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需給の壺―海外投資家の先物取引―【若桑カズヲの株探ゼミナール】

特集
2025年8月28日 10時00分

第7回:海外投資家の先物取引

─現物市場を揺さぶる巨額フローの力学―

市場価格を動かす本質的な要因は、需要と供給、すなわち「需給」に尽きる。経済指標や金融政策、地政学リスクといった政治情勢のほか、他の金融市場の動向など、しばしば価格変動の要因として語られる指標は、あくまで需給を変動させる「きっかけ」に過ぎない。本連載では、この「需給の壺(ツボ)」を読み解くことを目的とし、マーケットにおける需給の基本構造とその変遷を追いながら、未来への洞察を試みたい。

◆株式先物における海外投資家の需給

第7回は、国内株式先物市場の投資部門別売買状況統計における「海外投資家」を取り上げる。日本株市場の需給構造を語る上で、避けて通れない存在が海外投資家である点は第1回で触れた通りである。

東京証券取引所の売買代金に占める海外投資家の比率は、2024年も全体の約3分の2に達しており、依然として最大のプレーヤーであることに変わりはない。

その影響力を考えるうえでとりわけ注目すべきは、現物株の売買以上に市場を揺さぶる先物取引での動きである。先物市場を通じた海外投資家の巨額のフローは、株価指数全体の動きを方向づけ、さらに裁定取引が現物株の需給に直接的な影響を及ぼしている。

今回は海外投資家による先物取引を、現物市場との関係性を踏まえて掘り下げ、2025年の市場動向と併せて確認していきたい。

◆先物市場の特徴と海外勢の取引手法

日本の株価指数先物市場は、日経平均株価と東証株価指数(TOPIX)の指数先物を中心に構成されている。いずれも大阪取引所で取引されており、2024年の売り買い合計金額ベースでは現物市場の約1.67倍にも達する巨大市場である(図1)。もちろん、参加者はレバレッジを効かせているが、先物市場は現物市場を凌駕する日本株の中核的な取引プラットフォームといえる。

特に日経平均株価の指数先物は先物市場の約7割を占めるほど流動性が高く、海外投資家にとって日本市場へのエクスポージャー(※1)を効率的に調整できる手段となっている。(※1)価格変動などのリスクにさらされている金融資産の割合

ちなみに、日経平均株価の指数先物の中でも「日経225mini」の人気が高い。同先物は個人投資家が参加しやすいようにするため、取引単位を「日経225先物」(ラージともいう)の10分の1にしたデリバティブだ。取引開始は「ラージ」が1988年、「mini」はその18年後の2006年からである。しかし、今では「mini」の売買の方が盛んであり、2018年以降この傾向が続いている。

図1 日本の株価指数先物の売買(2024年売り買い合計)代金とシェア

【タイトル】

海外投資家は、現物株を大量に売買する代わりに先物を活用し、短期間での市場ポジションの調整を行うことが多い。例えば、日本市場全体に対して弱気な見通しを持つ場合、個別銘柄を売却するよりも、日経平均先物を売る方が取引コストは低く、運用効率も高い。また、先物は現物市場の取引時間外でも売買可能であり、米国市場の動向に合わせて機動的に取引できることも、海外投資家にとって大きな魅力となる。

ちなみに、株価指数先物の取引時間は昼間(日中)が8時45分から15時45分まで、夜間は17時から翌朝6時までとなっている。ただし、日中取引は引け前の5分間だけ取引をしない引け前注文受付(プレ・クロージング)時間を含むほか、一部の先物では取引時間が異なる点に注意したい。

こうした特徴から、先物市場における海外投資家のシェアは極めて高く、2024年では売買高(自己も含む)の約76%を海外勢が占めるに至った(図2)。これは現物市場における比率(同66%)をさらに上回る水準であり、日本株市場が「海外資金に支配された市場」と揶揄される所以にもなっている。

図2 日本の株価指数先物の投資部門別売買(2024年売り買い合計)代金とシェア

【タイトル】

◆裁定取引と先物需給の「節目」SQ

先物市場の動きが現物市場へと波及する際に、最も重要な役割を果たすのが「裁定取引」である。先物と現物の価格差が一定の水準を超えると、裁定取引が発動し、先物の売買と同時に現物株の売買が行われる。これにより先物市場での売買は現物市場に、直接的な需給インパクトをもたらす。

