冷凍食品株に“熱視線”、社会ニーズ追い風「過去最高」を更新中 <株探トップ特集>

特集
2018年5月14日 19時30分

―続く市場拡大、豊富な切り口で高まる評価―

冷凍食品業界の好調が続いている。多様化するニーズに応え需要は拡大、いまや日本の食生活に欠かすことのできない存在へと変貌しており評価は高まるばかりだ。関連銘柄の株価は上昇基調を強めるものも少なくないなか、改めて冷凍食品関連株にスポットライトを当て、現状とその魅力を探った。

●過去最高だった前年をさらに上回る

4月18日に日本冷凍食品協会が発表した「平成29年(1-12月)冷凍食品の生産・消費について(速報)」によると、2017年の冷凍食品国内生産は、数量が前年比3%増の160万968トンとなり過去最高だった前年をさらに上回ったという。金額(工場出荷額)も同4.5%増の7180億円と02年以来となる7000億円台乗せとなり、冷凍食品業界の好調が改めて浮き彫りとなった。

同協会では、冷凍食品の市場の拡大について「消費者ニーズと社会ニーズに各メーカーが敏感に対応してきた結果といえる。いまさらだが、働く女性が増加する一方で“時短”が求められ、冷凍食品がそのニーズに応える商品として購入されている。単身世帯が増加していることも需要拡大の背景にある。また、食品ロスが問題になるなか、必要な分を必要な時に使用できる冷凍食品は無駄がないことも評価を高めている。こうした社会情勢の変化に応える姿勢が現在の好調につながっており、それは各メーカーの企業努力のたまものといえる」(広報)と話す。

●ドラッグストア、コンビニなど販路拡大

また同協会は4月12日に、「平成30年“冷凍食品の利用状況”実態調査」(調査期間3月3~4日)を発表しており、そこからは冷凍食品需要拡大の背景と消費者ニーズの変化が読み取れる。それによると、過去3年間の利用頻度は、「増えた」が女性で14.1%から25.8%、男性で14.2から23.0%と着実に増加している。

購入場所については圧倒的にスーパーマーケット が多いものの、ドラッグストア やコンビニも増加傾向にあり、販路の多様化も需要の拡大にとって追い風になっているようだ。年齢別では、若い人ほど「ドラッグストア」での購入が高い傾向だという。

需要拡大を続ける冷凍食品業界だが、このセクターはさまざまな材料を内包している。冷凍食品を主力とするメーカーはもちろん、水産、食肉、調味料、飲食など多くの分野で活躍する企業がしのぎを削る。拡大する巨大マーケットも魅力だが、切り口の多彩さも冷凍食品に絡む個別株に物色の矛先を向けさせる理由でもある。

●ニチレイは3000円台回復をにらむ

冷凍食品でトップを走るニチレイ <2871> は、8日取引終了後に18年3月期連結決算を発表。売上高が前の期比5.3%増の5680億3200万円、営業利益は同2.0%増となる298億9700万円と増収増益だったが、従来予想の営業利益を下回ったことから、株価は翌9日にはこれを嫌気した格好で大きく売られ2800円前半まで急落。その後は買い戻しも入り3000円台回復をにらむ展開だ。

調理冷凍食品の販売が好調に推移した加工食品事業、物流ネットワークや地域保管が貢献した低温物流事業がそれぞれ伸長したことで増収増益につながったが、原材料・仕入れコストの上昇などで加工食品が計画をやや下回ったほか、水産 、畜産事業の苦戦もあり、従来予想の下振れを余儀なくされた。なお、19年3月期業績予想は、営業利益が前期比3.7%増の310億円、純利益は同3.7%増の198億円を見込み、年間配当は前期比2円増の32円を予定している

●年初来高値圏を舞うマルハニチロ

水産大手で冷凍食品でも存在感が高いマルハニチロ <1333> の株価は年初来高値圏を舞う。7日取引終了後に発表した19年3月期の連結業績予想では、売上高は前期比0.1%増の9200億円とほぼ横ばい予想ながら、営業利益が同2.1%増の250億円、最終利益は同5.6%増170億円と増益を見込む。魚価の上昇効果に加え、海外水産物事業などが寄与する見通しだ。会社側では「(家庭用冷凍食品ついて)商品開発力、生産体制の強化及びブランド認知の向上を図り自社工場商品を中心とした販売に注力し、売上拡大と利益率の改善を進める」としている。

