リアリティ・チェックの「逆ご祝儀」、ビットコイン、原発再稼働【フィリップ証券】
筆者は11月第1週、10月の日本株相場の上昇について「海外投資家による『ご祝儀相場』ということもできるだろう。」としつつ、「国会での本格的な論戦などを経て政策の実現可能性を見定めてから『リアリティ・チェック』を行えばいい、今はまだその時ではない、ということだろう。」と書いた。
実際に、高市首相が11/7の衆院予算委員会で、立憲民主党の岡田元外相からの台湾有事に関する質問に対し、「存立危機事態」に当たる可能性があるとの答弁を行ったことが波紋を呼び、中国政府が日本への渡航自粛を呼びかけたほか、出荷が再開していた日本産水産物の輸入を事実上停止した。答弁の撤回を求める中国は今後、より強硬な「経済カード」を切ってくる懸念がある。リアリティ・チェックが機能し過ぎてしまったように思われる。今後日本株への売りが加速した場合、「ご祝儀相場」の起点とも言える自民党総裁選明けの10/6の寄り付き(4万6636円)近辺が意識されやすくなるだろう。
日経平均株価への寄与度が高いAI(人工知能)半導体関連銘柄は、引き続き米国主要ハイテク株の影響を受ける状況が続きそうだ。電力不足によって高性能のAIインフラのリソースを効率的に稼働できなくなるのではないかということが「過剰投資問題」の背景にあると考えられる。見方を変えれば、データセンターの電力消費問題の解決に向けて最先端エネルギーの開発や、電子信号を光信号に置き換えることでエネルギー消費を抑える「光電融合」および「光半導体」の技術に取り組む企業への注目度が一段と高まるだろう。
米国ハイテク株の比重が高い米ナスダック総合指数やS&P500株価指数は、コンピューター関連テクノロジーという共通基盤を持ち、暗号資産のビットコイン相場と相関性が高い。ビットコイン価格変動には、約4年ごとの「半減期」に伴う周期性があり、米国株にも大きな影響を与えている。この点の重要性はもっと認識されるべきだろう。
東京電力ホールディングス<9501>の柏崎刈羽原発6号機の再稼働を巡り、新潟県の花角知事が容認する意向であることが報道された。原発の停止は主に火力発電用燃料の輸入増につながり、貿易赤字の主な要因となっている。柏崎刈羽原発が国内最大級とはいえ再稼働による貿易収支改善へのインパクトは小さいとみられるが、データセンターの誘致などでメリットを受ける地方自治体が増えると見込まれる。運営主体の電力会社、電気設備工事の関電工<1942>、原子炉メーカーである三菱重工業<7011>のほか、原発向けバルブ・アクチュエータの日本ギア工業<6356>、メカニカルシール・蒸気隔離弁を供給するイーグル工業<6486>、沸騰水型原子炉向けバルブの岡野バルブ製造<6492>、柏崎刈羽原子力企業協議会の参加企業でもある鹿島建設<1812>なども恩恵が見込まれる。
■住宅投資落ち込みと財政緊縮化~歳出拡大または減税(税収還付)が必要不可欠
内閣府が11/17に発表した2025年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値(実質ベース)は前期比0.4%減、年率換算で1.8%減だった。米トランプ関税、およびサービス輸出に分類される訪日外国人のインバウンド消費減少もあり、輸出が1.2%減となった。住宅投資も、今年4月の建築基準法改正によって省エネルギー基準が厳しくなったことに伴い、3月に生じた駆け込み需要の反動減が出た。
2020~25年度までの政府一般会計の収支を見ると、歳出が減少傾向の一方、物価上昇の恩恵を受けて税収が増加傾向にあり、その差額である財政赤字は減少傾向だ。財政規律の観点からは望ましいが、歳出減少と消費者への「インフレ税」増加による財政緊縮の加速は、経済成長へ二重のブレーキをかけている。

参考銘柄
日本スキー場開発<6040>
・2005年に日本駐車場開発<2353>により設立。スキー場事業を展開。特徴あるスキー場を取得し、地元関係者と一体となって冬以外の「グリーンシーズン」も含めてスキー場活性化・再生に取り組む。
