アトラエ Research Memo(2):独自のサービスで業績拡大を続けるHR Techのリーディングカンパニー

特集
2018年9月19日 16時02分

■会社概要

1. 会社概要

アトラエ<6194>は、人工知能(AI)やビッグデータ解析技術等のテクノロジーを活用することにより求職者と求人企業の最適な人材のマッチングを行うインターネット会社で、テクノロジーとHRを組み合わせたHR Techの領域ではリーディングカンパニーである。

同社では時代の変化に適応したサービスを次々と生み出し続けられるような組織文化、ノウハウの蓄積を意識している。事業の運営単位を常にフラットでミニマムに保ち、ベンチャーらしいスピード感・変化適応力を維持し、メンバーの経営意識、責任感を高め、社会に提供する価値の最大化を図っている。

2. 沿革

2003年10月に現代表取締役の新居佳英(あらいよしひで)氏が、同社の前身である株式会社ユビキタスコミュニケーションズを設立したことが同社の始まりである。2005年4月に株式会社I&Gパートナーズに社名を変更し、同氏が長年経験してきた、アナログに人が仲介するためクローズドで高額だった従来のHR領域のサービスを変革した。これがオープンで安価に価値を提供する求人メディア「Green」である。従来は広告型求人メディアが全盛であったが、2006年7月に成功報酬型ビジネスモデルとして、求人メディア「green」(2011年9月のWebサイトの全面リニューアルを機に「Green」へサービス名称を変更)のサービス提供を開始した。以後、サイトの機能強化、リニューアル、モバイルサイトでの提供開始などを経て、同社の強みの1つとなっている独自の転職活動・採用活動に関する膨大なデータを蓄積することにより、事業規模を拡大してきた。

そして、2014年7月には「世界中の人々を魅了する会社を創る」というビジョンを掲げ、「アトラエ※」という社名に変更した。

※スペイン語で魅了する・惹きつけるという意味を持つatraer(アトラエール)の第三人称活用形

2016年1月には完全審査制AI ビジネスマッチングアプリ「yenta」のサービス提供を開始し、同年10月には組織改善プラットフォーム「wevox」のサービス提供を開始した。なお、「yenta」については2017年3月に有料プランをリリースし、「wevox」については2017年5月に正式リリースするなど、「Green」以外のサービスも徐々に充実しつつある。

なお、資金調達と会社の知名度・認知度の向上を目的として、2016年6月に東京証券取引所マザーズ市場へ上場した。また、株式の流動性向上と、投資家層の拡大を目指し、2017年4月に1:3の株式分割、2018年4月にも1:3の株式分割を実施している。

2018年6月には東証一部市場に市場変更し、知名度・認知度の更なる向上を図る。なお、同月に新株式発行を行い、約13億円の資金を獲得しており、2019年9月期、2020年9月期での広告宣伝、人材採用、システム開発等、更なる事業拡大の準備をしている。

3. 事業環境

同社を取り巻く事業環境を見ると、2010年代の後半から2020年にかけて、産業界では大型のIT関連投資が続くことや、情報セキュリティ等に対するニーズの増大により、IT人材の不足が改めて課題となっている。また、ビッグデータ、IoT等の新しい技術やサービスの登場により、今後ますますIT利活用の高度化・多様化が進展することが予想され、中長期的にもIT人材に対する需要は引き続き増加する可能性が高いと見込まれる。しかし、我が国の人口減少に伴い、労働人口(特に若年人口)が減少することから、今後、IT人材の獲得は現在以上に難しくなると考えられる。つまり、IT需要の拡大にもかかわらず、国内の人材供給力が低下することから、IT人材不足は今後より一層深刻化する可能性が高い。

経済産業省のIT関連産業の産業人口に関する将来推計によると、2015年時点で約17万人のIT人材が不足しているが、今後IT人材の供給能力が2019年をピークに低下するにもかかわらず、ITニーズの拡大によりIT市場は拡大を続けるため、IT人材不足は一段と深刻化し、2030年には約59万人まで人材の不足規模が拡大すると予想している。

また、「IT/通信業」の転職求人倍率は、全体の求人倍率を大きく超えているという傾向もあり、「Green」の求人企業の多くが属するIT/インターネット業界におけるエンジニアの人材需要は大きいと思料される。

4. 強み

(1) 独自の組織論

同社は、サービスライフサイクルの短いインターネットの世界においては、時代の変化に適応したサービスを次々と生み出し続けられるような組織文化やノウハウの蓄積こそが、企業としての永続性を実現できるカギになると考えている。また、事業の運営単位を常にフラットでミニマムに保つことで、ベンチャーらしいスピード感、変化適応力を維持し、メンバーの経営意識、責任感を高めることで、社会に提供する価値の最大化に挑戦し続けている。

具体的には、肩書という概念をなくしチーム(プロジェクト)単位で働く完全フラットな組織、勤務時間や場所の管理はメンバー一人ひとりに任されるなど、ルールをミニマム化し、一人ひとりが参画意識を高め、高い責任と裁量を持って自発的に働ける環境を創り出している。

これらの取り組みにより、若くて有能な人材が高いモチベーションとロイヤリティを持って、長期にわたり働き続けることが可能となっており、結果として生産性が高く長期的な競争力を有する組織になっていると考えられる。

なお、同社では、同社独自の組織論を具体化するための1つの施策として、2016年11月17日に在籍する全社員に対して、日本の上場企業として初めて特定譲渡制限付株式を交付することを決定、同年12月8日に交付した。社員一人ひとりがより高い経営への参画意識を持ち、全社員が中期的な視点に立った企業価値向上という本質的な価値を追求することが狙いである。なお、同社では2017年11月にも2回目の特定譲渡制限付株式の発行を行っており、エンゲージメントの向上につなげている。

(2) ビッグデータの蓄積、解析及び活用

同社では求職者並びに求人企業に関するプロフィールデータ、アクションデータ及び選考データ(登録、応募、書類選考通過、内定等)などを10年以上に渡り独自に蓄積してきた。従来のキャリアアドバイザーによる属人的かつ労働集約的なマッチングをテクノロジーやビッグデータの活用で、より効率的かつ効果的に、人を介さずに高い書類選考通過率(マッチング精度)を実現している。このことが人材紹介市場における同社の優位性の確立につながっている。

5. 競合

広義の意味での競合企業としては、(株)リクルートキャリア、(株)インテリジェンスなどを始めとする人材紹介会社やそれらによって運営されている求人メディアなどを挙げられる。既存の企業が多く、参入障壁が低いため新規参入企業も多く、激しい競争が繰り広げられているが、ビッグデータ解析によるマッチング精度の向上が、同社の競争優位性を高める差別化要因として働いている。

6. リスク

同社では、事業上のリスクとして、求人企業の採用ニーズの悪化を最大のリスクとして考えている。同社はリーマン・ショックを乗り越えた経験を有しており、それ以降コストの変動費化を図るとともに、景気に左右されにくい経営管理体制を整備・構築している。しかし、主力サービスの「Green」は、IT/Web 業界を中心とした人材採用支援を行っており、求人企業の雇用水準が低迷した場合には、同社業績に影響を及ぼす可能性も考えられる。

また、売上構成がほぼ「Green」への一極集中となっており、「Green」を上回る競合が発生し「Green」のシェアが低下した場合、全社の売上が落ち込む可能性がある。しかし、既に「wevox」のマネタイズが始まっており、2019年9月期には「yenta」のマネタイズも開始されると見込まれ、売上構成上のリスクは低減が図られる見込みである。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 内山 崇行)

《SF》

提供:フィスコ

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