自民党総裁選前倒しは日本株市場に変化を起こすか【フィリップ証券】
9月相場が始まった。月末の配当権利取りを巡って高配当利回り銘柄を物色する動きが予想される。日経平均株価の9月末配当落ちは260~270円近辺の水準が見込まれている。その一方、債券市場で超長期・長期国債が売られて債券利回りが上昇する動きがみられ、株式の配当利回りの相対的な優位性が薄れることが懸念される。米国では相互関税に違憲判決を受けて関税収入への疑念が払拭されず、さらにフランスやイギリスでも財政悪化が懸念されている。日本でも9/8に自民党で臨時総裁選の実施要求に関する意思確認が行われる。石破首相が退陣となれば、財政支出拡大が警戒されて超長期・長期国債の利回りが上昇するリスクが懸念されている。
足元では米国の雇用関連指標が軟調であることから米国の利下げ観測が高まっている。これが超長期・長期国債の売り圧力を吸収している。金融機関や保険会社にとっては債券ポートフォリオの含み損解消につながる面もある。9/5発表の8月の米国雇用統計によって米国の利下げ観測が続くならば、日経平均株価は指数の先物とオプションの最終決済に関する特別清算値(SQ値)算出日を9/12に控え、8/19に付けた史上最高値4万3876円を意識した展開が想定される。ただ、8/29時点の日経平均株価の現物と先物との裁定取引の買い残(現物買い、先物売り)は2兆1513億円と、今年3月下旬以来の高水準に上っている。先物の期近物を期先物にロールオーバーしない場合は、裁定買い残の解消に伴って日経平均株価が一時的に大きく下落するリスクには注意が必要だろう。それでも、自民党総裁選の前倒しが決まれば、財政支出拡大とともに必要な政策の実行を早めるものとして、株式市場で好感される可能性が高い。
財務省は9/3、2026年度予算の概算要求額が前年度予算額から6.3%増加の122兆4454億円だったと発表。その中でも国土交通省は2026年度の概算要求で上下水道やトンネル、空港などの老朽化対策で前年度比3割増となる1兆783億円を計上している。
金融庁は8/29、2026年度の税制改正要望の内容を公表。少額投資非課税制度(NISA)に関連し、①つみたて枠を未成年にも拡大、②対象商品の拡充、③投資商品の入れ替え(スイッチング)をしやすくするために非課税投資枠を即時に復活、の三点が盛り込まれた。さらに、上場インフラファンドに関連し、再生可能エネルギー設備等のインフラへの民間投資を後押しする観点から、税制優遇に関する時限措置の期限や適用期間を延長し、適用要件を緩和することも含まれた。税制改正大綱の発表は12月中旬の予定だ。
ソニーグループ<6758>が株主に現物配当として金融事業を営むソニーフィナンシャルグループ(SFGI)<8729>を分配する「パーシャル・スピンオフ」の実施が今月末に迫ってきたことも注目される。「コングロマリット・ディスカウント」を解消する手段として他の企業にも採用が拡がれば、日本株の中長期的な底上げ要因になると見込まれる。
■上場インフラファンドは反発局面~業界を巡る環境が好転し、見通し良好
上場不動産投資信託(J-REIT)と同様の仕組みで太陽光発電などの発電設備やインフラ資産を投資対象とする「上場インフラファンド」は、2024年に大幅下落局面となった。その要因として日銀の追加利上げによる金利上昇懸念に加えて、使用済み太陽光パネルのリサイクル義務化報道を受けた収益悪化懸念、純利益を超える「利益超過分配金」の過度な分配による純資産減少懸念もあった。
2025年に入り、底打ちから反発局面に移行しつつある。その背景には、純利益に基づく分配方針への変更、および「固定価格買取制度」に依存せず「FIP(フィード・イン・プレミアム)」や「企業向け電力購入契約」の採用増加も挙げられる。リサイクル義務化についても浅尾環境大臣が8/29、制度案見直しを表明した。

参考銘柄
伊藤園<2593>
・1966年に静岡市で前身のフロンティア製茶を設立。茶葉製品を仕入れ、緑茶・麦茶等を販売する「リーフ・ドリンク関連事業」の他、タリーズコーヒージャパンの経営に関する「飲食関連事業」を展開。