・9/12発表の2025/7通期は、売上高が前期比26.9%増の104億円、営業利益が同44.7%増の22億円。来場者数はグリーンシーズン(昨年8月~11月中旬と今年4月下旬~7月)が52万人と連続で過去最高を更新。ウインターシーズン(昨年11月下旬~今年4月)は前年同期比11%増の182万8000人。
・2026/7通期会社計画は、売上高が前期比9.7%増の114億円、営業利益が同2.4%増の23億円、年間配当が同1.5円増配の5.0円。気象庁の予報によれば今冬の前半は弱いラニーニャ現象を背景に冬らしい寒さが続く見通し。JR東日本<9020>は冬の臨時列車の運行本数を前期比3%増とし、ウインタースポーツ人気のため、白馬駅(長野県白馬村)に向かう臨時の特急列車を冬季で初めて走らせる。
日本ギア工業<6356>
・1938年に晴山自動車工業として設立後、歯車製造から歯車装置の分野に進出。バルブ・アクチュエータ、ジャッキ、その他増減速機等に関連し、「歯車および歯車装置事業」、「工事事業」を展開。
・10/31発表の2026/3期1H(4‐9月)は、売上高が前年同期比0.7%減の42億円、営業利益が同11.1%減の7.9億円。受注残高が39.5%増の64億円。受注高は、歯車および歯車装置産業では火力発電所や原発向け、および工事事業では火力発電所や上下水道向けを中心に拡大した。
・通期会社計画は、売上高が前期比2.7%減の93億円、営業利益が同2.2%減の20.6億円、年間配当が同横ばいの8円。同社は原発向けバルブ・アクチュエータで国内シェア9割超を占め、競合他社を大きく凌駕する強みを持つ。東京電力柏崎刈羽原発6号機が再稼働した場合、保守需要で受注高および受注残の増加が見込まれる。火力発電所や原発以外の多様な産業分野への展開も有望。
JVCケンウッド<6632>
・2008年にビクターとケンウッドが株式移転により共同持株会社設立。「モビリティ&テレマーケティングサービス」、「セーフティ&セキュリティ」、「エンターテイメント・ソリューション」の3分野関連を営む。
・10/31発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上収益が前年同期比4.1%減の1693億円、事業利益(売上収益から売上原価・販管費を控除)が同36.1%減の83億円。主にセーフティ&セキュリティ分野の無線システム事業が中国に起因する半導体部品供給不足により生産・販売減となったことが響いた。
・通期会社計画を上方修正。売上収益を前期比2.8%減の3600億円(従来計画3580億円)、事業利益を同17.0%減の210億円(同200億円)とした。年間配当は同3円増配の18円と従来計画を据え置いた。米トランプ関税の影響の軽減や半導体部品供給不足の解消が見込まれる。クマによる被害が急増の中、AI(人工知能)カメラでクマを監視し、先手必勝で罠を配置・捕獲する管理が必要だろう。
NOK<7240>
・1951年に東京オイルシール工業と日本油止工業が合併し、日本オイルシール工業を設立。主に、オイルシール等を扱う「シール事業」およびフレクシブルサーキット等を扱う「電子部品事業」を展開。
・11/10発表の2026/3期1H(4-9月)は、売上高が前年同期比8.7%減の3593億円、営業利益が同17.7%減の157億円。主な事業別の営業利益は、シール事業(売上比率50%)が15%増の128億円、電子部品事業(同45%)が自動車向けやスマートフォン向けの減少が響いて67%減の21億円。
・通期会社計画は、売上高を前期比5.2%減の7269億円(従来計画7071億円)へ上方修正の一方、営業利益を同11.7%減の329億円(同379億円)へ下方修正。年間配当は同25円増配の130円(同110円)へ増額修正とした。同社は持分法適用会社であるイーグル工業<6486>との経営統合を発表。統合時期は来年10/1予定。イーグル工業はシール製品の中でメカニカルシールに強み。
※執筆日 2025年11月21日
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