益率が2.3ポイント改善、営業キャッシュフローが22%増加。

・2026/6期会社見通しは未公表。同社は、世界主要市場において医療機器が必要な睡眠時無呼吸症候群で10億人、派生市場のCOPDで4億8000万人、不眠症で8億人の患者(合計で約23億人)が存在すると見ている。COPDと不眠症に対しては在宅でのデジタル機器ソリューションが有効とみられる。継続課金でクラウド型のデジタル機器ソリューション拡大により、利益率の向上が見込まれる。

コンステレーション・ブランズ<STZ> 市場:NYSE・・・2025/10/3に2026/2期3Q(6-8月)の決算発表を予定

・1945年にワイン生産で創業。アルコール飲料の製造・販売を営む。ビールを主軸にプレミアム領域に注力。「Corona Extra」「Modelo Especial」他多様なブランドを米国、メキシコを含む4ヵ国で展開。

・7/1発表の2026/2期1Q(3-5月)は、純売上高が前年同期比5.5%減の25.15億USD、非GAAPの既存事業ベース調整後EPSが同9.8%減の3.22USD。ビール部門(売上比率89%)は2%減収。一方、ワイン・スピリッツ部門(同11%)がSVEDKAブランド売却と出荷タイミング調整の一時要因から28%減収。

・2026/2通期会社計画を公表。既存事業ベース調整後EPSは前期比6-7%減の12.6-12.9USD。同社はクラフトビールのブランド売却によるポートフォリオ再構築を進める一方、ワインのブランドを買収して高価格帯ブランドの強化を図るなど、需要減速の逆風を受けながらも手を打っている。投資会社バークシャー・ハサウェイが25年1-3月に同社株を638万株買い増し3月末現在で1201万株を保有。

エクセル・エナジー<XEL> 市場:NASDAQ・・・2025/10/31に2025/12期2Q(4-6月)の決算発表を予定

・1909年設立のエネルギー企業。コロラド、ミシガン、ミネソタ、ニューメキシコ、ノースダコタ、サウスダコタ、テキサス、ウィスコンシン州の顧客向けに、発電・送電・配電を行うほか天然ガスも供給する。

・7/31発表の2025/12期2Q(4-6月)は、売上高が前年同期比8.6%増の32.87億USD、非GAAPの継続事業EPSが同38.9%増の0.75USD。旺盛な電力需要に対応して設備投資を拡大しながら、総費用比率が2.7ポイント低下の82.5%。電力(売上比率88%)が8%増収、天然ガス(同12%)が12%増収。

・通期会社計画は、継続事業EPSが前期比7-10%増の3.75-3.85USDと従来計画を据え置いた。同社は合弁事業の「WGI」(州間天然ガスパイプライン)や「WYCO」(天然ガス貯蔵・圧縮設備)なども傘下に保有。トランプ政権は7/23,国家戦略「AI(人工知能)アクションプラン」を発表。電力供給網の整備を掲げたことから、WGIやWYCOなどの電力インフラ資産ほか、様々な側面で恩恵が見込まれる。

執筆日:2025年8月8日

フィリップ証券
フィリップ証券 リサーチ部 笹木和弘
(公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト)

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