小泉政権下の2005年に対する出遅れ修正局面の可能性【フィリップ証券】
株価の人気度を測る指標として予想PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)がよく使われる。長期の変遷を見る場合、予想PERは「不景気の株高」と言われる過剰流動性の金融相場の場合にブレが大きくなり過ぎることから、PBRで見ることが適切だろう。主要な日本株をより広範にカバーし、時価総額の加重平均型の指数であるTOPIX(東証株価指数)のPBRを長期で遡ると、小泉政権時の2003年5月、りそな銀行に2兆円近くの公的資金が投入され、実質的に国有化された時のPBRは1.2倍近辺だった。その後、「聖域なき構造改革」のスローガンとともに日本経済のデフレ脱却期待から、海外投資家による日本株への資金流入が増加した。2005年11月にはPBRが2倍超えまで上昇した。2003年5-6月に0.5%近辺だった日本国債10年物利回りは、2005年11月に1.6%を超え、2006年4月に1.9%台まで上昇した。
足元では、日本国債10年物利回りが1.6%を超えたものの、TOPIXのPBRは8/18終値で1.6倍に達したばかりだ。2005年の時は日本経済における「失われた10年」からのデフレ脱却期待が日本株市場と長期金利の両方を後押しした。それに対し、現在は日本経済が既にインフレ局面に移行して長期金利が上昇しているのに対し、株価上昇が出遅れている状態のように見受けられる。
2005年11月当時は、日経平均株価の数値をNYダウ平均株価の数値で割った倍率は1.3倍台だったのに対し、8/28終値では約0.94倍だ。第二次安倍政権と黒田日銀総裁の「アベノミクス・黒田バズーカ」相場の下で、海外投資家は日本の低金利を活用した「円キャリートレード」を軸に米国株を買う構図が中心にあり、米国株が日本株のパフォーマンスを上回るのが常態化していた。ところが、円金利が上昇局面となり、円キャリートレードがその役割を終えている現在、そのような「常態」も変わるべき局面に来たように思われる。
「ジャクソンホール会議」でのパウエル米FRB(連邦準備理事会)議長の講演後、米国では金利引き下げ期待が高まっている。米国の利下げ局面では米ドル安に伴って、米国への投資資金の一部が米国外のグローバル市場へシフトすることが考えられる。グローバル市場に方向を転換した投資資金は、景気見通しの改善を伴う条件がつくものの、金利が低下する市場よりも金利が上昇する市場に引き寄せられやすいだろう。米利下げ局面下で日本がその逆となる利上げを行っても景気に悪影響が無い限り、日本株市場への資金シフトを呼ぶ余地がある。日本経済の現状は物価上昇が実質賃金や実質消費の低迷を招いている点が課題とされ、金融政策で物価上昇を抑えることは市場に歓迎されるだろう。海外投資家の中には、日本円と日本株のダブルで利益を狙える機会と捉える向きも増えるだろう。
■1%台後半の長期金利とPBR水準~小泉政権時の日経平均/ダウ平均倍率
日本国債10年物利回りは8/27、2008年10月以来となる1.625%まで上昇。同時期に日本株のPBR(株価純資産倍率)も8/18、TOPIX(東証株価指数)ベースで2008年6月以来となる1.6倍に達した。インフレ期待を伴う長期金利上昇時には、PBRおよび予想PER(株価収益率)が上昇しやすいと考えられる。小泉政権下での構造改革による日本経済の回復期待から日本国債10年物利回りが2%近くまで上昇した2005年後半、TOPIXのPBRは一時2倍を超えた。
日米株価の関係を見ると、リーマンショックが発生した2008年までは、日経平均株価をNYダウ平均株価で割った倍率は、日本国債10年物利回りが1.5%以上だった時期には常時1.0倍を超えていた。足元の環境は当時と類似している。

参考銘柄
技研製作所<6289>
・1967年に現在の高知県香南市で創業。無振動・無騒音の油圧式杭圧入引抜機(サイレントパイラー)に関連した「建設機械事業」、および圧入技術の新工法を活用した「圧入工事事業」を展開。
・7/10発表の2025/8期9M(9-5月)は、売上高が前年同期比21.3%減の174億円、営業利益が同50.7%減の14億円。元子会社J Steelとの和解に伴う特別損失を計上し、純利益が80%減。事業別営業利益は、建設機械事業(売上比率65%)が38%減の21億円、圧入工事事業が19%減の9億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比11.5%増の261億円、営業利益が同30.8%減の23億円、年間普通配当が同2円増配の44円。1月末に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故の現場で同社は独自の圧入工法を活用し、陥没した道路や下水道管の早期復旧工事を進めている。全国に張り巡らされた下水道管の老朽化が顕在化する中、政府は計画的な下水道の点検・改修に取り組んでいる。