水産大手の同社は、水産資源の枯渇が問題になるなかマグロ、カンパチ、ブリの養殖を推進しており、この分野においても折に触れて株価を刺激しそうだ。

●ギョーザで競う味の素、イートアンド

前述の実態調査では、「1年前に比べ、利用頻度が増えた冷凍食品」として、生鮮野菜の高騰時期に調査が重なったことから女性では「冷凍野菜」との回答が最も高かったが、男性では「ギョーザ」が最も多く、「ピラフ・炒飯」が続く。女性の回答でも「ギョーザ」が2位につけており、冷凍食品でのギョーザ人気は群を抜く。

そのギョーザ人気を牽引するのが調味料大手の味の素 <2802> だ。同社は、冷凍食品にも注力するが、なかでもギョーザについてはテレビコマーシャルなどで大きく攻勢に出ている。同社の株価は、3月23日に1853円で年初来安値をつけたあと上下動を繰り返しながらもジワリ上値慕い。10日の取引時間中に2500万株(発行済み株数の4.39%)、400億円を上限とする自社株買いを発表したことを受けて後場に入り株価は急伸したものの、翌11日には利益確定売りに“往って来い”の状況に。きょうは切り返し、ここから上昇波動に復帰するか要注目。自社株買いと同時に発表した19年3月期連結業績予想は、売上高が前期比2.9%増の1兆1840億円、純利益は同0.4%増となる610億円を見込んでいる。

ギョーザではイートアンド <2882> が、巨人・味の素に立ち向かう。同社は「大阪王将」など外食事業に加え、冷凍食品ではギョーザ、から揚げ、炒飯、中華丼など約100種類のラインアップを展開している。特に、「大阪王将羽根つき餃子」は人気で売り上げを伸ばす。8日には「水無し・油無しで羽根つきの餃子ができる冷凍食品(餃子羽根形成剤)に関する特許を2月に取得した」と発表している。同社は8日大引け後に発表した18年3月期の連結経常利益は前の期比30%増の7億4300万円に拡大し、19年3月期も前期比14%増の8億4600万円に伸びる見通しとなった。薄商いは難点だが、目を配っておきたいところだ。

このほか冷凍食品に絡む銘柄では極洋 <1301> 、プリマハム <2281> 、東洋水産 <2875> などの動向も気にかかるところ。米飯、フライ、中華総菜など多くのラインアップを揃える日本ハム <2282> は10日大引け後に決算(米国会計基準)を発表。18年3月期の連結税引き前利益は前の期比2.7%増の504億5500円となったが、国際会計基準に移行する19年3月期は4600億円の見通しとなった。同時に、今期の年間配当は90円とし、3月31日実施の株式併合を考慮した実質配当は15.1%減配とする方針としている。株価は、翌日の前週末には大きく売られているが、ここからの動向には注視したい。

●伊藤ハム米久HD、第2の柱へと成長加速

チルド食品の分野では伊藤ハム米久ホールディングス <2296> が好調だ。株価は、3月2日に865円まで売られ年初来安値を更新、その後はジリジリと上昇し、9日場中に発表した19年3月期の連結業績予想を受けて1042円まで急動意、1月10日につけた年初来高値1063円を射程に捉えている。売上高は前期比2.2%増の8500億円、営業利益は同6.7%増の230億円と増収増益を見込んでいる。高品質・高付加価値商品の開発と値頃感のある商品の投入により、ハム・ソーセージや調理加工食品など加工食品事業で増収増益を見込むほか、食肉事業も堅調に推移する見通しだ。

同社では「当社は、どちらかというとチルドメーカーだが、今後もこの分野へ注力していく方針だ。足もともハム・ソーセージよりも調理加工食品の売り上げ伸長率のほうが高く、第2の柱へと成長を加速させたい。コンビニ向けといった新しい販路も堅調だ」(経営企画部IR室)という。

なお、水産冷凍食品大手の日本水産 <1332> は、きょう午後1時ごろに19年3月期の連結業績予想を発表した。売上高が前期比2.2%増の6980億円、営業利益は同6.3%減となる220億円、純利益は同7.7%減の160億円と営業減益を見込んでいることが嫌気され、後場急落している。国内は日水本体を中心に増収増益と見込むものの、南米で鮭鱒養殖事業の数量減や市況軟調により、収益が悪化する見通しで、カバーが難しいとみている。また、欧州でも主原料である白身魚価格高騰などのコスト増の影響があり、減益を余儀なくされる見通しだ。

足もとでは、円安進行と原料高騰が重しになっている冷凍食品業界だが、こうした状況を受けてジワリ値上げ機運も浮上している。さまざまな社会的背景を追い風に拡大を続ける冷凍食品市場、成長路線はもはや社会のニーズそのものと言えそうだ。

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