激化“貿易戦争”と半年ぶり安値「金」の向かう方 <コモディティ特集>
―欧米金利差拡大でドル高継続観測も重荷、安値では実需筋の買い観測―
金(ゴールド)は米中の貿易戦争に対する懸念による商品全面安に加え、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しによる ドル高を受けて一段安となり、2017年12月以来の安値1,255ドル(ドル建て現物価格ベース)をつけた。欧州中央銀行(ECB)が来年夏まで金利を据え置く方針を示しており、欧米の金利差が拡大するとドル高が続くとみられる。
ただ、米朝首脳会談で朝鮮半島の非核化に合意したことから、トランプ米大統領は政策の中心を通商問題に移し、強硬姿勢を貫いている。米経済は堅調だが、貿易戦争の激化が2019年のショック要因になるとの見方も出ている。金は現在の水準で下げ止まるのか否かを検証する。
●金は米FRBの利上げ見通しが圧迫要因
6月12~13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では0.25%利上げが決定され、年あと2回の利上げ予想が示された。合計で年4回となり、タカ派の内容となった。また、14日のECB理事会では量的緩和(QE)を、今年9月以降は月間150億ユーロに縮小し、年内で終了する方針を決定したが、来年夏まで金利を据え置くとの見通しが示された。
一方、ポルトガルのシントラで18日からECBフォーラムが開幕した。この席上でパウエルFRB議長は、労働市場が過度に引き締まる兆候は見られないとした上で、FRBは緩やかな利上げを継続すべきとの考えを示した。ドラギECB総裁は、利上げの判断はインフレ率の上昇に合わせて「忍耐強く」かつ「段階的に」行う考えを明らかにした。欧米の金利差が拡大するとドル高が進みやすく、金の圧迫要因になる。ドル指数は21日に11カ月ぶりの高値95.53をつけた。
●貿易戦争に対する懸念が強まるもドル高が継続
トランプ米大統領は15日、中国からの総額500億ドルに上る知的財産権およびハイテクに関連する製品に対して、25%の輸入関税をかけると明らかにした。中国が翌日に報復措置を取ることを発表すると、米大統領は2,000億ドル規模の中国製品に対し、10%の追加関税を課すと警告した。
また、欧州連合(EU)の欧州委員会は20日、米国の鉄鋼・アルミニウム輸入関税への対抗措置として、22日から農産物などの米製品に25%の関税を課すと発表した。米大統領がEU内で組み立てられた全ての自動車に対し、20%の関税を課すと警告したのに対し、欧州委員会のカタイネン副委員長は「もし米国が輸入関税引き上げを決定すれば、われわれも対抗する以外に選択肢はない」と表明した。
貿易戦争の激化の兆しが出たことをきっかけに商品全面安となり、金もレンジを下放れ、売り圧力が強まった。これまで貿易戦争に対する懸念が強まるとドル安に振れたが、リスク回避の動きが強まったことを受けてドルが逃避先となる場面も見られた。需要減少懸念に加え、ドル高継続なら金は引き続き下値を試すとみられる。
一方、米政府が中国資本の投資抑制を計画していると伝えられたことに対し、ナバロ国家通商会議(NTC)委員長が「通商政策は誤解されている。中国からも他国からも米国への投資を規制する計画はない」と述べた。またハセット大統領経済諮問委員会(CEA)委員長が「不透明なのは市場にとって良くない。米国は中国やEUが関税を引き下げるための良い策を持っている」と述べ、貿易戦争に対する懸念が一服する場面も見られた。
当面は米大統領の強硬姿勢が交渉で譲歩を引き出す目的のものなのか、保護主義を貫くものなのかを確認したい。米経済成長率が4%に達するとの楽観的な見方も出ているが、貿易戦争が激化すれば米経済が急減速し、ドル安に転じる可能性も出てくる。
●金ETFから投資資金流出も実需筋の買いが下支え
金の独自材料では、ETF(上場投信)から投資資金が流出し、圧迫要因になっているのに対し、実需筋の安値拾いの買いが入り始め、下支え要因になりつつある。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は6月に入り22.40トン減少し、26日に824.63トンとなった。25日に820.21トンまで減少したのち、26日に安値拾いの買いが入っており、投資資金の流出が止まるかどうかが当面の焦点である。
一方、現物市場では、金が6カ月ぶりの安値をつけたことを受けて安値拾いの買いが入った。インドの金プレミアムは1ドルとなり、7週間ぶりのプレミアムとなった。前週は7.5ドルのディスカウント。ただ、多くの宝飾業者は1,250ドル割れの安値を待っていると指摘された。1,250ドル割れの水準で下げ止まるかどうかも確認したい。一方、中国の金プレミアムは5~6ドルで横ばいとなった。人民元の下落に相殺された。
(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)
株探ニュース