詳細は前回に触れたが、海外投資家が「日経225先物」を大量に買い建てた場合、先物と現物の価格差が広がり、裁定買いが働いて現物株も同時に買われる。その結果、指数採用銘柄の株価は軒並み上昇する。一方、先物の売り建てが優勢になれば、先物と現物の価格差が縮小もしくはマイナスに転じて、裁定解消の売りが現物株に波及する。

このメカニズムにより、日本株市場の現物株価はしばしば先物主導で動く傾向が強い。とりわけSQ(特別清算指数)算出日など、先物・オプション取引の満期日清算に絡む時期には、現物市場も大きな値動きを強いられることが多い。毎月第2金曜日に迎える「SQ」、特に3月・6月・9月・12月の四半期ごとに訪れる「メジャーSQ」では、先物・オプションの決済が集中し、現物株の出来高も増える傾向にある。

海外投資家はこのSQに向けて建て玉調整を行う傾向が強く、決済直前には先物主導で指数が乱高下する場面が繰り返されてきた。2025年に入ってからもその傾向は顕著であり、3月のメジャーSQ前後にはTOPIX先物で売り建てを積み上げた海外投資家が、決済に向けて一斉に買い戻す動きが観測され、TOPIX指数は数日で3%近く反発する展開となった(もっとも、その後にトランプ関税問題が噴出し、リスク回避の地合いになっている)。

こうしたパターンは、先物取引の需給が現物株の短期的な価格形成に強烈な影響を与えることを示す好例であるといえよう。

◆海外勢の取引時間帯や趣向の違い

海外投資家の先物取引は、その取引時間帯にも顕著な特徴がある。日本時間の寄り付きから午前中にかけては、米系ファンドの動きが強まり、特にCME日経225先物の動向を反映して現物株が大きく動く。一方、午後から大引けにかけては、欧州勢が明け方のニュースや為替動向を織り込みながら、先物で日本株市場に参入する場面が目立つ。

このように、時差を通じた「グローバル資金の呼吸」が先物市場を媒介にして日本株に波及しているのである。

同じ海外投資家といっても、現物株を中心に売買する投資家と、先物を多用する投資家では、市場に与える影響が大きく異なる。現物株を重視する投資家は、多くが年金基金やソブリン・ウェルス・ファンド(政府系ファンド)のような長期運用主体であり、需給的には安定株主の性格を帯びる。

これに対し、先物を主戦場とするグローバル・マクロ系のヘッジファンドやCTA(商品投資顧問)は、短期的なイベントや金利変動に即応して売買を繰り返すため、市場のボラティリティ(変動率)を増幅させる存在となる。

この二層構造は、日本市場における需給の「安定と変動」を同時に規定している。すなわち、長期資金が市場の地盤を支えつつ、短期資金が先物を通じて価格変動を拡大させるという力学である。2025年もこの傾向は変わらず、現物株を買い越す海外長期資金と、先物市場を通じて短期売買を繰り返す投機的資金とが共存し、その対比が需給構造を特徴づけている。

2025年に入ってからの海外投資家の先物動向をみると、年初は米国の金融政策を巡る不透明感から先物を通じた売り越しが優勢であった。しかし、春以降は円安と企業収益改善への期待に加え、日米関税問題の行方が次第に見え始めたことから、現物・先物とも買い戻しが進み、結果として4月から8月第2週までで8兆円規模の買い越しとなった。

図3 海外投資家の現物と先物(累積)

【タイトル】

海外投資家の先物取引は、日本市場にとって単なる短期売買の舞台ではない。それはグローバル資金が時差を越えて呼吸し、現物株市場に影響を伝達する装置であり、また長期資金と短期資金のせめぎ合いを浮き彫りにする鏡でもある。

歴史的にみれば、1980年代の市場開放以降、日本株の需給構造は海外投資家の先物取引なしには語れなくなった。2025年の市場でも、その影響力は健在であり、今後も需給の壺を語る上で中心的なテーマであり続けるだろう。(第8回に続く)

◆若桑カズヲ (わかくわ・かずを):
証券会社で株式やデリバティブなどのトレーダー、ディーラーを経て調査部門に従事。マーケット分析のキャリアは20年以上に及ぶ。株式を中心に債券、為替、商品など、グローバル・マーケットのテクニカル・需給分析から、それらに影響を及ぼすファンダメンタルズ分析に至るまで、カバーしている分野は広範囲にわたる。

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