武蔵精密工業<7220>
・1938年に品川区戸越で大塚製作所を創業し、航空発動機用気化器の部品製造を開始。ホンダ<7267>が株式を25%保有。自動車用パワートレイン、サスペンション他の部品の製造販売を営む。
・8/5発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比6.6%減の830億円、営業利益が同4.4%減の38億円。セグメント利益は、米州(売上比率33%)が1%増の13億円、日本と中国を除くアジア(同22%)が15%減の17億円、欧州(同26%)と中国(同8%)が増益、日本(同11%)が56%減益。
・通期会社計画は、売上高が前期比5.0%減の3300億円、営業利益が同6.5%増の210億円、年間配当が同横ばいの50円。同社は8/20-22に横浜で開催された「第9回アフリカ会議(TICAD9)」にブースを出展。8/22、出資・協業先のケニアの電気自動車(EV)新興企業と使用済み電池の二次利用方法の検討に関する覚書(MOU)の締結を発表。二次利用で無電化地域等への電力供給を目指す。
スズキ<7269>
・1909年に浜松市で「鈴木式織機製作所」を創業。四輪車、二輪車、船外機および電動車いすなどの製造販売等を営む。国内で軽自動車2強、二輪3位。インドの四輪市場でシェア4割強を占める。
・8/5発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上収益が前年同期比4.1%減の1兆3977億円、営業利益が同9.8%減の1421億円。四輪事業は、売上収益が5%減の1兆2578億円、営業利益が13%減の1194億円。世界販売台数が4%減の75万4000台。うち、インドが6%減の40万2000台、日本が4%増の17万6000台。
・通期会社計画は、売上収益が前期比4.7%増の6兆1000億円、営業利益が同22.2%減の5000億円、年間配当が同4円増配の45円。同社は8/26、インド西部グジャラート工場で同社初の電気自動車(EV)となる「eビターラ」の欧州向け出荷を開始。インドを拠点として日本を含む100ヵ国以上で販売を行う計画。インドからの輸出を強化することで、インドに依存する収益構造からの脱皮を目指す。
SOMPOホールディングス<8630>
・2010年に損害保険ジャパンと日本興亜損害保険の経営統合により設立。国内3大損保の一角を占め、主に国内損害保険事業、海外保険事業、国内生命保険事業、介護・シニア事業を展開する。
・8/14発表の2026/3期1Q(4-6月)は、保険契約から得られる主要収益である「保険収益」が前年同期比1.2%増の1兆2635億円、保険契約の履行に伴う収益と費用(保険金支払い、再保険費用など)の差額である「保険サービス損益」が同87.3%増の980億円、「金融損益」が同51.4%減の664億円。
・通期会社計画は、当期利益が前期比37.8%増の3350億円、年間配当が同18円増配の150円。同社は8/27、米国同業でNYSE上場のアスペン・インシュランスHD<AHL>を約5195億円相当額で買収すると発表。アスペン社は信用リスク、政治リスク、サイバーリスク、環境リスク、専門職賠償責任保険などの特殊リスク引受業務を行い、特殊保険商品を提供するほか、従来型の再保険も手掛ける。
※執筆日 2025年8月29日
当資料は、情報提供を目的としており、金融商品に係る売買を勧誘するものではありません。フィリップ証券は、レポートを提供している証券会社との契約に基づき対価を得る場合があります。当資料に記載されている内容は投資判断の参考として筆者の見解をお伝えするもので、内容の正確性、完全性を保証するものではありません。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。また、当資料の一部または全てを利用することにより生じたいかなる損失・損害についても責任を負いません。当資料の一切の権利はフィリップ証券株式会社に帰属しており、無断で複製、転送、転載を禁じます。
<日本証券業協会自主規制規則「アナリスト・レポートの取扱い等に関する規則 平14.1.25」に基づく告知事項>
・ 本レポートの作成者であるアナリストと対象会社との間に重大な利益相反関係はありません。
※フィリップ証券より提供されたレポートを掲載しています。
株探ニュース