・9/1発表の2026/4期1Q(5-7月)は、売上高が前年同期比4.7%増の1308億円、営業利益が同17.3%増の83億円。リーフ・ドリンク関連事業(売上比率90%)は5%増収、営業利益が20%増の72億円。飲食関連事業(同9%)は8%増収、営業利益が14%減の9億円。「お~いお茶」が堅調。
・通期会社計画は、売上高が前期比3.7%増の4900億円、営業利益が同11.0%増の255億円、年間配当が同4円増配の48円。近年の世界的な抹茶需要の拡大に対応するため「抹茶事業部」を立ち上げ、国内の調達・生産・加工体制を強化するとともに国内外への拡販に取り組む。タリーズコーヒーで目の前で抹茶を点てる「抹茶ラテ」が好評。日本でも若年層を中心に緑茶販売が伸びている。
電通総研<4812>
・1975年に電通と米ゼネラル・エレクトリックの合弁で設立。情報サービス事業として親会社の電通グループ<4324>向けにとどまらず金融機関や製造業向けにソリューションを中心にITサービスを提供。
・7/30発表の2025/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比8.1%増の802億円、営業利益が同2.9%増の141億円。利益内訳は金融(売上比率20%)が13%減の19億円、ビジネス(同16%)が8%増の29億円、製造(同39%)が1%減の41億円、コミュニケーション(同25%)が31%増の17億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比10.1%増の1680億円、営業利益が同9.3%増の230億円、年間配当が同8円増配の116円。8/28に電通グループが海外事業の売却を検討していると報じられた。実現すれば数十億ドル規模の資金調達につながる可能性があることから、調達資金で電通総研の非公開化を図るとの思惑が浮上。電通グループのデジタル化を推進する上で効果的な戦略だろう。
ソニーグループ<6758>
・1946年に東京通信工業として設立。ゲーム&ネットワークサービス(G&NS)、音楽、映画、エンタテイメント・テクノロジー&サービス(ET&S)、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)、金融、その他の事業から構成される。
・8/7発表の2026/3期1Q(4-6月)は売上高が前年同期比2.2%増の2兆6216億円、営業利益が同36.5%増の3399億円。利益内訳はG&NS(売上比率35%)が2.3倍の1479億円、音楽(同18%)が8%増の928億円、金融(同15%)が48%増の542億円、ET&S(同20%)が33%減の431億円、映画(同12%)が65%増の186億円。
・継続事業の通期会社計画は、営業利益を前期比4.2%増の1兆3300億円(従来計画1兆2800億円)へ上方修正。売上高は前期比2.8%減の11兆1700億円、株式分割を考慮後の年間配当は同5円増配の25円と従来計画を据え置いた。金融事業のSFGIのパーシャル・スピンオフは9/29が東証上場予定日、ソニーグループ株主への配当財産となるSFGI株式は1株当たり帳簿価額が77.61円。
エネクス・インフラ投資法人<9286>
・伊藤忠グループの中核エネルギー会社である伊藤忠エネクスを主なスポンサーとするインフラファンド。太陽光発電所のほか、風力発電所や水力発電所も優先的売買交渉権取得予定としている。
・7/15発表の2025/5期(12-5月)は、営業収益が前期(6-11月)比1.7%減の41億円、営業利益が同9.5%増の12億円、利益超過分配金含む1口当たり分配金が同995円減配の2000円。発電量実績は会社計画比3%減。天候要因がプラスだが、系統停電や出力制御、設備要因がマイナスとなった。
・2025/11期(6-11月)会社計画は、営業収益が前期(12-5月)比5.1%増の44億円、営業利益が同2.0%増の13億円、利益超過分配金含む1口当たり分配金が同横ばいの2000円。9/4終値で2026/5期まで含めた会社予想年分配金利回りが7.33%。不動産大手ヒューリック<3003>がカナディアン・ソーラー・インフラ投資法人<9284>に対し、投資口の20%相当額を取得する公開買付を実施した。
※執筆日 2025年9月5日
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