AIで守りを固めて儲ける3つの技
すご腕投資家に聞く 『銘柄選び』の技
AI活用で勝ちを呼ぶ7人の技・総集編-最終回
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記事の後半では、攻めと守り以外で活用法が違った2つの点について触れている。
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「AIを使って見落とし防止」、工夫は三者三様
デスクM(以下M): まずは守りの活用とはどのようなものか、全体像をまとめてみよう。
記者T(以下T): 前回の記事で触れなかった3人のケースが、該当します。
下の表は、それぞれの具体的な活用シーンやAIに指示した内容、そして成功した取引銘柄を並べています。
■守りの活用における投資家ごとの活用シーン、AIに指示した内容、成功した銘柄名
| No. | ハンドルネーム、活用シーン | AIに指示した内容 | 銘柄名 <コード> | |
| 1 | ![]() | 趙さん 「独自に見出したアノマリーを検証したい」 | 最近の事例に基づく仮説検証 | 丸井G <8252> |
| 2 | ![]() | かずさん 「株主還元強化の実現性を見極めたい」 | 還元を強化できる収益構造にあるのか | エイチーム <3662> |
| 3 | ![]() | ゆうさん 「自分のシナリオを辛口で評価してほしい」 | 事業・株価の成長シナリオを厳し目に判定 | POPER <5134> |
守りの活用1 「独自に見出したアノマリーを検証したい」
M: 最初の成功例は、株式売り出し(PO)イベントを狙う趙さんのケースになる(参考記事)。
T: 本人はPOにまつわるいくつかのアノマリー(経験則)を嗅ぎ取っていて、それがこれから投資する銘柄に当てはまりそうなのかをAIで検証していました。
M: POに当選すると、現値より安く株が手に入る。その点は有利になるが、受け渡されるのは公開から一定期間後だ。その間の市場の動き次第で、売り出し価格(取得株価)より株価が下がってしまうこともある。
■売り出しの発表から価格決定、そして受け渡し期日の流れ

T: 趙さんは、PO発表後の株価の動きについて、これまでの取引経験を基にいくつかの仮説を築いています。これから行われるPOイベントでは、自身の持つ仮説に当てはまりそうなのかの検証でAIを使いました。
M: 記事で成功例として取り上げたのが、百貨店やクレジットカードを展開する丸井グループ<8252>だよね。
T: 2025年7月7日の売り出し発表を受けて応募し、株を割り当てられたあと、「中期的には上昇する」という読みが的中し、8月4日に手仕舞い。買値に比べて+8%で売却しています。
M: 記事で紹介した趙さんの取り組みは、自分の経験則に基づいた仮説を立てていることが前提になっている。これは、AIを「活用する」「しない」以前にある、投資で勝ちを呼び込むための基本的な所作といえる。
AIの使い方をイメージできない人は、まず効率的に成果を上げるための基本的な所作を整理することから始めて見る。
投資に必要な基本所作や思考プロセスを整理したら、その中のどこでAIの助けを借りるとより効果的かつ効率性が向上するのか吟味すると、自分なりの活用シーンが思い浮かぶのではないかな。
イラスト:福島由恵投資歴18年の専業投資家。中小型グロース株に長期・集中投資を行い、累積で1000万円の元本から3億5000万円のトータルリターンを生み出す。投資は、2007年、大学時代に開始。その後修士課程を経て就職するも、会社員生活が合わず入社1年で専業投資家に転身した。当初はバリュー分散投資を実践していたが、「より早く大きく増やしたい」と、17年に現在のスタイルにシフトした。現在、「ある夢」を叶えるため、投資で資産100億円を目指している。
守りの活用2 「株主還元強化の実現性を見極めたい」
M: 次の成功例が「株主還元強化の実現性を見極めたい」場合だ。事例は、中小型の割安成長株を狙うかずさん(参考記事)。IR資料の不明点を放置せず、納得いくまで掘り下げるスタイルが特徴的だよね。
