自維連立政権がもたらす構造変化への期待優位の相場【フィリップ証券】
10/20、自民党の高市総裁と日本維新の会の吉村代表が連立政権樹立に向けた合意書に署名。これにより、10/21の臨時国会で高市氏が初の女性首相に選出され、自維連立政権が発足した。高市内閣は維新の閣僚なしでスタートするが、維新は国会運営で協力し、首相補佐官に維新の議員を起用した。維新の目指す政策が政権運営にある程度反映されていく見通しだ。
高市首相が10/24に国会で臨む所信表明演説の原案によれば、第1に、社会保障の給付と負担のあり方を議論するため、超党派の議員と有識者を交えた「国民会議」を設けると表明するほか、給付付き税額控除の設計を含めた「税と社会保障の一体改革」を打ち出すとしている。給付付き税額控除は所得税額から一部を差し引く税額控除と、現金を渡す給付を組み合わせた制度であり、納税額の少ない低所得世帯にも恩恵がある。
第2に、経済対策については、「日本経済の強い成長の実現を目指す」とし、具体策を話し合う「日本成長戦略会議」を創設するとした。原案には、AI(人工知能)やロボットといった先端産業の強化を盛り込んだ。先端産業の振興が経済安全保障に直結することから、AI、半導体、造船、量子などの戦略分野で大胆な投資や国際展開支援に取り組むとしている。さらに、「責任ある積極財政」を掲げて「戦略的に財政出動する」とある。
第3に、防衛費については、2027年度に関連経費と合わせてGDP比2%に増額する目標を2025年度中に前倒しして達成すると打ち出すほか、国家安全保障戦略など安保関連三文書を2026年末までに改定することを目指すとしている。
日経平均株価は10/21に4万9945円まで上昇。日経平均先物(12月限)はその時に5万円に達した。10/22終値(4万9307円)における日経平均株価の予想PER(株価収益率)は18.94倍、PBR(株価純資産倍率)は1.68倍である。日経平均株価を米ダウ工業株30種平均株価で割った「ND倍率」は10/21終値で1.05倍となった。一見、割高に買われているようにみえるが、約26年にわたる自公連立政権で踏み込めなかった領域まで改革の手が及ぶのではないかとの期待が上回っている。さらに日本株は、景気サイクル上は日本経済が米国経済と比べて出遅れていた分、景気ピークまでの余力が十分にあるとみられて米国株からの資金シフト先として選好されている面も大きいだろう。
■自維連立政権が打ち出す国策~医療コスト削減と安全保障への踏み込み
日本維新の会が自民党に閣外協力する高市政権が発足した。社会保障分野の制度改革が脚光を浴びるのは2001-06年の小泉政権以来のことだ。「維新が提案する4つの社会保障改革」に見られるように、医療・年金制度の改革は国民や業界に負担を求める性質を含む。立法府が率先して身を切ることで有権者の理解を求める必要があるだろう。医療コストの削減に貢献できる技術やサービスを提供する企業の躍進が見込まれる。
安全保障の分野では「安保三文書」の前倒し改定や防衛装備品輸出の「5類型」の撤廃なども連立政権合意書の政策に含まれている。防衛関連企業の業績への追い風が見込まれる。10/28の日米首脳会談では、日本の防衛費増額が論点となる可能性が高い。

参考銘柄
シップヘルスケアホールディングス<3360>
・1992年設立。医療・保健・福祉・介護の分野で、一括請負の総合サービスを行うトータルパックプロデュース(TPP)事業のほか、メディカルサプライ(MS)事業、ライフケア事業、調剤薬局事業を展開。
・8/8発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比5.2%増の1633億円、営業利益が同15.8%減の29億円。事業別営業利益は、MS(売上比率75%)が22%増の11億円、TPP(同14%)が58%減の4億円、ライフケア(同6%)が33%減の4億円、調剤薬局(同5%)が17%増の9億円。
・通期会社計画は、売上高が前期比3.2%増の7000億円、営業利益が同4.9%増の260億円、年間配当は同2円増の60円。自民党と日本維新の会の連立政権では社会保障改革に焦点が当たり、医療コスト削減に向けた様々な見直しが進むことが想定される。同社は医療業界のサプライチェーンを網羅していることから総合的なソリューションを提供できる立場にあることが強みになると見込まれる。
大同特殊鋼<5471>
・1916年に前身の電気製鋼所を設立。特殊鋼鋼材、機能材料・磁性材料、自動車・産業機械部品、エンジニアリング、流通サービスの5事業を展開。自動車向け中心から、造船・航空機向けを拡大。
・7/28発表の2026/3期1Q(4-6月期)は、売上収益が前年同期比0.2%増の1423億円、営業利益が同14.0%減の86億円。主な事業別営業利益は、特殊鋼鋼材(売上比率36%)が22%減の26億円、機能材料・磁性材料(同34%)が3%増の30億円、自動車・産業機械部品が48%減の14億円だった。
・通期会社計画は合理的な業績予想が困難であるとして非開示。同社の顧問である佐川眞人氏は世界初のネオジム磁石の発明者であり、同社は佐川氏を中心に重希土類元素を全く使用しない「重希土類完全フリー」磁石の開発に注力。中国がレアアースの輸出規制を強化する中、今年の4月以降、自動車部品を中心に重希土類完全フリー製品に対する注文や引き合いが増加している。
ホシデン<6804>
・1947年に大阪市東成区に古橋製作所を創業。電子部品の開発・販売を主な事業とし、機構部品(コネクタ他)、音響部品(マイクロホン他)、表示部品(タッチパネル)、その他複合部品から構成。
・8/8発表の2026/3期1Q(4-6月)は、売上高が前年同期比101.0%増の1163億円、営業利益が同45.5%減の23億円。機構部品事業(売上比率93%)は、任天堂<7974>のSwitch2向けなどアミューズメント向けが大幅増も、プロダクトミックスによる収益率悪化と円高が響きセグメント利益が60%減の13億円。
・通期会社計画を上方修正。売上高を前期比72.9%増の4280億円(従来計画4060億円)、営業利益を同14.2%減の155億円(同130億円)とした。年間配当は同9円減配の50円も、配当性向30%を目途とする配当方針からは増配余地が見込まれる。米Bloombergによれば、任天堂はSwitch2について年度末までに、会社予想販売量1500万台を上回る最大2500万台規模を生産する計画である。
燦ホールディングス<9628>
・1932年に葬儀の請負と霊柩運送事業を主目的に公益社を創業。2004年に持株会社へ移行後、2005年に葬仙(鳥取県・島根県周辺)を、2006年にタルイ(兵庫県明石市周辺)を完全子会社化。
・8/14発表の2026/8期1Q(4-6月)は、営業収益が前年同期比65.9%増の91億円、営業利益が同6.7%増の9億円。2024年9月に「きずなホールディングス」を連結子会社化したことを受けて、全体の葬儀施行件数が97%増に拡大。葬儀施行単価8%低下、販管費94%増加を吸収して営業増益。
・2026/8通期会社計画は、売上高が593億円、営業利益が64.7億円、年間配当が前期比20円増配の57円。決算期変更に伴い、2025/4-2026/8の17ヵ月決算となる。同社は10/23、株式交換により、福島県地盤の冠婚葬祭事業者である「こころネット<6060>」を来年2/1付で完全子会社化すると発表。出店地域の相互補完や周辺事業のシナジー創出が狙い。6月末で16都道府県、276会館を展開。
※執筆日 2025年10月24日
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