危機のシグナル、金の行方――SKEW指数・金銀比価に見える懸念 <コモディティ特集>

特集
2018年9月19日 13時30分

―米中貿易戦争を引き続き注視、SPDRゴールドからは投資資金流出―

の現物相場は8月16日につけた2017年1月以来の安値1160.82ドルが当面の安値となり、値固めに転じた。米連邦準備理事会(FRB)の利上げ見通しや米中の貿易戦争で ドルが買われやすいことが圧迫要因だが、英国の欧州連合(EU)離脱交渉で合意なき離脱に対する懸念が後退し、ポンド主導でドル安に振れたことなどが下支えになった。一方、トランプ米政権は中国の知的財産権侵害に対する制裁関税の第3弾の発動を発表し、中国も報復措置で応じた。米中の貿易戦争激化を受けてドル高が再開すると、金の圧迫要因になる。

●米中の貿易戦争激化で各市場への影響を確認

トランプ米大統領は17日(米国日付)、2000億ドル規模の中国製品に対して10%の追加関税を24日から発動すると発表した。関税率は年末には25%に引き上げられる。この間に米企業はサプライチェーンの調整などを進めることができる、と政府高官は説明している。

米政権は、中国が報復措置を取るなら即座に2670億ドルの中国製品への関税を検討しているという。米政権は既に2回にわたり合計500億ドル規模の中国製品に追加関税を課している。一方、中国政府は米国による対中追加関税の発表を受け、ワシントンに通商代表団を派遣しない見込みとなった。中国財政省は18日、米国の追加関税への対抗措置として約600億ドル相当の米国製品に関税を課すと明らかにした。米中の貿易戦争は米国の対中輸入総額が5000億ドル、中国の対米輸入総額が1300億ドルで米国有利とみられており、ドル高に振れやすい。

ただ、全米貿易協議会(NFTC)のルーファス・エルサ会長は、「トランプ政権は一部業界の懸念に対応したようだが、多くの米企業や消費者にとっては今回の措置は依然、コストの急増と不確実性の大幅な高まりを意味する」と指摘した。米中の貿易戦争が長期化し、企業への悪影響が出ると、株安に振れる可能性も出てくる。

ブラックスワンやテールリスクが起こる可能性を示す指標であるシカゴ・オプション取引所(CBOE)のSKEW指数が150を突破し、史上最高値をつけた。これはS&P500種株価指数のアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のプット・オプションの需要が、コールに対して急増したことを示しており、米株安に対する警戒感が強まっている。一方、投資家心理の「恐怖指数」として知られるCBOEのボラティリティー指数(VIX)は落ち着いた水準にあり、相場に大きな上昇余地があるとは単にみていないだけとの見方もある。

他の材料では、米国とカナダの北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が難航し、月末まで継続される可能性が示された。米国とメキシコのNAFTA再交渉は8月に合意に達しており、カナダとの協議の行方を確認したい。また、日米通商協議(FFR)の第2回会合が、21日を軸に開催される方向である。FFRが厳しい状況になると、リスク回避で円高に振れる可能性もある。

一方、新興国市場ではトルコ中央銀行が利上げを実施した。ただ、同国のエルドアン大統領は、中銀と高金利に対する自身の忍耐には限度がある、と述べており、トルコが通貨危機を回避できるかどうかも焦点である。

●ファンド売りや投資資金流出が圧迫要因

金の内部要因では、ニューヨーク先物市場でファンド筋の売り圧力が強い。米商品先物取引委員会(CFTC)建玉明細報告によると、9月4日時点で大口投機家はニューヨーク市場で金先物を1万3497枚売り越し(前週3063枚売り越し)となり、2001年12月以来の高水準となった。11日時点は7590枚に縮小したが、25~26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げが見込まれており、ファンド筋の売り方針に変わりはないとみられる。

一方、世界最大の金ETF(上場投信)である SPDRゴールドの現物保有高は17日時点で742.527トンとなり、8月末の755.158トンから減少し、投資資金の流出が続いている。ただ、SKEW指数の上昇で米株安に対する警戒感が高まっており、金が見直されるとETFに投資資金が戻る可能性もある。

●金銀比価一段高で危機に対する懸念

金銀比価が85まで上昇し、1993年9月以来の高水準となった。通商問題や新興国市場に対する懸念で先行き警戒感が強いなか、銀が割安となっている。ただ、比価は1990年代半ばからおおむね40~80で推移し、80を超えたのは4回しかない。金銀比価が上昇するのは、世界的な金融危機に対する懸念が高まった時期に一致している。2000年前後のITバブル崩壊、2008年のリーマンショック、2015年のギリシャ危機に比価が上昇した。今回は通商リスクの高まりを背景に上昇しており、現在の状況が何らかの危機に発展するかどうかを確認したい。また、米連邦準備理事会(FRB)の利上げなどを受けて新興国市場から投資資金が引き揚げられ、MSCI新興市場指数は1月高値からの下げ率が20%を超え、弱気相場入りした。

金はドル高や米連邦準備理事会(FRB)の利上げなどが圧迫要因であり、上値の重い状況が続く見通しである。ただ、ファンド筋の売られ過ぎの見方が出るなか、SKEW指数の最高値更新や金銀比価一段高、MSCI新興市場指数の弱気相場入りなど、各市場で警戒感が強まっている。何らかの危機が表面化し、株価が急落すると、金が見直される可能性も出てくる。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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