「高市トレード」の上げ潮相場~持続性には疑問符も【フィリップ証券】
日経平均株価は、「高市トレード」で活況を呈していた10/9に史上最高値4万8597円を付けた。「年内5万円」の声も出始めていたものの、それほど簡単ではないだろう。
国内環境は引き続き良好だ。10/10に公明党が連立政権からの離脱を発表したものの、与党自民党は10/16、日本維新の会と連立協議を開始した。維新との連立政権が形成されれば、同党が掲げる看板政策の「副首都構想」が息の長い相場の柱となる可能性が出てくる。当面は大阪近辺に地盤を有する電鉄株や建設・不動産関連株などへの恩恵が考えられるが、将来的に名古屋、福岡、仙台、札幌など地方の中核都市の周辺にも応用可能な制度的枠組みができれば、中央から地方に多くの権限と財源が移行する「道州制」への道筋が見えてくる。「地方創生」よりも日本経済の成長に貢献できるだろう。
自民党からすれば、公明党を連立パートナーとするよりも、憲法改正とそれに続く日米安保条約の改定(非対称な防衛義務から相互防衛義務へ)といった従来からの党是を実現しやすくなる魅力があるだろう。防衛関連銘柄への物色がよりパワーアップすることが考えられる。また、財政規律に比較的厳しく、議員定数削減を伴う歳出の削減に熱心な維新の政策は長期金利や超長期金利の低下要因と捉えられるため、債券市場にとっては好材料と受けとめられるだろう。
それでも、当面のリスクは米国株市場の動向だろう。米財政年度初めの10/1から米連邦政府機関の一部閉鎖が続き、解決の出口が見えていない。米中間の相互関税が猶予される期限である11/10が近づく中、米中摩擦が再燃している。特に中国が10/9に発表したレアアース(希土類)の輸出規制はインパクトが大きい。AI(人工知能)半導体の製造にはレアアースが不可欠である。まともに実施されれば「AI半導体相場」には大変厳しい逆風となるだろう。トランプ米大統領は中国からの輸入品に11/1より追加で100%の関税をかける考えを示したことに加え、半導体の製造に必要不可欠なソフトウェア製品に新たな輸出規制を導入する構えも示した。これがどこまで中国側の譲歩を引き出せるのかは不透明であり、楽観できるものではないだろう。
さらに、米中両国は10/14、相互の船舶に対し、港湾使用料の追加徴収を開始した。中国では10/20から10/23まで中国共産党の「4中全会」が開催される。2026~30年までの5ヵ年計画を審議する重要な会議であり、米国への対抗姿勢が示される可能性がある。その後は、10/31に始まるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせ、トランプ氏と習近平中国国家主席との対面会談が実現するかどうかが注目される。トランプ氏が交渉により中国によるレアアース輸出規制の取り下げを勝ち取れるかどうかが日本株の年末までの株価見通しにとって、大きな分岐点になると考えられる。
■ND倍率の上昇とNT倍率の動向~長期金利上昇基調ならNT倍率低下も
自民党総裁選後の10/6以降、ND倍率(日経平均株価÷ダウ工業株30種平均株価)が1.0倍を超えて推移。ND倍率とNT倍率(日経平均株価÷TOPIX)の関係を過去24年間で見ると、2012年8月~15年9月、20年3月~21年2月を除き、概ね逆相関の関係で推移。ND倍率の上昇基調が続く場合、NT倍率の低下が後に続く可能性があり、TOPIXが日経平均株価に対して優位に立つ可能性がある。景気回復期待に伴う国内長期金利の上昇が見られた03年~05年は、ND倍率上昇と同時にNT倍率低下が見られた。
足元のNT倍率は日経平均株価への寄与度が高い半導体関連銘柄の堅調な株価推移により短期的に上昇しているものの、長期金利上昇の下でTOPIX型優位へとシフトする余地があるだろう。

参考銘柄
パルグループホールディングス<2726>
・1973年にスコッチ洋服店のカジュアル部門が分離して独立。20代をターゲットとするアパレルブランドを中心に衣料事業と雑貨事業を展開。税込330円商品を主体とした雑貨販売の「3COINS」が成長。
