底割れ「NY666ドル安・日経600円安」で見えた日米株式市場が“向かう先” <株探トップ特集>

特集
2018年2月5日 19時30分

―終焉のゴルディロックス相場、絶好調ソニー・ホンダ上昇が意味するものは―

週明け5日の東京株式市場は米国を震源地とするリスクオフの大波に飲み込まれる形で日経平均株価は一時600円を超える下落に見舞われ、フシ目の2万3000円大台を大きく割り込んだ。大引けは前週末比592円45銭安の2万2682円08銭で着地。年明けに741円高と目の覚めるような“ロケットスタート”を演じた時は先高期待に満ち溢れていた東京市場だが、ここにきてにわかに暗雲が垂れ込めている。既に日経平均は昨年末の水準を下回った。テクニカル的にも75日移動平均線を下に抜けつつあり、今回の調整が一筋縄ではいかない雰囲気を漂わせている。果たして暴落相場の引き金を引いたのは何か。立春を過ぎ暦の上では春の息吹を感じるこの時期に、東京市場は思いもよらぬ強烈な北風に晒される羽目となった。

●米長期金利上昇に振り回される株式市場

前週末の米国株市場ではNYダウ平均が665ドル75セント安の2万5520ドル96セントと、リーマン・ショック直後の2008年12月1日以来の下げ幅となり、ナスダック総合指数も144ポイント安と急落した。発表された1月の米雇用統計が前月比20万人増と事前のコンセンサスを上回っただけでなく、物価動向の先行指標となる平均時給も前年同月と比べ2.9%も上昇、これは09年6月以来8年半ぶりの上昇率で、FRBによる利上げペースが早まるのではないかとの思惑がマーケットに衝撃を与えた。

雇用統計が強い数値となれば好調経済の証明として、時に上昇相場の原動力ともなり得るが、米長期金利の動向に神経質となっていた今の株式市場にとっては、紛れもないネガティブ材料だ。米10年債利回りが2.8%台半ばまで急上昇したことがリスク回避ムードに拍車をかけ、記録的な下げにつながった。そして、週明けの東京市場もこの影響を回避することはできなかった。

●金利と為替動向が映し出していたマネーフローの歪み

1月下旬以降の東京市場は、最近の外国為替市場でのドル安・円高の進行が、これまでの上昇相場の確固たる礎だった好調な企業業績への期待感に水をさす格好となっていた。一方、本来ならばドル買い要因となるはずの米長期金利の上昇だが、為替動向には影響を与えない形で米株安だけを誘発する要因として投資家心理の重荷となっていた。既にこの歪んだ相場形成がマネーフローの変調を示唆していたともいえる。これらを伏線に今回の雪崩を打ったような下げ相場に見舞われたことは、米国を中軸とする“ゴルディロックス相場(適温相場)”の構造に亀裂が生じた可能性を否定し得ないものだ。

では、ストラテジストやアナリストなど第一線で活躍する市場関係者は足もとの株価急落をどうみているのか。

●ヘッジファンドの売り仕掛けも早晩見直し機運に

総じて強気の見方を示す関係者が多いなか、東洋証券ストラテジストの大塚竜太氏はその代表格と言ってもよい。大塚氏は「(きょうの急落は)マクロ系ヘッジファンドの売り仕掛けによるもので、一過性の下げといってよい。上場企業のEPSは過去最高レベルで225種換算のPERは15倍割れの水準にある。このまま下降トレンドをたどることは、業績相場の否定であり、それは考えにくい。中期上昇相場の小休止に過ぎず、ここは積極的に買い向かう一手」と歯切れがよい。

内藤証券投資情報本部・投資調査部長の田部井美彦氏も強気であり、「米国株市場では長期金利の上昇が売り要因となっているが、これは景況回復の初期段階で現れる現象だ。中長期的には好調な景気拡大を背景に上昇相場に復帰することになる。2万3000円を割り込んだ現在の水準は買い好機となりそうだ。特に電機や化学、機械、サービスなどは要注目」と、企業業績や経済のファンダメンタルズをベースに早晩見直し機運が台頭するとの見解を示す。