T: 取り上げたのは、比較・情報サイトの運営やスマホゲームの開発などを手掛けるエイチームホールディングス<3662>です。かずさんが注目した当時の同社は、東証プライム市場で上場を維持できるかの経過措置対象の銘柄でした。この時、同社は上場維持基準を満たすための対策として、2024年に株主還元強化を打ち出したタイミングでした。
「還元強化は多くの投資家から注目を集めやすく、株価にはプラスに働く」。そう本人は考えたのですが、アナウンスだけを材料に取引に動くのは「雰囲気買い」に等しくリスクがあります。
そこでAIを使って、同社には還元を強化できるか余力があるのか、あるとしたらどの程度なのかを見極めようとしました。
M: もともとエイチームは業績の安定感に欠けていた会社なので、そこがネックになっていた。改善が見られない中で還元強化のアナウンスがあっても、投資家の関心を引かない可能性があるからね。
T: そこでAIに検証させたのが、エイチームが還元強化を続けられるだけの収益構造を持っているのか。また、今後も持ち得るのかという点でした。
M: かずさんは、もともと大手証券会社の営業マンとして海外の機関投資家の投資姿勢を間近で見てきた人だ。当時、業績予測の達成可能性やリスク要因などを徹底して理解しようとする彼らの姿に、感心させられた経験を持つ。
そうした影響もあって、エイチームへの投資では、同社が示した経営計画の蓋然性が高いのかを、さまざまな観点から見極める姿勢があった。
配当狙いや増配イベント投資をする人で、AIをまだ利用していない場合、活用法の1つとして高水準の配当を持続するファンダメンタルズの有無を探ることから始めるのも手だね。
イラスト:福島由恵普段は投資顧問会社の経営に携わる一方、プライベートでは自身でも投資を行っている。投資を本格的に始めたのは2021年で、新卒から勤めていた大手証券会社から投資顧問会社へ移ったことで売買の制限が緩和されたためだ。ファンダメンタルズ分析を重視した中長期投資を行い、これまで投じた1000万円の元本で5000万円のトータルリターンを獲得している。この他、投資用ワンルームマンションや1棟アパートを保有しており、金融資産の総額は億単位になる。
守りの活用3 「自分のシナリオを辛口で評価してほしい」
T: 最後は「自分のシナリオを辛口で評価してほしいとき」ですね。事例は、中小型グロース株への集中投資を好むゆうさん(参考記事)になります。
ゆうさんは、油断するとつい調子に乗ってしまう性格だと自覚しており、自分を戒めるメンター役としてAIを使っています。
過去には「SNSで話題だから」という理由で、ある銘柄に飛びつき、直後にストップ安を食らった苦い経験もあります。
M: だからこそAIには、ポジティブではなくネガティブな意見を求めるんだよね。
気になる銘柄について成長シナリオを自分で組み立てたうえで、あえてAIに「弱点」や「リスク要因」を挙げさせ、「それでも投資するのか」と自分に問い直す。
T: うまくいった例が、学習塾向けに業務管理プラットフォームを提供するPOPER<5134>でした。23年10月に投資開始後に思惑通りに株価は上昇し、POPERの運用額のうち約3分の1が含み益になりました。
少子化が進む中でも、業績が成長して株価も上昇していくシナリオを自分なりに組み立て、問題がないかをAIにチェックさせました。ゆうさんも、最初の趙さんと同様、自分の仮説を立てていることが、AI活用の前提となっています。
M: AIに求めたのは、その仮説の共感ではなかった。米オープンAIが今年「GPT-5」をリリースした直後、「共感の言葉がかけられなくなった」ことを嘆く利用者の存在が話題になった。
日本ではChatGPTが「チャッピー」の愛称で呼ばれているのも、共感してくれる話し相手として使われている面があるからだろう。ゆうさんの場合は、AIに共感を期待していない。
T: ゆうさんは20歳代です。昨今はコンプライアンス(法令順守)の観点で、ホワイトなコミュニケーションが求められる中では、職場などリアルの場面では叱咤される機会が昔と比べて減っている可能性もあります。AIは、そのギャップを埋めてくれる存在としても使えるのかもしれません。