・10/7発表の2026/2期1H(3-8月)は、売上高が前年同期比15.6%増の1170億円、営業利益が同19.4%増の140億円。セグメント別営業利益は、衣料事業(売上比率60%)が3%増の89億円、雑貨事業(同40%)が62%増の51億円。雑貨事業の営業利益率が3.4ポイント上昇の11.1%へ上昇。
・通期会社計画は、売上高が前期比11.2%増の2310億円、営業利益が同11.6%増の264億円、株式分割考慮後の年間配当が同横ばいの30円。3COINSの1H売上高は前年同期比14%増の418億円。7月に開店した3COINS香港1号店は開店から8月末までの売上高が全店舗中のトップとなった。8月にマレーシアでも地域1号店をオープン。足元の株価は円安の影響で下落基調も、業績は好調。
星野リゾート・リート投資法人<3287>
・2013年設立。ホテル・旅館および付帯施設に対する投資を行うホテル特化型のREIT。星野リゾートグループの「星のや」、「星野リゾート 界」、「星野リゾート リゾナーレ」の3ブランドに主に投資する。
・6/16発表の2025/4期(昨11-今4月)は、営業収益が前期(2024/10期)比1.8%増の76億円、営業利益が同1.4%減の34億円、投資口分割考慮後の1口当たり分配金(利益超過分配金含まず)が同6円増配の4615円。運用物件の一部で既存賃貸借契約の変更など保有資産の内部成長に注力した。
・2025/10期(5-10月)会社計画は、営業収益が前期(2025/4期)比13.7%増の86億円、営業利益が同24.9%増の42億円、1口当たり分配金が同1385円増配の6000円。10/16終値で会社予想年分配金利回りが4.66%、NAV(純資産)倍率が0.87倍。物件入替に伴う売却益計上や賃貸借契約変更による資産ポートフォリオの最適化、変動賃料の料率引き上げによる内部成長が業績拡大の原動力。
AGC<5201>
・1907年に旭硝子を創立。建築ガラス(アジア、欧米)、オートモーティブ(自動車用)、電子(ディスプレイ、電子部材)、化学品(エッシェンシャル、パフォーマンス)、ライフサイエンスの5事業を展開。
・8/1発表の2025/12期1H(1-6月)は、売上高が前年同期比1.9%減の9954億円、営業利益が同4.7%減の540億円。円高が主な減収要因。事業別営業利益は、電子が22%増の244億円、オートモーティブが42%増の151億円に対し、化学品が19%減の225億円、建築ガラスが69%減の32億円。
・通期会社計画を下方修正。売上高を前期比0.9%減の2兆500億円(従来計画2兆1500億円)、営業利益を同4.6%減の1200億円(同1500億円)とした。年間配当が同横ばいの210円と従来計画を据え置いた。同社は、9/19発売のiPhone17のカメラシステムに搭載されている赤外線カットフィルターを設計・製造。低迷するバイオ医薬品CDMO(開発・製造受託)は米拠点を中心に構造改革を検討中。
日本信号<6741>
・1928年設立の信号機器国内最大手。鉄道・道路信号に強い。交通運輸インフラ事業(鉄道信号とスマートモビリティ)、ICTソリューション事業(AFC:自動料金収受システム、スマート・シティ他)を営む。
・8/5発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比8.5%増の180億円、経常利益が同61.8%減の2.4億円。受注高は9.6%増の291億円。セグメント損益は、ICTソリューション事業(同49.6%)が13%減の6.78億円、交通運輸インフラ事業(売上比率50.4%)が▲0.21億円と赤字幅縮小だった。
・通期会社計画は、売上高が前期比1.1%増の1080億円、経常利益が同0.1%増の108億円、年間配当が同横ばいの43円とした。東急田園都市線で10/5に発生した列車同士の衝突・脱線事故を受け、国土交通省は10/14までに全国の鉄道事業者などに対し、信号システム設定にミスがないか緊急点検を指示。信号を制御する連動装置など信号システムの更新需要につながる可能性がある。
※執筆日 2025年10月17日
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