●トレンド転換には5000ドル以上の下げ必要

また、NYダウがリーマン・ショック以来の下げ幅と伝えられるが、想定された範囲内で慌てる必要なしと説くのはSMBC日興証券・投資情報部部長の太田千尋氏だ。「米国株は当然のスピード調整。米長期金利上昇局面に際して、ここまで行き過ぎに買われた分のツケを払っているに過ぎない。(NYダウの666ドル安がセンセーショナルに報じられたが)あの時とは水準が違う。今回の下落率はわずか2.5%強にとどまる。上昇相場から下降トレンドへの転換がいわれるのは、通常は高値から20%前後の調整が入ったケース。これを当てはめるのであれば、最高値2万6616ドルを基点に5300ドル以上の下げが必要となる。そういう段階ではない」と指摘。

そのうえで「上昇トレンド復帰にはやや時間がかかる可能性はあるが、2月中には日米ともに底を入れるであろう」(同)としている。

●強気が大勢を占めるうちは底が入らず?

一方、今回の米国発の世界株安に警鐘を鳴らす向きもいる。「今はまだ下落相場の初動で、強気な見方がマジョリティであるうちは底が入らないだろう」とするのは株式評論家の植木靖男氏だ。「米国株の下げはNYダウ666ドル安でアク抜けするほど簡単なものではない。米長期金利上昇により、これまでの適温相場のシナリオが崩れた以上、仮にいったん戻っても売り直され、ここからさらに下落圧力は強まる可能性がある。もちろん企業業績の好調や世界景気の拡大が急に向きを変えるわけではないが、米国株はあと1000ドルくらい下げるとみている」という意見である。

そして、「ここからNYダウが1000ドル程度の下げに見舞われた場合はその後戻りに転じるとしても、最高値圏に再浮上することは困難を要する」(同)とし、1月26日の2万6616ドルが今年の天井となる可能性があり得ると指摘している。

●シビアな意見は日経平均2万円割れも視野

2~3月にかけて、さらにシビアな見解を示すのはブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏だ。「中期波動で日米株価ともに下落基調に転換したとみている。よく“節分天井、彼岸底”といわれるが、今は下げの入り口でその格言を地で行く展開になるのではないか。今の米国株と米国債の動きはこれまで過剰に買われ過ぎた部分の反動、いわゆる正常化の動きといってよく、その場合、米国株はPERから判断して依然として高過ぎる。NYダウは2万4000ドルを割り込む公算が大きい」とする。

では日経平均についてはどうか。馬渕氏は「日経平均は2万円大台割れまで見ておく必要があるだろう。したがって買い場はまだ先。ただし、下げの勢いは強く売り物が切れるまでの時間はそれほど長く要することはない。春以降には日米ともに浮上に転じる。日経平均は年後半に2万4000円台に復帰するとみている」(同)という見方を示している。

●大商いで売りを吸収したソニーが意味するもの

5日は東証1部市場で上場企業の93%の銘柄が下落する文字通りの全面安商状に見舞われたが、それでも“暴落時の赤札銘柄”として注目すべき頑強な値動きを見せる銘柄も散見された。この日の東証1部2060銘柄あまりのなかで、最も売買代金をこなしたのがソニー <6758> 。そのソニーはリスク許容度の低下した大口投資家の売りを浴びながらも、完全に吸収して終始プラス圏で推移、一時186円高に買われる場面もあった。これは、同社が前週末引け後に今18年3月期業績予想の上方修正を発表したことが手掛かりとなっている。金融分野や音楽分野などが牽引して本業のもうけを示す営業利益は6300億円から7200億円に大幅増額、前期比2.5倍という変化率だ。

ソニーが大商いで売りをこなし切ったことは光明といってよい。主力株は総投げ状態の地合いにあっても業績を評価する買いは確実に入っていることを証明するものだからだ。これは今期最終利益を1兆円に大幅増額したホンダ <7267> などにも共通してみられる動きで、決して好業績を無視する流れとはなっていない。仮に低金利環境下の企業業績拡大というゴルディロックス相場が終焉を迎えても、それは上昇相場の終焉ではない。現在の高値波乱の地合いが一巡した後に何が見えてくるのか。投資家は金融相場から業績相場へと移行するプロセスを確かめる良いチャンスとなるかもしれない。

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