M: だんだん叱ってくれる人が少なくなる中高年が、AIを鬼コーチ役に使うのも手だね。
イラスト:福島由恵兼業投資家。2019年に資産形成の一環として個別株を開始。これまで500万円近い元本を投下し、現時点で運用資産は1100万円に膨らんでいる。足元の投資スタイルはグロース株を中心とした長期投資。業績期待の大きい銘柄をガチホ(保有継続)して、じっくりと値上がりを待つのが基本だ。当初はスイングトレード取引が主体だったが、仕事中に異常事態が発生して慌てることになった経験を受け、現在の長期スタイルに22年からシフトしている。
定量と定性、どちらの分析を重視するかは考え方次第
M: ここまで攻めと守りという軸で活用法を切り分けてきた。しかし、これ以外にも対照的な使い方がいくつかあった。その1つが、AIで収集するのは定量情報か定性情報かだ。
T: 定量情報を重視する代表例は、surf777さんとTomozoさんになります。AIに業績予測や企業価値評価をさせて、投資判断の材料を増やしています。複雑で時間のかかる計算を瞬時にこなすのはAIの得意分野なので、「ここはAIに任せない手はない」という発想です。
一方で、定性情報を最重視しているのが、前回の記事で紹介したハイテクさんです。「誰でも入手できる業績や財務などの定量情報をいくら分析しても、他の投資家と大きく差をつけるのは難しい」という考え方で、ビジネスモデルや競争環境、リスク情報の分析に力を入れています。
M: 今の自分のスタイルに「何を足せば、より銘柄選びの精度が上がるのか」を考えることは、投資の腕を上げるのに欠かせない取り組みだ。7人衆にとっては、AIの活用はスキルアップのための手段であって、AIを使うことが目的でないことを押さえておく必要があるね。
アナリスト並みの高度な分析をするなら「有料版」を利用
M: 7人の取り組みでは、有料版のサービスを使う人と、無料版で十分という人がいた。
T: 7人の大半は有料版のユーザーでした。「詳細な企業分析リポートを出力したい」「利用制限なくAIを使いたい」といった理由が中心でした。
M: 一方で、無料版で十分と考えているのがRENEさん。証券アナリスト並みの高度な分析を必要としなければ、無料版でもかなり良いリサーチができる、というスタンスだった。
T: RENEさんは「無料版が有料版に比べて劣る」という前提で、その不利をカバーする使い方をしていたのが印象的でした。
M: RENEさんは、4つのサービスを使い分けていた。そこには、世界130カ国に旅してきた経験を生かしているように思えた。
世界にはさまざまな見方があり、ある国・地域では「OK」ということが、別の国・地域では「NO」となることもある。LLM(大規模言語モデル)を使うことでは共通していても、その種類によって回答内容に差異が生まれる。その差を認識しながら、自分にとっての最適解を探していた。
T: 旅行でも、同じ目的地を目指すにも様々なアプローチの仕方があります。RENEさんは、いくつもある選択肢から、最適なルートや旅の目的を考えるのが好きなようでした。
AIを使いこなすことは、投資に対する向き合い方を明確にすること
M: 7人のAIの活用法を紹介するのが記事の目的だったが、7本の記事を通して改めてわかったのが、それぞれに銘柄選びでの思考プロセスがあり、その中にAIの活用を組み込んでいたことだった。
T: 記事で紹介した7人は、そもそもAIがなくても成果を出すことに成功しています。
その銘柄に注目する理由、期待できること、選別の際には何を注視しなくてはいけないかなどを、自分の中で整理できています。AIを活用しているのは、勝ちを導くための思考プロセスがあるからで、そのプロセスの中にAIというツールをはめ込んでいる点で共通しています。
M: AIの使い方をまだイメージできないという人は、AIをどう使うかを考える前に、自分にとって勝ちを導くための思考プロセスとはどのようなものかを整理すると、活用のアイデアが閃く(ひらめく)可能性があるね。
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株探ニュース