植草一秀の「金融変動水先案内」 ―連休中、連休後のビッグイベント

市況
2019年4月27日 8時30分

第9回 連休中、連休後のビッグイベント

植草一秀(スリーネーションズリサーチ株式会社 代表取締役)

●立て込む重要日程

10連休を終えると金融市場はすでに新元号の時代に移行しています。金融市場の10連休は一種の市場閉鎖で、投資家にとっては大きなリスク要因になります。幸いなことに現在の金融市場は落ち着いていますが、昨年末のような状況であれば連休前の混乱は深刻なものになっていたと思われます。金融市場の取引日程については別のカレンダーを用意することを検討する必要がありそうです。

さて、連休前、連休後に重要なイベントが多く散りばめられています。連休の入り口では日米首脳会談が米国・ワシントンで、中ロ首脳会談が中国・北京で開催されます。連休中の5月3日には4月の米雇用統計が発表されます。連休が終わると日本の重要経済統計が発表になります。5月20日に1-3月期GDP統計が発表され、7月1日には日銀短観6月調査結果が公表されます。

6月末には大阪でG20サミットが開催され、中国の習近平主席、ロシアのプーチン大統領の訪日が見込まれています。日米間では新たに通商協議が始まりました。日本政府はTAGと表現して「物品貿易」に限定した協議だとしていますが、米国は「物品」以外に「サービス」や「制度」を含んだFTAと位置付けており、日本の主張はなし崩しにされる可能性が高いと見られています。

これらのすべての国に関わるもう一つの問題が米朝協議です。2月末のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談は物別れに終わりました。米朝協議が決裂してしまうのか、それとも、新たな進展が見られるのかは、他の外交交渉にも影響を与える重要性を帯びるものになっています。

●株価下落要因の一斉転換

筆者は昨年来の内外株価調整の主因として、(1)米国金融引き締め政策、(2)米中貿易戦争、(3)日本増税政策の三つを挙げてきました。昨年10~12月にグローバルな株価急落が進行した局面では、三つの要因がすべて株価下落を後押しする方向に動いていました。この動きは、昨年12月のFOMCでFRBが2019年に2回、2020年に1回の追加利上げを行う見通しを示したときに最高潮に達しました。

FRBのパウエル議長は米国金融引き締め加速が世界経済の重大リスクになる点を認識して、政策運営を修正する方針を示しました。パウエル議長が路線転換を示唆した1月4日の発言を契機に、グローバルに株価反発が広がりました。上海総合指数は昨年3月の米中貿易戦争勃発から10ヵ月間の株価下落推移を示しましたが、パウエル発言を契機に反発に転じたのです。

これは、1月以降に米中通商交渉が妥結に至るとの観測が強まったことにも支えられました。さらに、中国政策当局は、大型減税ならびに大型インフラ整備事業の実施、金融政策運営の緩和への転換を表明し、中国株価が急反発したのです。筆者が執筆している会員制レポート『金利・為替・株価特報』では、昨年末に中国株価の妙味が最も大きいことを指摘しましたが、上海総合指数は今年に入って35%の急騰を演じることになりました。

●焦点の消費税増税

日経平均株価もパウエル発言を契機に反発し、4月末まで堅調な推移を示してきましたが、 NYダウに比較すると株価反発力が鈍いことが分かります。昨年10月来の日経平均株価下落の3分の2戻りの水準が2万2615円ですが、この水準に到達できていません。

最大の理由は日本経済が下り坂に転じており、本年10月に消費税増税が実施されると、景気後退に移行する可能性が極めて高いことです。4月26日に発表された3月の鉱工業生産指数も前月比マイナスになり、1-3月の鉱工業生産指数は昨年10-12月期よりも2.6%も落ち込みました。5月20日発表の1-3月期実質GDP成長率がマイナスに転落する可能性は高く、場合によっては2018年度成長率がマイナスに転じる恐れもあります。

この状況下での消費税増税強行は日本経済を深刻な不況に陥れることにつながると考えられます。こうした事情から、安倍内閣が三度目の消費税増税延期を決定する可能性が高まっています。筆者はその可能性が高いことを予測してきましたが、自民党の萩生田幹事長代行が増税延期を示唆したことによって、強い現実味をもって考察されるようになっています。

安倍内閣が消費税増税延期を決定する場合には衆議院解散・総選挙が実施される可能性が高いと見られます。本年は参議院議員通常選挙が実施される年ですが、これが衆参ダブル選になる可能性があります。この場合、投票日は6月30日から8月25日まで、多くの可能性が考えられます。

●米中ロの狭間に位置する日本

消費税増税延期は日本の消費市場の暗雲を取り払う効果を発揮することになるでしょう。消費関連セクターへの影響が注目されます。また、日ロの平和条約締結機運は低下していますが、歯舞、色丹が日本に引き渡された場合に米国が二島に米軍基地を設置しない保証を与えるなら、日ロ交渉は一気に進展する可能性があります。4月末の日米首脳会談では、この点も論議の対象になる可能性があります。交渉進展の見方が浮上するとロシア関連企業が注目されることになるでしょう。

注意するべきは米国株価の推移です。5月3日には4月米雇用統計が発表されます。金融市場の空気はたったひとつの雇用統計によって様変わりすることがあります。NYダウは新高値を取ることができるかどうかの分岐点に差しかかっています。株価上昇は米中貿易戦争収束を前提にしたものと考えられ、交渉妥結が材料出尽くしの効果を発揮する可能性もあります。

2月末会談で物別れに終わった米朝協議ですが、北朝鮮が中国、ロシアを後ろ盾にする戦術を鮮明にしており、これが効を奏して交渉が前進するのか、それとも米国の反発が強まり、元の緊張関係に逆戻りしてしまうのか。この点にも細心の注視が求められることになります。連休中に重要要因をひとつずつ、丁寧に考察することが求められます。

(2019年4月26日 記/次回は5月11日配信予定)

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