霧晴れぬ世界経済、金は一段高の可能性も <コモディティ特集>

特集
2019年2月13日 13時30分

のドル建て現物相場は今年に入り、ドル高を受けて調整局面を迎える場面も見られたが、1月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控えて押し目を買われると、テクニカル要因の買いを巻き込んで一段高となり、1月31日に昨年4月以来の高値1325.91ドルを付けた。FOMC後はドル高を受けて再び調整局面を迎えたが、米政府機関の再閉鎖や米中の通商協議に対する懸念が下支え要因になった。世界的な景気減速懸念や、英国の欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」が警戒されることも支援要因であり、ドル安に振れると、金は逃避買いが入って一段高になるとみられる。

●米FRBの利上げ休止観測が強い

1月末のFOMCではフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25~2.50%に据え置くことを決定した。声明では、米経済見通しを巡る不確実性の高まりを挙げ、年内の一段の利上げに忍耐強くある姿勢を示した。また、米連邦準備理事会(FRB)のバランスシート縮小は予想より早い段階に終了される可能性があることが示唆された。

FOMC声明がハト派の内容となったことを受けて為替はドル安に振れたが、欧州の景気減速懸念が高まるなか、米雇用統計で労働市場の堅調が示されたことをきっかけに再びドル高となった。

国際通貨基金(IMF)は欧州や一部の新興国市場の低迷を指摘し、2019年と20年の世界経済成長率見通しを下方修正した。また、貿易摩擦が解決されなければ鈍化しつつある世界経済を一段と揺るがしかねないとの見方を示した。ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁も、経済に対する向かい風は増大しているとの認識を示し、成長に対するリスク評価を下方修正しており、ユーロ安が進みやすい。

ECBの利上げ時期に関しては、同総裁が「市場はECBのフォワードガイダンスの付帯条件を踏まえ、2020年に利上げが開始されるとの予想を織り込んでおり、市場がECBの政策反応機能を理解していることを示している」と述べた。一方、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のフェドウォッチによると、米短期金利先物市場で11日時点の年末のFF金利の誘導目標水準は2.25~2.50%と金利据え置きの確率が85.8%となっている。また、2.00~2.25%の確率は11.2%、2.50~2.75%は2.7%となった。1ヵ月前は景気の行方次第で利下げ・利上げの可能性が残っていたが、現時点では利下げが意識される内容である。

●米中協議、米政府機関の再閉鎖も焦点に

米中の通商協議が北京で再開され、11日に次官級の協議が始まった。14~15日には両国高官が会談する予定となっている。ただ、トランプ米大統領が通商協議の期限である3月1日までに習近平国家主席と会談する計画はないことを確認したと伝えられると、協議に対する先行き懸念が高まった。

知的財産権や技術移転など中国の構造問題で合意できるかどうか不透明感がある。合意できなければ3月2日から2000億ドル相当の中国製品に対する関税率が10%から25%に引き上げられる。世界的な景気減速懸念が高まると、株安に振れ、金に逃避買いが入るとみられる。

目先は15日に期限切れとなる暫定予算の行方も焦点である。米政府機関の再閉鎖回避に向けて国境警備問題を巡り協議している超党派委員会は、国境の壁予算は13.75億ドルで原則合意したと報じられており、15日までにまとまるかどうかを確認したい。格付け会社ムーディーズは、米政府機関が再び閉鎖に追い込まれれば、米経済により深刻な影響が及ぶ恐れがあるとの見方を示している。

●英国のEU離脱で「合意なき離脱」の可能性残る

英国の欧州連合(EU)離脱に関して、1月に英議会がメイ英首相の離脱協定案を大差で否決し、先行き懸念が強い。英国のEU離脱を3月末に控えるなか、「合意なき離脱」の可能性が残っている。

英議会が1月29日、EU離脱に関する複数の修正案を採決し、アイルランドとの国境問題に関するバックストップ(安全策)を代替措置に置き換えることを求める案を賛成多数で可決し、英首相は7日、EUに修正を要求したが、EU側は「再交渉はしない」として拒否した。

一方、EU側のバルニエ首席交渉官と英国のバークレイEU離脱担当相が11日、協議した。バルニエ氏は協議後、「EU側としては、離脱協定の再交渉は行わないが、今後数日かけて協議を続ける姿勢を明確にしている」と述べた。メイ首相は、13日までに「意味のある採決」ができる修正案を持ち帰れない場合には、議会が14日に離脱について審議するのを認めるとした。

メイ首相は14日までにEUから修正を引き出せない見通しであり、議会が首相案に代わる案をまとめられるかどうかが焦点である。イングランド銀行(英中央銀行)は、英国のEU離脱を巡る不確実性や世界的な景気減速を踏まえ、2019年の英国の経済成長率予想を10年ぶりの低水準に下方修正した。

●昨年の中央銀行の金購入は過去2番目の高水準

金の内部要因では、米雇用統計発表後のドル高を受けて金ETF(上場投信)から投資資金が流出し、上値を抑える要因になった。世界最大の金ETF(上場投信)であるSPDRゴールドの現物保有高は1月31日時点の823.87トンが目先のピークとなり、11日時点は802.12トンに減少した。ただ、金強気の見方が広がっており、どのタイミングで買い直されるかが当面の焦点である。

一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告の発表は、米政府機関の一部閉鎖の影響で遅れたが、2月に入り閉鎖が解除されると順次発表された。ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは昨年12月31日に12万3772枚まで拡大しており、買い意欲が強い。11月末は1871枚の買い越しだった。

金の需給では、ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の発表によると、昨年の中央銀行の購入が651.5トンとなり、過去2番目の水準となったことが明らかとなった。ここ数年、ロシア、カザフスタン、トルコの購入が多く、昨年はポーランド、ハンガリー、インドが加わった。

ハンガリーは昨年10月、短期的な投資目的ではなく長期的な安定を理由に、金準備を10倍に増やしたと説明した。中銀は外貨準備を分散化し、ドル一辺倒から脱するための予防措置を講じている。

(minkabu PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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